やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂にあたって
 今回の改訂の大きなポイントは,帝王切開術を受けた褥婦の看護に関する内容を追加したことである.
 近年,帝王切開は増加の傾向にある.医療技術の進歩によって,帝王切開などによる分娩は減少していくものと通常は考えがちである.しかし,帝王切開は確実に増加している.医療技術の進歩にもかかわらずである.この原因を探ると,いくつかの背景が浮かび上がってくる.診断技術の向上,妊産婦の生活環境の変化,女性の生き方・考え方の変化に伴う出産年齢の高齢化,産科医療分野における医療訴訟の増加等々がその背景にあると考えられる.
 これらの現実を踏まえて,今回は第3章第3節「褥婦の事例展開」の中に「帝王切開術を受けた褥婦の看護過程」の一項目を追加した.ただし,帝王切開によって出産した人であっても,ウェルネス志向によるアセスメントとウェルネス看護診断は活用できる.初版の「切迫早産妊婦」「貧血褥婦」と同様に,異常のある対象者でもウェルネス看護診断を用いて対象を全人的にみることができるのである.また,たとえ異常分娩であっても,生理的現象であるといわれる妊娠・分娩を経る対象に対して,問題志向のみで関わるのではなく,妊娠期・分娩期・産褥期の各期を通してのケアには,ウェルネス志向の観点が重要でありまた必要であると考える.
 他の改訂点としては,第1章の母性看護の特徴ならびに対象について,内容をより理解しやすいよう一部を図式化してある.第2章でも同様に図を挿入してある.さらに,看護におけるウェルネス志向の核となる健康概念についての紹介を追加している.
 以上の改訂により,ウェルネス看護診断に対するより一層の理解が深まり,看護現場に浸透・定着していくことを大いに期待するものである.
 改訂にあたり今回も暖かくサポートして下さった医歯薬出版の編集担当に深く感謝する.
 2009年12月
 編者

はじめに
 母性看護は,健康な人を対象とすることが多く,対象者の健康の維持・増進,あるいは疾病の予防を目的としている点が特徴の1つである.ところが,現在の看護過程においては,問題点に焦点を当てた問題解決思考が主流を占める.この考えに基づく限り,何の問題もなく,合併症等の危険性もない場合,ケアする対象は存在するものの,適切な看護診断が出てこないという事態が発生してしまう.これは,母性看護の領域では,よくおこることである.
 そこで,ウェルネス志向とその看護診断とを看護過程に導入してみると,無理なく対象の特徴を捉えたケアの展開が可能となり,母性看護過程が思考しやすくなるのであるが,文献を検索してみると,ウェルネス看護診断に関連するものは非常に少ないことがわかった.それならば自分たちでウェルネス看護診断にもとづいた母性看護過程の展開を書いてみようというのが本書執筆のいきさつである.
 第1章では,看護過程の概念について扱っている.筆者は,看護過程を単なる方法論としてではなく,理念として捉えている.一方で,看護過程は方法論であり,しかもその内容は,型にはめられたワンパターンの表現であるという声を聞くが,それは当然のことであって,看護の向かう方向が同じであれば表現内容も似てくるものである.大事なのはその時の思考である.得られた情報を,どのような根拠で分析したのか,その解釈の根拠に看護者のどのような人間観や看護観があるのかが重要となる.それゆえ看護過程は,看護を展開する上での科学的な思考プロセスといえるのである.
 第2章では,ウェルネスの捉え方,特徴,意義について扱っている.そして,従来の看護診断のスタイルにとらわれず,自由な形でのウェルネス看護診断をつくってみることを提案して,そのことを引き継いで第3章を展開している.本書の特徴は,この第2章で,ウェルネス看護診断についての新たな考え方を示したところにある.
 第3章では,実際に,妊娠・分娩・産褥・新生児各期の事例で看護過程を展開している.切迫早産妊婦と貧血褥婦の事例が入っているのは,異常のある対象者でもウェルネス看護診断を用いて対象を全人的にみることが可能になる例を示したかったからである.
 なお,事例による看護過程を展開する上で,次のような約束事を決めた.
 (1)アセスメントの視点は独自の枠組みを作成する.
 (2)関連図は省略する.
 (3)看護診断リストの下に列挙した「条件」とは,その診断が導き出された因子を表わす.看護診断の関連因子と混同しないよう「条件」とする.
 (4)看護診断から看護介入を導き出すために,その看護診断に至った背景や状況を「統合図」として表す.
 (5)ケアプランは看護診断リストから1つを選択して展開する.
