2026/09/07
2026年9月2日(水),3日(木),一橋講堂(東京都千代田区)にて標記大会が,「小児の口腔機能を成育的に考察する」をテーマに開催され,約110名の参加者を集めた(大会長:常盤 肇氏/東京都・常盤矯正歯科医院,大会顧問:岩崎智憲氏/徳島大学医歯薬学研究部小児歯科学分野).
プレセミナーⅠ「矯正歯科医として寄り添う成育歯科医療~本研究会との出会いから~」では竜 立雄氏(福島県・RYU矯正歯科クリニック郡山プレミア)が登壇.自身の初めての外科矯正治療ケースを供覧し,形態と機能の調和を軸に,小児の成長発達段階をふまえた成育的アプローチの重要性を解説した.また,小児歯科・矯正歯科両分野での経験や研究会との出会いを振り返り,デジタル技術も取り入れた現在の臨床プロトコールを紹介した.
プレセミナーⅡでは,「歯科医師・言語聴覚士・理学療法士の協働による成育「歯科」医療の取り組み」と題し,加賀谷 昇氏(東京都・加賀谷歯科医院),高見葉津氏(訪問看護ステーションHUG),金子断行氏(目黒総合リハビリサービス)が登壇した.
歯科医師,言語聴覚士,理学療法士それぞれの立場から,在宅医療において子どもたちのハビリテーションを支援する対応や,各家庭の生活状態をふまえたアプローチなど,成育的なマインドをもとにした多職種連携の実践例を具体的に解説した.口腔機能,摂食嚥下,姿勢運動など,それぞれの職域から多面的に評価したうえで,全身と口腔を総合的に支援する多職種協働の意義が示された.
基調講演「生活(機能)支援としての成育歯科医療 ―口腔育成からのパラダイムシフト―」では,佐々木 洋氏(東京都・UTAKA DENTAL OFFICE 佐々木歯科)が登壇した.小児歯科・矯正歯科の歴史や疾病構造,社会環境の変化をたどり,子どもを「育てる」医療から,子どもが主体的に「育つ」ことを支える成育歯科医療へのパラダイムシフトについて解説した.人は器官と機能の集まりではなく,検査データからは生活における困りごとは見えにくいと示し,現在の貧困や虐待などの背景も視野に,成育的な視点を通した支援のあり方を考察した.
大会初日の夜には「成育若手の会―よろず症例相談会」が開催され,治療計画やテクニックにとどまらず,診断や患者との向き合い方,日頃の悩みの共有など,幅広いテーマについて夜遅くまで活発な意見交換が行われた.
2日目の教育講演Ⅰ「健康寿命と顎関節を成育的観点から考察する」では,中納治久氏(昭和医科大学歯科矯正学講座)が登壇.ラット研究をもとに,顎関節円板の転位が顎位や咬合,下顎頭・顎顔面形態に及ぼす影響を,筋肉,形態,骨密度などの視点から解説した.成育期の顔面非対称が顎変形症や将来的な咬合支持,残存歯数,口腔健康に及ぼす影響等について,顎関節との関連から興味深く考察した.
教育講演Ⅱ「小児の口腔成育における咀嚼機能の役割」では根岸慎一氏(日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座)が登壇した.食環境や食品テクスチャーの変化が,小児の咀嚼機能や顎顔面・歯列の成育に及ぼす影響について,口蓋形態に着目した研究から解説した.学童を対象とした疫学調査や咀嚼トレーニングの研究成果をもとに,口腔機能の客観的評価,成育に適した食品のあり方等を示した.
オープンクリニックでは「地域貢献を楽しみながらネットワーク治療の構築を目指したクリニック」をテーマに,里見 優氏(山形県・さとみ矯正歯科クリニック)が登壇.山形で矯正歯科医院を開業した氏が,近隣の旧医師会館に移転開業し,診療室壁面を山形国際ドキュメンタリー映画祭の野外上映のために貸し出したエピソードなど,医療の枠を超えた活動を通じて築いてきた地域ネットワークについて紹介した.
ジョイントセッションⅠでは,「小児の口腔機能は,いつから「医療」ではなく「商材」になったのか ―世の中は何を見て,何を見落としてきたのだろうか―」と題し,石谷徳人氏(鹿児島県・医療法人イシタニ小児・矯正歯科クリニック)が登壇.口腔機能発達不全症の保険収載以降に広がった「口腔機能ブーム」の功績と課題を整理した.口腔機能への介入が医療的評価を欠いたまま商材化されていることのある状況に警鐘を鳴らし,医療として口腔機能へのアプローチに期待すべき範囲と,介入による限界も認めたうえで,専門的判断に委ねるべき領域を明確化すべきであると示した.
ジョイントセッションⅡでは,「機能と形態の調和,その根底とその先にあるもの ―子どもの生活に根ざした歯科医療とは―」と題し,清水清恵氏(東京都・清水歯科クリニック)が登壇.口腔機能を診ることは小児歯科全般を捉えることにつながると示したうえで6症例を解説し,機能・形態だけに目を向けるのではなく,家庭環境,生活習慣,発達段階を含めた,子どもの成長を支える成育医療のあり方を示した.自身の臨床と研究会での学びをふまえ,子どもの自立や心を育む支援,長期的な信頼関係を支える医療として,歯・歯列・咬合を含めた小児歯科医療全般の診断力をもちながら,医療職が管理するのではなく,子ども自身が自分の健康を守れるようになる成育的な関わりについて言及した.
大会長講演「不正咬合は予防できるのか?―成育的考察―」では,常盤 肇氏(同前)が登壇した.不正咬合の予防・改善に対する機能訓練の効果が拡大解釈される現状をふまえ,形態と機能の関係,低年齢児へのアプローチの重要性について解説した.遺伝的要因を伴わない不正咬合が増加している今,生活習慣,姿勢,筋力などの環境因子に着目し,生活背景を含めた成育的視点から,不正咬合の予防として歯科医師が取りうる予防的アプローチについて考察した.
そのほか,二日目のランチョンセミナーⅠでは「令和の新しい予防のカタチと価値を伝える?~バイオアクティブ素材”S-PRGフィラー”による口腔内環境の創出~」と題し,中塚稔之氏(株式会社松風)が,ランチョンセミナーⅡでは「CPC含有洗口液は口腔内マイクロバイオームをどう変えるのか?」と題し,谷本幸太郎氏(広島大学病院/広島大学大学院医系科学研究科歯科矯正学)が登壇した.
次回は,2027年1月27日,28日に,徹底討論会が開催される予定である(於:神戸ポートピアホテル).