やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 最近の口腔病理学は著しい発展を遂げ,臨床歯科医学に直結した重要な学問であるとの認識はますます高まりつつあり,その教科内容も整理しなおす時期にきているようである.本書は,現代の口腔病理学の広範な内容を端的にわかりやすく解説し,さらに,口腔病理学と臨床歯科医学との密接な関連を十分に理解していただくよう編纂されたものである.
 このようなことから,本書は口腔病理学を学ぶ歯科大学または歯学部の学生を対象として企画したものではあるが,臨床諸家にも大いに参考になるものと思っている.
 本書の編集にあたっては,口腔病理学の一般的内容の部門(I編)と,臨床歯科医学に関連した部門(II編)の2部門とし,両者の密接な関連を具体的に理解しやすいよう努めた.
 編については,口腔病理学が歯科医学の関連領域に包含される諸組織・器官の病理学各論の一環であるとの原則に基づいて,口腔領域の諸組織・器官あるいは部位を単位とし,それぞれを広義に部位(1〜6章)として取り扱った.しかし,各部位における嚢胞ならびに腫瘍については,各章で記載することは煩雑となるため病変の名称のみを記載し,それぞれに関する内容の記載は,7章および8章に一括して記載した.また 編については 口腔病変と全身疾患との関連,小児および加齢に関する口腔疾患などについて記載した.
 専門用語については,現在わが国において整理中であるため,本書では原則として“歯科医学大事典”(医歯薬出版刊)に準じて用いた.奇形は各病変のなかでそれぞれ取り扱ったことを付記する.
 本書の出版にあたっては 明海大学歯学部内海順夫教授によって数年前に発案されたものであるが,第一回編集会議においてわたくしが編集の任を仰せ遣った次第である.
 なお,わたくしが執筆担当した8章の執筆者に編集当初執筆者に名を連ねていなかった当講座の武田泰典講師を加えさせていただいたのは,本章の作成にあたってたいへんな協力を得たことに端を発しているが,この件については他のご執筆の先生がたが心よくご了承くだされたことによるものであり,ここに厚くお礼を申し上げる.
 編集を終えるにあたり 発行にご尽力いただいた医歯薬出版株式会社社長三浦裕士氏に心から感謝を申し上げる次第である.
 1989年3月25日 鈴木鍾美

第2版 序

 本書が1989年4月に第1版が刊行されてはや7年が経過した.
 この間,歯科医学の進歩と社会問題への対応を目的として1989年7月に「歯科医師国家試験出題基準」が大幅に改定された.
 これに関連して1975年6月に発行された「学術用語集・歯学編」(文部省)も1992年11月に増訂版としてその内容の充実・改訂が行われた.また,1947年にわが国ではじめて設定された「歯科教授要綱」も1967年と1984年にその内容の改定が行われたが,1993年には歯科大学学長会議によりその名称も「歯科医学教授要綱」と改められ,翌1994年には,さらにその内容の修正・改定が行われ,今日に至っている.
 これらの変遷とともに口腔病理学の分野においても,WHO国際腫瘍組織学的分類のうち,唾液腺腫瘍(1991),歯原性腫瘍(1992)などの内容の改訂が行われている.
 このような環境の下で本書の改訂が迫られたわけであるが,出版社のご理解を得て今回本書の改訂を行えることは誠に有り難い限りである.
 したがって,今回の改訂では,各分担執筆者がそれぞれの分担責任と協力のもとに,下記の点に重点をおいて行った.すなわち,
 第1版の内容の不備な点を補填し,また,“I編3章 顎骨と顎関節の病変“のうち“II.顎関節の病変”については全面改訂を行った.
 1994年に改定された「歯科医学教授要綱」の内容に準じて,“II編 臨床と口腔病理“の“2章 口腔の創傷”に新しく“口腔インプラントの病理”の項を追加した.この項については,わが国の口腔病理学の教科書の内容として,現在まで詳細な記載がみられないことから,本書では実験病理学的資料をもとに,これらを病理学総論的・臨床病理学的に解説した.
 第1版で〔付〕として扱っていた“病理検査”については,その内容を臨床に関係の深い生検などの臨床病理学に重点を置き,新しくII編の6章として大きく扱った.
 唾液腺腫瘍と歯原性腫瘍については,WHO国際腫瘍組織学的分類を基にその内容を改訂・整理した.
 第1版での文章・図などについては,さらに理解しやすいように,判りやすいよいものに差し替え・追加を行った.
 専門用語は,現行の歯科医師国家試験に対応できるように,「学術用語集・歯学編(増訂版)」(文部省,1992)を基に統一・記載した.