 ・正常妊産婦の場合は,診断リストの中から1つ
 ・異常妊産婦の場合は,優先度の高いものを1つ
 読者が,ウェルネス看護診断を柱に対象の見方の幅を広げ,対象の生理的変化を中心とした母性看護過程からいちだん進めて,元来備わっている対象の力を引き出すケアを実践されること,それが今後定着する一つのきっかけに本書がなることを期待している.
 最後になったが,出版にあたり,母性看護におけるウェルネス看護診断の意義をよく理解し,発行までフォローして下さった医歯薬出版の編集担当に深く感謝する.
 2005年6月
 編者
第1章 看護過程とは(太田)
 1.看護過程の概念
  (1)看護過程の基本的な考え方
  (2)看護過程の展開
   (1)第1段階 アセスメント
    (1)アセスメント 観察・情報収集 (2)アセスメント 情報の整理→分析・解釈・統合
   (2)第2段階 看護診断
    (1)看護診断とは (2)看護診断の3つの種類 (3)表現方法 (4)看護診断の優先順位
   (3)第3段階 計画
    (1)目標 (2)看護介入計画
   (4)第4段階 実践(介入)
   (5)第5段階 評価
 2.母性看護における看護過程
  (1)母性看護の特徴
   (1)母性看護とは
   (2)母性看護の対象
    (1)女性のライフサイクル (2)マタニティサイクル
  (2)マタニティサイクルにおける看護の特徴
   (1)対象の特徴
    (1)身体的特徴 (2)セルフケア (3)心理的変化 (4)役割取得過程 (5)児の成長発達
   (2)ケアの特徴
第2章 ウェルネス看護診断(太田)
 1.ウェルネス看護診断の考え方
  (1)ウェルネスとは
   (1)ウェルネスの概念
   (2)ウェルネス志向の考え方
    (1)良い健康状態がさらにレベルアップしている (2)良い健康状態のレベルを維持している (3)悪い健康状態であるが良い方向へ向かっている あるいは,回復過程の途中であり正常な状態に戻ろうとしている (4)悪い健康状態であるがこれ以上悪化することなくそのレベルを維持している
   (3)問題志向型とウェルネス志向型
  (2)ウェルネス看護診断とは
   (1)定義
   (2)ウェルネス看護診断の特徴
    (1)ありのままの状態を診断する (2)その人の強みとなっているところを診断する (3)ポジティブな視点で診断する
  (3)ウェルネス看護診断の意義
    (1)正常な生理的変化のプロセスにマッチする (2)思考そのものをウェルネスへ転換できる (3)全人的な視点に立ったケアを可能にする
 2.ウェルネス看護診断の展開〜ウェルネス看護診断をどんどん作ってみよう〜
  (1)ウェルネス看護診断の構成
   (1)構成
    (1)二部構成 (2)一部構成
   (2)表現スタイル―進行形が多い
  (2)強みのアセスメント
  (3)陥りやすいワナ
    (1)何でもポジティブにみてしまう (2)良い方向に持っていこうとする (3)「あるべき思考」に陥ってしまう (4)問題をダメと捉える (5)自分の価値観と違うと逆に問題視してしまう
第3章 看護過程の実際―事例展開(石田,太田,木村,箆伊,佐藤)
 1.妊婦の事例展開
  I 妊娠期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  II 正常妊婦の看護過程の展開(妊娠31週)
   ・Aさんの紹介 ・アセスメントから結論まで ・看護診断リスト ・看護介入
  III 切迫早産妊婦の看護過程の展開(妊娠30週)
   ・Bさんの紹介 ・アセスメントから結論まで ・看護診断リスト ・看護介入
 2.産婦の事例展開
  I 分娩期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  II 正常産婦の看護過程の展開(分娩第1期)
   ・Cさんの紹介 ・アセスメントから結論まで ・看護診断リスト ・看護介入
 3.褥婦の事例展開
  I 産褥期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  II 正常褥婦の看護過程の展開(産褥2日目)
   ・Dさんの紹介 ・アセスメントから結論まで ・看護診断リスト ・看護介入
  III 貧血褥婦の看護過程の展開(産褥2日目)
   ・Eさんの紹介 ・アセスメントから結論まで ・看護診断リスト ・看護介入
  IV 帝王切開術を受けた褥婦の看護過程の展開(術後24時間から2日目)
   ・Fさんの紹介 ・アセスメントから結論まで ・看護診断リスト ・看護介入
 4.新生児の事例展開
  I 新生児期のアセスメント項目と診断に必要な視点
  II 正常新生児の看護過程の展開
   ・Gちゃん(Dさんの児)の紹介 ・アセスメントから結論まで ・看護診断リスト ・看護介入

 索引