やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修のことば

 食品成分表が一家に一冊必要な時代がやってきました.誰もが,食品成分表を毎日自在に使えなくてはいけない時代がやってきたのです.
 臨床栄養学あるいは病態栄養学の進歩は近年格段に著しく,その結果,日常的な多くの疾患において,食事療法抜きの治療は考えられなくなってきたからです.一部の病気では,食事療法が決定的な治療効果をもたらすことすら明らかになってきております.ですから,そのような病気にかかっている方がたが食事療法を実践することが必須であることはいうまでもありません.しかもその際,治療の有効性を確かにするために,摂取栄養素量の制約や負荷がたいへん厳しく要求されるようになり,当然高度で緻密な技法が要求されるようになってきました.
 さらに,日常的な慢性疾患の大多数を占めている生活習慣病のほとんどが,食事の誤りや偏りによって発病したり,増悪したり,治療が困難になったりする要因となっている事実も明らかになってきました.したがって,病気の治療だけでなく,病気の予防のために食事療法を実行すること,あるいは食事習慣を修正することがたいへんに重要となってきました.当然ここでも食事に対する技法が高度であり緻密であることが要求されております.
 このような食事は,入院中に病院給食という形式で受動的にあてがわれる場合もありますが,大多数の場合は,もちろん医師・栄養士の指導のうえではありますが,自宅において,自らの判断と自らの技法で自らが食べる,という方法で実践するのが通常です.それでもその内容にわずかでも不足があったり,過剰があったり,誤りがあったりしてはいけないことはいうまでもありません.また一方,食事療法が著しく有効であるということは,逆に誤っていたり正確性を欠いたりした食事療法は危険を伴うことを意味しております.
 食事療法が正確でなければならないというこの問題は,これからの食事療法において,従来考えられなかった重要な点といってよいでしょう.“たかが食事なのだからある程度できていればよいだろう”というこれまでのおおかたの認識は完全に修正されなければなりません.
 食事療法が正確かつ緻密に実行されるためには,まず何よりも日々摂取する食事の栄養素が正確に測定され,正確に計算されていなければならないということになります.幸い,この栄養素計算は,改めてその方法を学ばなくても,お年寄りから子どもまで,誰でも簡単にできる,きわめて容易な単純作業です.
 しかしそれには,その基礎となる資料が必要になります.日々食べているすべての食品ごとに,それぞれの食品に,どの栄養素が,どのくらい含まれているかが正確に記載された資料です.幸い日本には他の先進国と同様に,古くから正確な資料として「食品成分表」があります.この食品成分表は,わが国では昭和25年に,経済安定本部国民食糧及び栄養対策審議会によって「日本食品標準成分表」としてはじめて作成され,公表されました.その後,科学技術庁資源調査会が担当して3回の改訂を繰り返し,収載食品数も改訂ごとに増え,平成12年11月に現行の「五訂日本食品標準成分表」が公表されました.現在多くの病院で,また一部の家庭で,病気の治療あるいは予防の目的で広く用いられております.
 しかしこの食品成分表は,その利用の目的がきわめて幅広く,私たちの想像を超える領域にまでまたがっております.その目的は,決して食事療法のためだけではないのです.ですから,食品成分表には,幅広いすべての関係領域に役立つように,可能な限り多数の食品が収載され,可能な限り多数の栄養素が収載されております.具体的には,食品収載数は1,882品目であり,栄養素の種類も三大栄養素を含めて36項目にものぼっております.また食品名についても,一般名への配慮がなされてはいるものの,学術上の正式名が基本となっており,私たちにあまり馴染みのない食品名もたくさん載っております.そのようなことから,はじめてこの食品成分表を開いたときは,誰もがその複雑さに目がくらみ,これを利用することが面倒くさいと思うようになり,自分の日常生活の利用には適合しないと考えるに至ってしまう場合が少なくありません.しかし,そんなことが理由で利用されなくなってしまうのでは,この資料の意味がなくなってしまいます.
