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第16回日本歯科衛生教育学会学術大会 開催される
 2025年12月6日(土)~12月7日(日),日本歯科衛生教育学会(理事長:畠中能子氏/関西女子短期大学歯科衛生学科教授)第16回学術大会が「時代のニーズに応える歯科衛生学教育を考える~インターフェイスの視点より~」をテーマに静岡県立大学短期大学部小鹿キャンパスで開催された(大会長:野口有紀氏/静岡県立大学短期大学部歯科衛生学科教授,実行委員長:松原ちあき氏/静岡県立大学短期大学部歯科衛生学科講師).
左から大会長の野口氏,実行委員長の松原氏
 教育講演Ⅰ「今後の歯科衛生教育:ビッグデータと学際的アプローチが拓く口腔と全身の健康への貢献」では小坂 健氏(東北大学)が登壇.歯や口腔に関する様々なデータを交えながら歯科衛生士の重要性について説明.その中で「学ぶ人中心の教育」について述べ,教員がどのように教えるかではなく教育の当事者である学生がどのように学ぶかという視点が大切と強調した.また,自身の経験を交えながら,「誰も取り残さない」ではなく「誰も取り残されない」という学生の主体的な姿勢を教育現場でも大切にするべきと述べた.
小坂氏
 教育講演Ⅱ「データに基づく今知っておくべき科学的知見」では相田 潤氏(東京科学大学)が登壇.統計調査の背景や,データの読み取りで起こりがちな錯誤などを紹介しながら,う蝕や歯周病などの歯科疾患が減少しているとされる近年の論調に異議を唱え,口腔衛生の予防と治療への軽視につながりかねないことに警鐘を鳴らした.また,フッ化物応用や子どもとの食器共有の是非といったトピックをエビデンスとともに解説し,歯科衛生士がデータサイエンスの視点をもち,科学的根拠に基づいた正しい知識を伝えていくことの重要性を示した.
相田氏
 教育講演Ⅲ「研究倫理の基本的事項と最近の動向」では山田 浩氏(静岡県立大学)が登壇.多数の倫理審査委員会の委員を務めた経験から「ヒポクラテスの誓い」から「ヘルシンキ宣言」,「ベルモントレポート」を経て現在に至るまでの医療倫理の歴史的変遷を詳説するとともに,利益相反や日本における倫理指針,個人情報の取り扱い,研究計画書や研究参加者の視点を持った説明文書の作成方法など具体的なノウハウについても説明した.また,倫理講習を年一回は受講することの重要性を示した.
山田氏
 特別講演「多様な健康課題に関する公衆衛生学・疫学的アプローチ」では尾島俊之氏(浜松医科大学)が登壇.歯科衛生士の活動を「個人・家族」「施設・地域」「行政・社会」の3つの公衆衛生学的領域から紐解き,口腔を通した健康支援の有用性について解説した.口腔への支援におけるナッジ(nudge)など行動科学の概念の応用,疫学的アプローチのコツなどの紹介,また,大災害や大規模な感染症流行時における健康危機管理において,みる わかる きめる うごくというウーダ(OODA)という考え方について触れられ,歯科衛生士の関わる領域が広がるなかで,公衆衛生・疫学的視点の重要性を示された.
尾島氏
 シンポジウムⅠ「歯科衛生研究について考える」では眞木吉信氏(東京歯科大学),竹下 徹氏(九州大学),竹内研時氏(東北大学)の歯科医師3名と,ベルギーの歯科衛生士 Ms. Carlotta Marta Piccardi(Artevelde University)の4名が登壇.
 眞木氏は「なぜ歯科衛生士に研究が必要なのか」と題して,来年1月発行予定の『歯科衛生学シリーズ 歯科衛生研究』の内容を紹介しながら,「研究」は問題発見・問題解決という知的な活動の一環であり,医療職にとってはidentityであることを解説した.
 竹下氏は「歯科衛生研究における微生物学的視点の重要性」と題して,う蝕や歯周病に対する細菌の関与について現時点までに判明していることを概説するとともに,同氏が取り組む健康型フローラの創成について,福岡県久山町スタディでの研究成果を紹介した.