 しかしながら,この「学術用語集」は,現在,口腔病理学で使用している用語ならびに今回の改訂に関連した口腔インプラントに関する用語についての全容の記載が不完全であり,また,新WHO国際腫瘍組織学的分類の歯原性腫瘍・唾液腺腫瘍分類名の一部のものについてはいまだに公的に認証されていない用語が自由に用いられているのが現状である.このようなことから,本書においては,口腔インプラントに関しては,「歯科医学大辞典」(医歯薬出版株式会社,1987)および「口腔インプラント学用語辞典」(医歯薬出版株式会社,1991)を,また,歯原性腫瘍に関しては,「WHO歯原性腫瘍の組織学的分類」(日本口腔病理学会編,医歯薬出版株式会社,1996)の和訳を,さらに唾液腺腫瘍に関しては,現在まで用いられている用語などを参考として独断的に検討・選択したものを,それぞれ用いて記載したことを付記する.
 今後とも本書を臨床歯科医学を理解するうえで最も関連深い口腔病理学の参考書として,第1版にも増してご利用いただければ幸いである.
 編集を終えるにあたり,本書の改訂にご理解とご尽力をいただきました医歯薬出版株式会社に衷心よりお礼申し上げる次第である.
 1997年1月10日 鈴木鍾美
第2版序/iii
序/v

概説 鈴木鍾美 ……1
 I.歯科医学における病理学の発展……1
 II.病理学と口腔病理学との関連……2

I編 部位別各論
1章 歯の病変枝重夫 ……5
 I.歯の形成異常……5
   1.大きさの異常……5
   2.形の異常……6
   3.数の異常……10
   4.位置の異常……12
   5.歯列弓の異常……14
   6.咬合の異常……15
   7.萌出の異常……17
   8.形成不全……18
 II.歯の物理的および化学的損傷……22
   1.歯の破折……22
   2.歯の脱臼……23
   3.咬耗……23
   4.磨耗……24
   5.酸蝕症……25
   6.慢性損傷における歯の組織変化……25
 III.歯の沈着物と着色……29
   1.沈着物……29
   2.着色……32
 IV.齲蝕……33
   1.原因……33
   2.分類……36
   3.エナメル質齲蝕……37
   4.象牙質齲蝕……40
   5.セメント質齲蝕……43
 V.象牙質の増生と増齢的変化……44
   1.第二象牙質……44
   2.象牙質粒……46
   3.歯根透明象牙質……48
   4.歯冠部透明・不透明層……48
 VI.歯髄の病変……48
   1.退行性病変……49
   2.歯髄充血……51
   3.歯髄炎……52
   4.内部性吸収……61
2章 歯周組織の病変吉木周作 ……63
 I.根尖性歯周炎……63
   1.急性根尖性歯周炎……63
   2.慢性根尖性歯周炎……66
 II.歯周疾患--歯周病……71
   1.炎症性歯周疾患……71
   2.特殊な歯周疾患……80
   3.その他の歯周疾患……82
 III.機械的因子による歯周組織の病変……88
   1.歯周組織の外傷性変化……88
   2.咬合機能低下または中絶歯の歯周組織の変化……89
   3.歯の矯正移動による歯周組織の変化……90
 IV.根管治療に伴う歯周組織の病変……90
   1.化学的歯周炎……90
   2.根管治療時に起こる歯周組織の病変……91
 V.歯周組織の老人性変化……91
   1.歯肉の老人性変化……92
   2.歯根膜の老人性変化……92
   3.セメント質の老人性変化……92
   4.歯槽骨の老人性変化……92
 VI.セメント質の病変……93
   1.セメント質増殖……93
   2.セメント質粒……95
   3.セメント質の吸収……95
   4.歯根と歯槽骨との強直……97
 VII.歯周組織の嚢胞および腫瘍……97
3章 顎骨と顎関節の病変吉木周作 ……98
 I.顎骨の病変……95
   1.顎骨の奇形……98
   2.顎骨の遺伝性疾患……102
   3.顎骨の萎縮と吸収性病変……105
   4.原因不明の顎骨病変……107
   5.顎骨の骨折……110
   6.ビタミン欠乏および過剰による顎骨の病変……111
   7.内分泌障害による顎骨の病変……112
   8.顎骨の非特異性炎……114
   9.顎骨の特異性炎……120
 II.顎関節の病変……123
   1.顎関節の発育異常……123
   2.顎関節の外傷……124
   3.顎関節の炎症……125
   4.顎関節症……127
   5.顎関節強直症……128
 III.顎骨と顎関節の嚢胞および腫瘍……128
4章 口腔粘膜および舌の病変亀山洋一郎 ……130
A.口腔粘膜の病変……130
    .奇形および形成異常……130
   1.二重唇……130
   2.先天性下唇瘻および口角瘻……130
   3.小帯の発育異常……131
