やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 WHO(世界保健機構)は,「2000年以降に生まれる子どもの40%が糖尿病になる可能性がある」と発表しました.そして,多くの小児科医が,それはおおげさな数字ではないだろうと言います.
 実際に,わが国でも小児の糖尿病や高脂血症などが急増しています.その背景に,食生活の問題があることはすでに常識になっています.いまや,テレビ,新聞,雑誌から食生活と健康に関する情報が流れない日はありません.しかし,そのほとんどは「食生活」の情報ではなく,1つの食品に関するものです.“○○を食べると病気がよくなる““○○を食べると肥満が解消する”といった類の情報です.以前話題になった,テレビ番組のデータ捏造問題は,氷山の一角に過ぎません.つまり,情報はたくさんあるようにみえますが,若い父母が真剣に食生活に関心をもったとしても,正しい情報を得る機会はほとんどないのが現実です.
 このような現状を考えたとき,小児期から継続的に通院する可能性の高い,歯科医院の役割は非常に大きくなっているように思います.歯科医院ほど「食育」に最適な場はないのではないでしょうか.しかし,現状の歯科医療現場における食生活指導をみていると,口腔(歯と歯周組織)だけをみていて,その食生活が全身に与える影響を忘れたものが多いような気がしてなりません.「口は災いの元」と言いますが,まさに,歯科医院こそ,生活習慣病予防の最前線であってほしいと願わずにはいられません.口腔を越えて,未来ある子どもたちの,全身(心)に責任をもった食生活指導をする歯科医院が増えることを願って,本書を書かせていただきました.多くの歯科医院でご活用いただければ幸いです.
 本書の上梓は,歯科の先生方からのご指導あってこそのものと思っております.谷口威夫先生,石田房枝先生,内田格誠先生,鈴木公子先生,山岸貴美恵先生,本田里恵先生,わがままな患者に対していつもやさしく接してくださる,主治医の横田 裕先生に,この場を借りてお礼を述べたいと思います.
 私たちに,歴史的な大著『食生活と身体の退化』(W.A.プライス著・豊歯会刊行部)をプレゼントしてくださった故・片山恒夫先生に本書を捧げます.
 2007年6月 幕内秀夫
 はじめに
1章 歯科医療における食生活指導
 (1)「全身(心)」を忘れた歯科の食生活指導
 (2)食生活指導は子どもの一生を左右する
 (3)子どもへの食生活指導は難しくない!
 (4)大人は「心」でも食べる
2章 食生活の常識を見直す
 (1)「バランス」のとれた食生活って何?
 (2)フードは風土
 (3)本当に「栄養素のバランス」をとることはできるの?
 (4)食生活指導は常識を捨てることから始まる
3章 子どもに偏食はない
 (1)子どもは緑黄色野菜が嫌い
 (2)子どもは自分に必要なものを知っている
 (3)ご飯が食事の基本
 (4)間食指導の前に食事指導を
4章 急激に変わった食生活
 (1)減っていくご飯の消費量 増えていく輸入小麦粉
 (2)そのパンで力が出せますか?
 (3)パンとサラダが好きな女性たちへ
 (4)咀嚼指導より主食指導
5章 現代の食生活の問題点
 (1)不完全燃焼の時代
 (2)便りとおならが教えてくれること
 (3)女性に多い脂質過剰の食生活の危険性
 (4)精製食品が招いた現代型栄養失調
 (5)「ウン」がいい生活を目ざそう
6章 食生活の実際
 (1)朝食はご飯と味噌汁で十分
 (2)米と豆をおいしく食べるための知恵
 (3)つねに食卓に置いておきたい「漬け物」と「お茶」
 (4)副食には野菜・豆類・種実類を
 (5)動物性食品とのつきあい方
7章 子どものおやつ
 (1)子どものおやつは4回目の食事
 (2)むし歯と食生活の関係を切ってはいけない
 (3)清涼飲料水は恐い
 (4)スナック菓子も恐い
8章 食生活指導の実際
 (1)まず食事を作ることから始めよう!
 (2)「0点」を目ざす食生活指導
 (3)食生活指導は子どもの全身と未来のためのもの
 (4)さあ,食生活指導を始めよう―付録の活用法
 ・ 付録
  (1)子どもの食生活テスト
  (2)子どもの食生活―8つの提案
  (3)食事相談申込書
  (4)食生活ノート
  (5)子どもの1週間の献立例
  (6)おすすめのおやつ