 私たちの目的は病気の予防と治療にあります.それならば特別な病気は別として,一般的な病気の予防と治療に必要な栄養素だけを選び,そのうえさらに,私たちが普段頻繁に食べる食品だけを選んで,この食品成分表を徹底的に簡単にし,わかりやすく,使いやすくすればよいではないかと考えるのは当然のことです.私たち,本書の監修者と編集者は,長年にわたって日々大勢の患者さんに接して栄養指導を繰り返してきたなかで,常にこの問題点を痛感しておりました.そこでこのたび,糖尿病・高血圧・各種腎臓病・肥満・痛風・肝臓病・心不全・高脂血症・動脈硬化など,日常一般的にみられ,しかも食事療法が非常に重要な意義をもつ病気の患者さんと,その予備軍の方がたやご家族のために,このような病気の食事療法に日常的に高頻度に使われる食品と栄養素だけを厳選して,徹底的に簡略化してみました.
 ところで,標準の食品成分表には,すべての食品について,その食品の可食部(実際に食べる部分)100 g当たりの栄養素量が記載されております.しかし現実には,1日に3 gしか食べない食品もあれば,280 g食べる食品もあったりと,結局簡単な計算ではあっても,これを「100 g当たり」からいちいち換算することが非常に面倒に感じる場合が少なくありません.それなら,食事療法をしている方がたが一般に食べる平均的な量を調べて,その量当たりの栄養素量を記載しておけば,いちいち換算する面倒が省けて,もっと使いやすく,わかりやすくなり,計算も速くなって,食事療法が容易にかつ正確にできるようになるはずです.本書ではこの点にかなりの配慮をいたしました.
 以上のように,この食品成分表は,やさしさ,わかりやすさ,使いやすさを前面に出した食品成分表です.
 このように,本書は,原則として食事療法を実施している患者さんとそのご家族あるいは一般の方がたが容易に対応できることを目標として作成し,非常に簡潔にしましたが,大多数の方がたが日常食する主要食品をほぼ収載しており,大多数の病気の食事療法に必要なおおかたの成分項目を採用しております.したがって,栄養士や医師にとっても利用価値が高く,原本の食品成分表と比較して,少なくとも臨床現場における利用という点では,その内容に遜色がありません.当然,栄養士養成施設における講義や実習の場でも理解を深め,食品成分表に習熟するうえで有益であると信じております.比較的まれに使われる食品や,本書に収載していないビタミンなど,通常の食事療法で対象とならない栄養素を検討する必要性が生じた場合は,当然,原本の食品成分表に戻ることによって解決できます.
 本書は,昭和大学藤が丘病院の栄養士たちの長年にわたる多数の栄養指導の体験から,患者さんへの深い愛情と臨床栄養学への強い思想から自然発生的に生まれたものです.そのような点からも,本書は意義深い食品成分表であるといえます.樋口久美子管理栄養士の強力なリーダーシップのもとに,当院の5人の管理栄養士たちが,食品のひとつひとつ,栄養素のひとつひとつについてじっくりと検討し,食品名や参考資料についても繰り返し検討してこの成分表ができ上がりました.
 最後に,本書の初期の立案から編集のすべてにわたってご協力とご教示をいただいた,医歯薬出版株式会社編集部に心から感謝申し上げます.
 本書の今後のよりよい改善のために,読者および利用者の皆さまから,建設的なご批判とご叱正をいただければ幸いに存じます.
 2003年4月
 監修者 出浦照國