   4.フォーダイス顆粒……132
 II.炎症……132
   1.カタル性口内炎……132
   2.急性壊死性潰瘍性口内炎……132
   3.ジフテリア性口内炎……133
   4.猩紅熱性口内炎……133
   5.糖尿病性口内炎……134
   6.口角びらん……134
   7.再発性アフタ性口内炎……135
   8.ベーチェット症候群……136
   9.義歯性口内炎……136
   10.口腔結核……136
   11.口腔梅毒……137
 III.嚢胞……138
 IV.腫瘍……138
 V.その他の口腔粘膜の病変……139
   1.色素沈着……139
   2.角化異常性病変……141
   3.真菌症……143
   4.細菌感染症……144
   5.ウイルス性病変……144
   6.結合組織病における口腔粘膜病変……147
   7.血液疾患における口腔粘膜変化……147
   8.ビタミン欠乏における口腔粘膜変化……148
   9.皮膚科的疾患……149
B.舌の病変……152
 I.奇形および形成異常……152
   1.先天的無舌症および小舌症……152
   2.大舌症……152
   3.舌着症……153
   4.状舌……153
   5.正中菱形舌炎……153
   6.舌甲状腺……153
 II.炎症……154
   1.ハンター舌炎……154
   2.地図状舌……155
 III.その他の舌の病変……156
   1.毛舌症……156
   2.アミロイド症……156
5章 唾液腺の病変内海順夫 ……158
 I.奇形および形成異常……158
   1.無形成……158
   2.導管の異常……158
   3.位置の異常……159
   4.異所性唾液腺……159
 II.退行性病変と化生……159
   1.萎縮……159
   2.変性……159
   3.化生……160
 III.唾石症……160
 IV.炎症……163
   1.非特異性炎……163
   2.特異性炎……165
   3.ウイルス性炎……166
 V.特殊な疾患……167
   1.良性リンパ上皮性病変……167
   2.シェーグレン症候群……167
 VI.嚢胞……168
 VII.腫瘍……168
 VIII.その他……169
   1.唾液腺症……169
   2.放射線障害……169
   3.唾液腺ホルモンによる影響……169
6章 上顎洞,口底,頚部の病変亀山洋一郎 ……171
 I.上顎洞の病変……171
   1.歯性上顎洞炎……171
   2.術後性上顎嚢胞……171
   3.上顎洞腫瘍……171
 II.口底および口峡部の病変……172
   1.口底蜂窩織炎……172
   2.ガマ腫……173
   3.類皮嚢胞,類表皮嚢胞……173
   4.口底腫瘍……173
   5.口蓋扁桃炎,扁桃周囲炎……174
   6.潰瘍偽膜性扁桃炎……175
 III.頚部の病変……175
   1.リンパ節炎……175
   2.結核症……176
   3.頚部腫瘍……176
7章 嚢胞および嚢胞性病変亀山洋一郎 ……178
 I.顎骨部に発生する嚢胞……179
   1.歯原性嚢胞……179
   2.非歯原性嚢胞……189
   3.その他の嚢胞と嚢胞性病変……191
 II.軟組織に発生する嚢胞……195
   1.類皮嚢胞,類表皮嚢胞……195
   2.鰓嚢胞……195
   3.甲状舌管嚢胞……196
   4.粘液嚢胞……198
8章 腫瘍および腫瘍様病変鈴木鍾美,武田泰典 ……199
 I.歯原性腫瘍……199
   1.良性腫瘍……200
   2.悪性腫瘍……215
 II.非歯原性腫瘍および腫瘍様病変……217
   1.良性腫瘍および腫瘍様病変……217
   2.悪性腫瘍……232
 III.唾液腺腫瘍……242
   1.上皮性腫瘍……242
   2.非上皮性腫瘍……251
   3.転移性腫瘍……252
9章 歯性病巣感染鈴木鍾美 ……253
 I.病巣感染および歯性病巣感染……253
 II.原病巣……253
 III.二次病変……254
 IV.病変の成立機序……254
   1.菌血症によるとのえ方……254
   2.毒血症によるとのえ方……255
   3.免疫生物学的なえ方……255
   4.神経作用によるとのえ方……255

II編 臨床と口腔病理
1章 口腔病変と全身疾患との関連亀山洋一郎 ……259
 I.ビタミン欠乏症……259
   1.ビタミンA欠乏症……259
   2.リボフラビン欠乏症……259
   3.ビタミンB 欠乏症……259
   4.ニコチン酸欠乏症,ナイアシン欠乏症……259
   5.ビタミンC欠乏症……260
   6.ビタミンD欠乏症……260
 II.血液疾患……260
   1.血小板減少性紫斑病……260
   2.鉄欠乏性貧血……260
