やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はしがき

 人間が「食べる」ということは単なる生物的な行動ではなく,社会・経済・文化的および環境的な動きに影響され,また,影響を与えながら過去から現在に至るまで「生活」として営まれてきた.今後,人間が「食べる」ことに関わるさまざまな状況は構造的に変化するとおもわれるが,人間の食生活は営々と続けられていくことであろう.
 栄養指導はこのような事象の中で健康と栄養の視点から,よりよい食生活を実現していくための方法を人々に提案し,働きかけていくのである.
 動的で多様な生活の中で展開される栄養指導であるから,健康や栄養にとって望ましくない食事や生活習慣などを改善していくには,人間の食生活を多面的に考えていくことができ,かつ,実践力のある栄養指導者が期待される.
 このような意味から,21世紀に活躍する栄養士たちを育成する場において,少しでも役立つ栄養指導の演習を提供したいと切望するものである.

 <本書の特色>
 本書は基礎演習と応用演習に大きく分けた.なかでも基礎演習に重みをつけることとし,栄養指導を行う上で欠くことのできない事項をここに位置づけた.その内容は栄養アセスメント,栄養情報処理,食事計画,媒体,栄養教育,評価などである.
 さて,栄養士が実際の場において栄養指導を具体的に展開するときには,対象はさまざまであり,問題の所在も複雑である.したがって,現実の事象については全体像を把握するために統合的概念が求められる.その上で必要かつ有効な栄養指導の方法を探ることとなる.
 応用演習においても同様で,基礎演習をただ継ぎ足すだけでは現実の問題を解決する力は養われない.そこで,応用演習では現実から物事を捉えて考える道筋を重視して,応用の場面から基礎的な方向へとつなげるために,基礎的な栄養指導の技法を「構成要素」として掲げ,総合化をはかるようにした.
 応用演習の例題は少ないが,対象別に保健・医療・福祉の面と食事環境からの問題を提起した.これらの事象をとりまく外部条件なども考えた上で,問題解決のためにはどのような方法が適するかを判断し,基礎演習の手法を選んで活用できるように配慮した.

 <本書の活用方法>
 それぞれの演習はコンパクトで利用しやすいよう工夫した.項目のはじめには,それぞれ「演習テーマ」「ねらい」「演習の手順」によって導入し,また,内容の理解を助けるようにつとめた.
 本書の利用にあたっては,いずれの演習項目から入ることもできる.なお,重点がおかれる演習項目もあれば,省略される箇所も出てくるであろう.それらの選択は利用される側で自由に行っていただいて差し支えない.
 本書は栄養指導の技術が習得できるようにポイントを定め,簡潔を旨としてまとめてみたが,意図したことを十分に果たせたとはいいがたい.今後,利用者からのご意見を得てより使いやすい演習書としていきたいと願っている.
 1999年4月吉日 編著者
1―基礎演習
 I 栄養アセスメント/2
  1 身体・生活状況……2〜9
   A.身体計測と栄養指数……2
    1)身体計測/2
    2)栄養指数/2
   B.対象別身体状況の評価……3
   C.エネルギー所要量の算出……4
    1)日本人の年齢別・性別エネルギー所要量/4
    2)エネルギー所要量簡易算出式/4
    3)消費エネルギー量の算出/4
    4)生活活動指数の算出/4
    5)体重が偏っている場合のエネルギー所要量の補正/4
   D.生活時間……5
   E.栄養状態に関する諸検査……8
  2 食物摂取状況……10〜36
   A.食物摂取状況調査法……10
    1)食品記入法/10
    2)料理記入法/11
    3)調査方法の比較/12
    4)調査法の選択/12
    5)国民栄養調査方式/13
   B.栄養素等摂取量および食品群別摂取量の算定法……14
    1)個人データの処理/14
    2)集団データの処理/18
   C.栄養・食品摂取の評価法……21
    1)過不足率/21
    2)PFC比/22
    3)アミノ酸組成/23
    4)脂肪酸組成/24
   D.食事日記による調査法……25
   E.糖尿病食品交換表を利用した食物摂取状況調査法……27
   F.簡易栄養調査法……29
    1)食品摂取頻度法/29
    2)食品数によるチェック法/31
    3)六つの基礎食品によるチェック法/33
    4)食事形態によるチェック法/35
  3 食生活をとりまく要因に関する諸検査……37〜52
   A.経済調査……37
    1)家計調査からみた食物消費の動向/37
    2)食料需給表からみた所得弾性値と価格弾性値の動向/40
   B.食生活調査……41
    1)知識調査/41
    2)食生活状況調査/43
   C.嗜好調査……48
   D.健康調査……49
    1)自覚症状/49
    2)運動/51
    3)休養/52

 II 栄養情報処理/53
  1 資料の収集と整理……53〜57
   A.情報検索……53
    1)文献検索/53
    2)ホームページからの情報収集/54
    3)情報の取込み/55
   B.情報の整理……56
    1)分類項目別整理/56
    2)時系列別整理/57
  2 コンピュータによる栄養情報処理……58〜59
   A.基礎統計……58
   B.検定……59

 III 食事計画/60
  1 対象別食事計画……60
  2 集団給食の栄養基準量……61〜62
  3 加重平均成分表……63
  4 食品構成基準……64
  5 献立作成……65〜70
   A.レシピのストック……65
   B.サイクルメニュー……68
   C.選択メニュー……70
  6 献立評価……71〜72
   A.集団給食の栄養状況報告書……71

 IV 栄養媒体/73
  1 話し方……73
  2 原稿の書き方……74〜75
  3 グラフ……76〜77
  4 リーフレット……78〜79
  5 パンフレット……80〜81
  6 紙芝居……82〜84
  7 六コマ漫画……85
  8 栄養標語……86〜87
  9 外食料理の栄養成分表示カード……88〜90

 V 栄養教育/91
  1 栄養指導案……91〜92
  2 個人指導……93〜94
   A.栄養相談……93
   B.カウンセリング……94
  3 集団指導……95〜100
   A.討議法……95
    1)ブレーンストーミング/95
    2)六六式討議法/96
    3)ディベート・フォーラム/97
   B.イベント企画……99
  4 栄養指導記録…101〜103
   A.個人栄養指導の記録……101
   B.集団栄養指導の記録……103

 VI 評価/104
  1 経過評価…104〜105
   A.インタビュー法……104
  2 影響評価……106
   A.観察法……106
  3 結果評価…107〜111
   A.フィードバック・テスト……107
   B.チェックリスト……109
   C.経済効果分析……110
   D.臨床検査データ……111

2―応用演習
 I 対象別栄養指導/114
  1 保健…114〜121
   A.小児保健……114
    1)幼児の個人栄養相談/114
   B.学校保健……117
    1)児童を対象とした栄養教育/117
   C.地域保健……119
    1)地域住民の食生活の実態把握/119
  2 医療…122〜126
   A.入院患者に対する栄養指導……122
   B.通院患者に対する栄養指導……125
  3 福祉…127〜131
   A.老人保健施設における栄養指導……127
   B.在宅高齢者の訪問栄養指導……129

 II 食事環境/132
  1 食の外部化への取り組み…132〜134
  2 衛生管理への取り組み……135
  3 エコクッキングへの取り組み…136〜139
  4 喫食環境の演出……140