やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 助産師は,妊産婦および新生児が共に正常であり今後も正常な経過を辿るであろうと予想される場合,その助産ケアに主体的に関わるという役割と機能とを有している.つまり正常なマタニティサイクル各期の妊産婦たちこそ助産師の対象範囲なのだが,とりわけ本書は,マタニティサイクルの中の「産婦ケア」に焦点を当てたものである.
 正常分娩こそ助産師のもっともたる範疇であるが,この分娩が「正常」であるかどうかは最後の結果を見た時点でしか判別できない.正常な状態で分娩が終了して初めて「正常分娩」だったといえるのである.ゆえに助産師は,その結果に至るまでの「分娩経過」において本領を発揮する.助産師は産婦の状態を丁寧に観察し,異常の徴候は見られていないか,あるいは異常になっていないかの判断を専門的知識と経験とに基づいて行う.さらにその判断に加えて,正常に経過するためのケア,異常へ移行しないためのケアも実践する.このように助産師の「正常である」という判断の積み重ねが,最終的に「正常分娩」という結果を導き出すのである.つまり助産師のケアは,正常分娩という結果とそれに至るための分娩経過とに関わり,正常分娩の促進に寄与するものである.これは産婦に「寄り添う」ことを旨とする助産師の醍醐味でもある.
 助産師の役割が拡大し期待されている昨今,産婦の安全で安楽かつ満足度の高い分娩の実現は,助産師の専門的知識と経験とに裏打ちされた観察力・診断力・実践力にかかっているといっても過言ではない.
 本書は,そのために必要な基本的知識としての分娩期の母児のケアの基礎について記述したものである.さらに助産診断や助産ケアを行う際の理論的根拠としての内容も兼ね備えている.
 本書は,新人助産師,助産師を目指す学生や母性看護学を学ぶ看護学生の参考書として,また,臨床における助産師活動や助産師教育にも活用して頂けたら幸いである.
 今後,妊婦ケア,褥婦ケアの基礎知識や助産師としての基本的な考え方等についても,機をみて『助産ケア臨床ノート』で論じていきたいと考える.
 出版にあたり,多大なるご尽力を頂戴した医歯薬出版の編集担当者に感謝したい.

 2008年8月 編者
 序文
第1編 分娩時の診断と予測にもとづくケア
1-1 分娩経過の診断と予測
 <分娩第1期,第2期>
 1)分娩開始の診断
  (1)分娩の前兆
   (1)産婦の自覚症状 (2)他覚症状
  (2)分娩開始の診断
   (1)分娩開始診断の必要性 (2)分娩開始診断の利点
 2)分娩時期と分娩進行度の診断
  (1)現在の妊娠週数と分娩の時期診断
   (1)妊娠週数 (2)分娩時期
  (2)陣痛の状態からの分娩進行度の判断
   (1)陣痛開始からの経過時間と陣痛の状態 (2)産痛からの分娩の進行度の判断
  (3)子宮頸管の状態
   (1)子宮口の開大 (2)子宮頸管の展退 (3)柔らかさ・硬度(熟化) (4)子宮口の位置
  (4)胎児の骨盤内下降
   (1)胎児の産道通過(分娩機転) (2)児頭の骨盤進入 (3)胎児の回旋
  (5)胎児の骨盤内下降度の診断方法
   (1)骨盤内下降度の表現法 (2)下降度の診断法
  (6)内診所見
   (1)ビショップスコア (2)児頭回旋の診断
  (7)分娩の所要時間(分娩第1期,2期までの所要時間)
  (8)出血
  (9)破水
   (1)破水の診断 (2)破水時の対応
  (10)分娩第2期の徴候
 3)分娩進行に伴う母体の全身状態の確認
  (1)一般状態
  (2)全身の疲労の状態
 4)分娩の予測
  (1)分娩経過の予測
   (1)胎児と産道の均衡がとれているか (2)分娩を妨げる因子はないか (3)現在の分娩進行度の診断 (4)分娩経過の総合的な診断・予測 (5)分娩時間,児娩出時間の予測 (6)胎盤娩出時間の予測
  (2)児に関する予測
   (1)児体重の予測 (2)分娩経過中の児の健康状態の予測 (3)出生時の健康状態の予測
 <分娩第3期,4期>
 1)母体の経過
  (1)母体の一般状態 (2)子宮の収縮 (3)後陣痛の有無と程度 (4)出血の状態 (5)軟産道・外陰部の状態 (6)脱肛の有無と程度 (7)排尿に関すること (8)腰痛,恥骨部痛 (9)その他 (10)胎児付属物の所見
 2)分娩所要時間
 3)経過予測診断
1-2 産婦および家族へのケア
 <分娩第1期>
 1)安全に経過できる
  (1)現時点での母児の状態の把握
   (1)分娩開始の診断と時期の診断 (2)進行状態の観察 (3)胎児の健康状態の観察 (4)分娩経過の予測 (5)情緒面および心理的変化
  (2)母児の循環を整え分娩を遷延させない
   (1)分娩の時期に応じた体位の工夫 (2)身体を冷やさない (3)体力消耗を最小限にする
  (3)効果的な陣痛と児の下降・回旋の促進
   (1)体位の工夫 (2)排泄
  (4)感染を予防する
   (1)身体の清潔 (2)器械,器具,物品,手指の消毒 (3)内診の制限