 “食事管理をする““食事療法をする“ということは,“食事制限をする“とか“禁止をしなければいけない”ということではありません.自分の体を健康に保つように,またすでに体のなかに障害を生じ,健康を損っている人が,その障害が進行しないよう障害を受けた臓器に対する負担を少なくし,機能低下を抑え,機能の維持や症状・病気の改善を目的として,自分に合った“適正量の栄養素摂取をする”ことです.
 病気の予防をする場合も,一般的な疾患の食事療法をする場合も,大抵の場合,まず“食べてはいけない食品はない“といえます.すべて,食品の選択の仕方と食品の摂取量に配慮することで自分に合った栄養素摂取が可能です.近年増加し続けている生活習慣病も,習慣的な栄養素摂取量の過剰や不足,偏り,不適正な食行動から生じています.これらの疾患の予防や治療は,過剰は減らし,不足は増やすことで“栄養素の適正量の摂取”をして改善を行います.
 現在は情報社会です.健康・栄養に対する多くの情報に振り回され,過剰栄養素摂取をした結果,栄養指導室を訪れる方は後を絶ちません.摂取栄養素に偏りのある,無理で危険なダイエットを行っていた方も大勢来室されます.このような方がたも,栄養素に対する基本的な認識が育っていれば,このような誤った食事は防止できたはずです.
 そのためには,食べようとしている食品に含まれている栄養素量を知ることが必要です.栄養素量を知ることで自分に合った食品の摂取量を自分で決めることができます.
 最近では,市販食品の栄養成分量表示が充実しています.この「栄養成分量」は「栄養素量」と同じ意味です.外食のお店でも栄養成分量の表示が広がっています.先に述べましたように,“食べてはいけない食品はない“のですから,食べたい食品を食べずに我慢したり,あきらめたりする必要はありません.栄養成分量を調べて食べる量を調節すればよいのです.“何を食べたらよいのか?”ではなく,“何をどれだけ食べたらよいのか?”です.
 無意味な制限や必要以上の制限・禁止,自由のない食品選択は,食習慣の改善や長期的な食事療法にはマイナスです.栄養指導を受けて食事療法を行う側も,栄養指導をする側も,このことに対する認識は不可欠です.積極的に食べたい食品の栄養成分量を調べ,自分に合った食品摂取量で,安心して,楽しく,美味しく食べていただけるよう本書を活用していただくことを願っております.
 本書は,普段の生活に活用していただくために,日常食品だけを集めました.少しでも栄養計算の手間を省くことができますように,食事管理,食事療法によって効果を上げておられる方がたの食事記録を参考にさせていただき,よく食べられている食品量を常用量として採用し,それぞれについての栄養素量も記載いたしました.食品を追加して栄養素量を書き込めるように空欄ページを設けてありますので,ご自分の使いやすいようにオリジナルの充実した成分表にしてください.
 食品成分表で栄養計算をすることは,栄養関係の専門家がすることで,難しいものと思われがちです.けれども,私たち昭和大学藤が丘病院の栄養士は長期にわたり,当院の患者様たちが食品成分表を用いて,自由な選択で個性に合った食事療法に取り組むことによって,病気に対しても食事療法に対しても格段の理解を示され,確実に臨床効果を得ておられる事実を経験してまいりました.この事実は,小学生から80歳を超えるようなご高齢の方がたにまで及びます.また疾患も幅広い領域に及びます.
 食品成分表を用いての栄養計算は,慣れないうちは面倒なことであっても難しいことではありません.日常的に一人の人が食べる食品数は限られており,慣れてくるほど栄養計算は手軽に楽に行え,自由な食事により長期の食事療法が可能になるのが常です.つまり,このことを私たち栄養士に気づかせてくださったのは,食事療法に取り組んでこられた大勢の患者様たちです.
 私たちはいつしか食品成分表を用いて自ら栄養計算をすることが難しいとの誤解を解くことができるように,日常生活のなかで誰でもが簡便に利用できる食品成分表を作成したいとの思いを募らせてまいりました.より多くの方たちに,気軽に食品の栄養素量について調べていただき,適正な栄養素摂取をすることで健康の維持・増進,病気の予防,確実な食事療法の理解と効果を得ていただきたいと思っております.
 この本は,書棚にきれいな状態のまま収めていただく本ではありません.日常的に手元に置いて,いつでも気軽に開いて活用していただくことを編集者一同願っております.
 昭和大学藤が丘病院内科の出浦照國教授には,立案から繰り返しの編集作業の全行程に目配りいただき,重要な点へのご示唆をいただきました.
 最後に本書の刊行に至るすべてにわたりご教示いただいた,医歯薬出版株式会社編集部に心から感謝申し上げます.
 使いにくい面やお気づきの点がございましたら,厳しくご教示いただければ幸いに存じます.
 2003年4月
 編集者 樋口久美子
 監修のことば
 編集のことば
 本書の使用にあたって

1.穀類
2.いも及びでん粉類
3.砂糖及び甘味類
4.豆類
5.種実類
6.野菜類
7.果実類
8.きのこ類
9.藻類
10.魚介類
11.肉類
12.卵類
13.乳類
14.油脂類
15.菓子類
16.し好飲料類
17.調味料及び香辛料類

調理加工食品類(自己記載ページ)
治療用特殊食品(自己記載ページ)

付表
 脂質を多く含む食品
 食物繊維を多く含む食品
 コレステロールを多く含む食品
 シュウ酸を多く含む食品
 カリウムを多く含む食品
 リンを多く含む食品
 カルシウムを多く含む食品
 マグネシウムを多く含む食品
 亜鉛を多く含む食品
 銅を多く含む食品
 鉄を多く含む食品
 ビタミンCを多く含む食品
 ビタミンAを多く含む食品
 ビタミンDを多く含む食品
 ビタミンEを多く含む食品
 ビタミンKを多く含む食品
 ビタミンB1を多く含む食品
 ビタミンB2を多く含む食品
 ナイアシンを多く含む食品
 ビタミンB6を多く含む食品
 ビタミンB12を多く含む食品
 葉酸を多く含む食品

 食品名さくいん