   3.悪性貧血……261
   4.再生不良性貧血……261
   5.成人T細胞白血病……261
   6.血友病……262
 III.代謝性疾患……262
   1.ポルフィリン症……262
   2.糖尿病……262
   3.尿毒症……263
 IV.内分泌疾患……263
   1.甲状腺機能低下症……263
   2.下垂体機能亢進症……263
   3.アジソン病……264
 V.特異性疾患……264
   1.結核症……264
   2.梅毒……265
 VI.遺伝性疾患……266
   1.先天性異角化症……266
   2.ダリエー病……266
   3.パピヨン・ルフェーブル症候群……266
   4.レックリングハウゼン病……266
   5.ピュッツ・ジェガース症候群……267
 VII.免疫性疾患……267
   1.エリテマトーデス……267
   2.強皮症……268
   3.ベーチェット病……268
   4.シェーグレン症候群……268
 VIII.皮膚科的疾患……269
   1.天疱瘡……269
   2.粘膜類天疱瘡……269
 IX.骨疾患……270
   1.鎖骨頭蓋異骨症……270
   2.パジェット骨病……270
   3.ダウン症候群……270
2章 口腔の傷内海順夫 ……272
 I.傷治の病理概説……272
   1.皮膚,粘膜の傷治……272
   2.骨折の治……274
 II.歯の破折……275
 III.歯髄の傷……276
   1.歯の切削による影響……276
   2.化学的刺激による傷害……277
   3.歯髄覆髄法と歯髄切断法応用による治機転……279
   4.抜髄による傷治……281
 IV.歯周組織の傷……281
   1.根管処置に伴う傷害と傷治……281
   2.歯根尖切除に伴う傷……283
   3.歯肉切除と歯槽骨除去に伴う傷……284
   4.歯の移動に伴う傷……285
   5.外傷性咬合による傷害……286
 V.抜歯の治……288
 VI.口腔粘膜の傷……291
 VII.顎骨骨折……291
 VIII.歯の再植と移植……292
   1.再植……292
   2.移植……293
 IX.口腔インプラントの病理鈴木鍾美 ……293
   1.口腔インプラント法の種類……294
   2.インプラント材料(生体材料)の種類……295
   3.各種インプラント施術後に見られる病理組織学的変化……295
   4.埋入後のインプラント周囲組織の治癒反応の病理学的考察……303
   5.インプラント法の臨床応用への病理学的考察……305
3章 小児の口腔病変内海順夫 ……308
 I.乳歯の病変……308
   1.乳歯の形成異常と着色……308
   2.乳歯齲蝕……309
   3.乳歯の歯髄炎と根尖性歯周炎……309
 II.歯の萌出に伴う病変または萌出異常……310
   1.萌出性歯肉炎……310
   2.萌出嚢胞……311
   3.低位歯……311
   4.乳歯の晩期残存……311
   5.早期萌出と萌出遅延……311
 III.歯の外傷……312
   1.歯の破折……312
   2.脱臼……312
 IV.口腔粘膜の病変……313
   1.ベドナーアフタ……313
   2.リガ・フェーデ病……313
   3.コプリック斑……313
   4.ノーマ……313
   5.幼児の歯肉嚢胞……313
   6.手・足・口病……315
 V.流行性耳下腺炎……315
 VI.全身要因による歯および顎骨の発育異常……315
4章 歯と口腔の老化内海順夫 ……316
 I.口腔と顎骨の年齢的変化……316
   1.歯……316
   2.歯周組織と顎骨……318
   3.顎関節……318
   4.口腔粘膜……319
   5.唾液腺……319
 II.老人の二,三の全身疾患と歯科診療……319
   1.神経性疾患……319
   2.心臓血管系疾患……320
   3.糖尿病……320
5章 補綴に関連した口腔病変内海順夫 ……321
 I.歯の喪失後や無歯顎でみられる病変または異常……321
   1.顎堤および顎関節の変化……321
   2.床下または床縁相当部粘膜でみられる病変……321
 II.義歯の適合に影響を及ぼす病変……322
 III.義歯粘膜負担部にみられる粘膜病変……322
 IV.咬合異常に伴う歯と歯周組織の変化……323
   1.咬合負担過重の場合……323
   2.咬合機能低下または喪失の場合……323
6章 病理検査亀山洋一郎……3251.病理検査の種類……325
   2.病理組織標本の作製過程……328

付1 臨床症状ないし病態からみた疾患の分類…… 内海順夫 ……332
付2 口腔に異常を伴う症候群一覧…… 内海順夫 ……335
和文索引……341
欧文索引……350
参書目……358