  (5)分娩の準備をする
   (1)必要物品の準備 (2)産婦への説明,分娩室への移送の準備 (3)分娩室の準備 (4)看護者(介助者)の準備
 2)安楽に経過できる
  (1)精神的不安の軽減(最小にする)
  (2)身体的苦痛の軽減(最小にする)
 3)主体的に取り組める
  (1)産婦自身が分娩の進行に対応できるよう援助する
   (1)分娩の進行が理解でき変化に気づけるように関わる (2)分娩進行の変化に対応できるように働きかける (3)急激な変化や異常症状を医療者に伝えられるように働きかける
  (2)自分なりのお産を創造できるよう援助する
   (1)自分はどんなお産をしたいのかの考えを持てるように関わる (2)そのために自分自身はどんな役割をはたすのかを理解できるよう働きかける
  (3)母性意識を高め育児へのより良い出発点となるよう援助する
   (1)出産が幸福な体験となるように関わる (2)夫や家族が各々の役割を認識し協力体制がつくれるよう働きかける
 <分娩第2期>
 1)安全に経過できる
  (1)現時点の母児の状態を把握する
   (1)分娩の進行状態の観察 (2)胎児の健康状態の観察 (3)母体の全身状態の観察 (4)情緒面および心理的変化
  (2)母児の循環を整え,分娩を遷延させない
   (1)効果的な娩出力 (2)排泄
  (3)児頭の回旋,下降の促進と分娩の進行状態の把握
   (1)体位の工夫 (2)胎児心音聴取部位の変化 (3)胎児心拍陣痛曲線図
  (4)児の娩出を助ける
  (5)感染予防
  (6)会陰裂傷による出血を最小限にする
  (7)脱肛予防
 2)安楽に経過できる
 3)主体的に取り組める
 4)児娩出時に適切に対応する
 <分娩第3期>
 1)安全に経過できる
   (1)胎盤の剥離を促す (2)胎盤の娩出を促し生体結紮をスムーズにする (3)子宮収縮を促し,疼痛を緩和する (4)予測される危険を防ぐ (5)情緒面および心理的変化
 2)安楽に経過できる
 3)環境を調整する
 4)分娩の想起を行う
1-3 分娩中の胎児健康状態(well-being)の評価
 1)胎児の健康状態の診断
  (1)胎児心拍数(FHR:fetal heart rate)
   (1)胎児心拍モニタリング (2)胎児心拍陣痛図 (3)ノン・ストレステスト
  (2)羊水
   (1)量:羊水ポケット,羊水インデックス(AFI) (2)色 (3)肺成熟度:肺サーファクタント
  (3)胎児末梢血
   (1)pH値 (2)ガス分析
  (4)胎児機能不全の徴候
   胎児機能不全
 2)胎児機能不全に対する救急処置
  (1)応急処置
   (1)母体の体位変換 (2)子宮収縮の減弱 (3)母体酸素投与 (4)羊水腔への人工羊水注入療法 (5)重炭酸ナトリウム投与
  (2)急速遂娩
1-4 出生直後の児の看護
 1)出生時の観察
  (1)蘇生の必要性の判定
   新生児仮死
  (2)全身の観察
 2)出生直後のケア
  (1)気道の確保
  (2)保温
  (3)母子接触の開始
  (4)母児標識
  (5)清潔
  (6)全身状態の観察
   (1)健康診査 (2)発育状態・成熟度の評価
  (7)臍処置
  (8)眼処置
第2編 分娩時の母児のケアに必要な知識
2-1 分娩の三要素
 1)産道
  (1)骨産道
   (1)骨盤の形態 (2)骨盤の区分 (3)骨盤径線 (4)仙骨の状態
  (2)軟産道
   (1)妊娠による変化 (2)分娩による変化
 2)娩出力
  (1)陣痛
   (1)陣痛の発来機序 (2)陣痛発作の起点 (3)陣痛の作用 (4)陣痛の特性 (5)陣痛の種類 (6)陣痛の強さ (7)産痛  (8)娩出力の異常
  (2)腹圧
 3)胎児および付属物
  (1)胎児
   (1)児頭の構成 (2)在胎期間に応じた胎児発育 (3)子宮内における胎児の位置 (4)分娩が児に及ぼす影響
  (2)胎児付属物
   (1)卵膜 (2)羊水 (3)臍帯 (4)胎盤 (5)胎盤の娩出
2-2 出生直後の児の生理的変化
 1)新生児の肺呼吸の確立
  (1)胎児期の呼吸器系の準備
   (1)肺の発達 (2)呼吸調節機能の発達 (3)肺サーファクタント(肺界面活性物質)の分泌 (4)肺胞液(肺水)
  (2)出生時の第一呼吸と呼吸の安定
   (1)第一呼吸 (2)第一啼泣 (3)呼吸の安定
 2)出生時の循環の適応
  (1)胎児期の循環系の特徴
   (1)高い肺血管抵抗と低い体血管抵抗 (2)胎盤循環と動脈管 卵円孔
  (2)胎児循環から新生児循環への移行
   (1)肺血管抵抗の低下 (2)胎盤循環の停止 (3)動脈幹(ボタロー;Botallo管)の閉鎖 (4)卵円孔の血流の変化 (5)静脈管(アランチウス;Arantius管)の閉鎖
 3)出生直後の体温の変化
  (1)胎児期の体温
  (2)出生児の体温の変化
   低体温の影響
 4)中枢神経系の特徴
  (1)胎児期における発達
   (1)視覚 (2)聴覚 (3)触覚
  (2)出生直後の児の反応