 竹内氏は「歯学教育での研究指導」と題して,歯学教育の使命達成,リサーチマインドの育成,問題解決能力の向上を目的に,同氏がこれまでの所属先で学生に対して行ってきた研究指導の内容を項目別に分けて解説した.
 Ms. Carlotta Marta Piccardi は「Oral hygiene education in Belgium」と題して,ベルギーにおける歯科医療制度や歯科衛生士の業務範囲を概説するとともに,氏が現在勤務する3年制学士課程の歯科衛生士養成機関のカリキュラムについて詳しく紹介した.研究に関する教育が充実していることなど,多くの聴衆の関心を集めた.
左からPiccardi氏,武内氏,竹下氏,眞木氏
 シンポジウムⅡ「歯科衛生学教育モデル・コア・カリキュラム策定報告」では高阪利美氏(愛知学院大学短期大学部),赤岩寛之氏(文部科学省),小嶺祐子氏(厚生労働省)が登壇.
 高阪氏は「歯科衛生学教育モデル・コア・カリキュラムの作成の経緯と概要」と題して,歯科衛生学教育モデル・コア・カリキュラムが作成されるに至った経緯と内容について説明した.作成したカリキュラムは4年間かけて検証されることとなるため,課題点,問題点を抽出し,評価,改定を行うことが大切であるとした.
 赤岩氏は「高等教育におけるモデル・コア・カリキュラムの位置づけ」と題して,他職種のモデル・コア・カリキュラムの変遷について定期的な評価の重要性に触れながら概説.
 小嶺氏は「最近の歯科保健医療の動向-歯科衛生士に関連する動き-」と題して,歯科衛生士の業務のあり方や人材確保についてなど取り巻く状況について概説.今後の厚生労働省の取り組みは歯科衛生教育とともに進めていく必要があるとした.
左から小嶺氏,赤岩氏,高阪氏
 委員会セッション1(利益相反委員会主催)では「利益相反とは何か,研究になぜ必要なのか」をテーマに眞木吉信氏(東京歯科大学)が登壇.日本を中心とした臨床研究に関する倫理観の変遷を紹介したうえで,「歯科衛生研究における利益相反とは何か」を,職業倫理という観点から紐解き解説した.また,利益相反を考えるにあたっては,臨床研究における「倫理性」と「科学性」が揺るがないことを第一に目指すべきであり,そのためには開示とマネジメントが重要であると述べた.
眞木氏
 委員会セッション2(教育活動委員会主催)では「使ってみよう!事例で学ぶ歯科衛生士の倫理綱領」をテーマに,このたび発刊された日本歯科衛生教育学会編初の書籍『事例で学ぶ歯科衛生士の倫理綱領』(医歯薬出版)を使用して,講義とグループワークが行われた.同日開催されたランチョンセミナー1で書籍の概要を紹介したこともあり,予定人数の倍以上の参加者がつめかけ,傍聴のみの参加者も自主的にグループを作り,ワークを進め,活発に意見交換を行うほど関心が高いことがみてとれた.
 
 委員会セッション3(学術委員会主催)では「『歯科診療の補助行為による歯科衛生士の歯科麻酔行為』について学び,教育の事例研究に繋げよう!」をテーマに石黒 梓氏(鶴見大学短期大学部)と伊藤 奏氏(東京科学大学)が登壇.石黒氏は「歯科衛生学教育における歯科麻酔の状況」を報告し,伊藤氏は「歯科衛生学教育での歯科麻酔行為実習の紹介」とし,取り外し可能な頭部模型をユニットに設置し行っている実習を紹介.そのうえで,歯科麻酔に関する教育を研究に繋げるための研究計画の作成をグループワークで取り組んだ.ホットな話題であるため関心が高く,会場は満席であった.
委員会セッション2の様子
委員会セッション3の様子
 このほか,口演発表6題,ポスター発表21題の発表も行われた.
 次回学術大会は2026年11月21日(土),11月22日(日)目白大学短期大学部新宿キャンパスにて開催予定.大会長は中野恵美子氏(目白大学短期大学部歯科衛生学科教授).
ポスター発表の様子

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