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第42回 Bioprogressive Study Club(BSC)学術大会開催される
 2025年11月9日(日),10(月)に,標記会が「知恵の継承と創造」をテーマに開催された(於:城山ホテル鹿児島,大会長・西川嘉明氏/鹿児島県開業).
BSC会長・文野弘信氏
 まず,BSC会長挨拶として文野弘信氏(東京都開業)が登壇し,本会の現状・成り立ち等について述べ,去る8月4日に96歳にて逝去された名誉会長でありZerobase Bioprogressive Philosophyの創始者の一人である Carl F. Gugino氏への追悼の言葉を述べた.続いて,永田憲司氏(京都府開業)の呼びかけにより,会場全体でGugino氏に対して黙祷が捧げられた.

 ケースプレゼンテーションアワードでは,水野高夫氏(長野県開業)により「上顎両側第二小臼歯の近心捻転を伴う Angle Cl.Ⅰ症例」について発表された.下鼻甲介肥厚による口呼吸,低位舌,強い舌突出癖が確認された患者に対し,耳鼻咽喉科にて下鼻甲介焼灼術を行った後,動的矯正治療,AT(Awareness Treaning:機能的諸問題を改善するためのトレーニング)を行い,良好な結果を得られたことを示した.

 基調講演「咀嚼筋と表情筋の進化の歴史と機能形態」では薗村貴弘氏(朝日大解剖学教授)が登壇.咬合を主として担う咀嚼筋において重要となる4つの筋(咬筋,側頭筋,内側翼突筋,外側翼突筋)の出現・進化の過程等を解説,機能と形態が解剖学的にどのように変化を遂げてきたかを示した.また,「構造なくして機能なし 機能なくして生体なし」という恩師の言葉を示したうえで,このような比較解剖学的な知見が,矯正歯科の臨床において幅や深みとなることを期待したいとまとめた.

 特別講演「矯正歯科診療に活かす睡眠学 ―睡眠呼吸障害も含めて」では,宮崎総一郎氏(日本睡眠教育機構理事長)が登壇.矯正歯科診療に活かすための睡眠学の知識として,睡眠の役割,睡眠不足が健康に与える影響(認知症,糖尿病など)や改善法,小児の睡眠呼吸障害の要因・対応等について解説した.矯正歯科医は日常的に頭部X線規格写真(セファログラム)を撮影することから,特に鼻閉や呼吸障害に関わる舌位や気道における観察点についても言及した.

 教育講演 1「Contemporary Orthodontics based on Zerobase Bioprogressive philosophy」では文野弘信氏(同前)が登壇.現在の矯正歯科界のトレンドとしてアライナー矯正をあげ,適切でないケースへの使用には懸念を示しつつも,適応症における臨床応用は患者・術者ともに福音をもたらす装置だと示した.また,すべての矯正治療において最も重要なことは「的確な診断」と治療目標(VTP),そして治療メカニクス(矯正装置)の選択を含めた治療計画立案であることを改めて示し,単にテクニックを身につけるだけでなく,臨床哲学(Philosophy)を身につけることが,個別化された矯正歯科臨床において重要だとまとめた.

 ケースプレゼンテ-ションアワードでは,まず「上顎片顎抜歯により治療した Angle ClassⅡ div.2 症例」と題し,吉野直之氏(東京都開業)が登壇.オーバーバイト+10mmの重度過蓋咬合症例に対し,上顎片顎抜歯によりClass IIとすることを選択した経緯や,動的矯正のほか呼吸,筋肉,習慣等へのアプローチについて示した.
 次に,「開咬を伴うⅢ級叢生症例」として仲谷龍太郎氏(神奈川県勤務)が登壇.ClassⅢかつ叢生と開咬が認められる症例に対し,非抜歯,非外科治療を選択する診断に至った経緯,治療メカニクスの選択や軟組織へのアプローチ等を示した.

 懇親会開催後21時より,「炉辺会談 ―PEDの経過」が開催された.PED (Progressive Evolutionary Discussion) とは現在進行中の治療に対する症例検討会をさす.食事やアルコールにより温まった雰囲気のなか,座長・田中康照氏(東京都開業)の進行により,吉野直之氏(同前)と惣卜友裕氏(愛知県開業)による治療進行中のケース発表があり,質疑応答・ディスカッションが行われた.
会場内の様子
 二日目の教育講演2では,「Zerobase Bioprogressive Philosophy(ZBP)のこれからを考える ―形態,機能,成長について」をテーマに根津 崇氏(神奈川県開業)が登壇.自身のメンターとしてGugino氏,Ricketts氏に言及したうえで,BSCが矯正スタディグループとして順調に世代交代が成功している理由として,確たるPhilosophyがあり,医療人としてのコミュニケーションツールとなっていることを示し,個々の臨床家がZBPを継承していくうえで,テクニックや知識,経験のみならず,総合的なエクスパティース(expertise)の伝承が重要ではないかと示した.また,臨床例を元に,不正咬合へのアプローチとしてZBPがどのように応用されるか,診査・診断・治療について解説した.

 最終講演・教育講演3では,元開冨士雄氏(神奈川県開業)が「安静時舌位について考える」と題し登壇.組織発生学的に複数の神経支配があり複雑な舌の動き・機能について,多くの臨床動画をもとに解説.安静時鼻呼吸における正しい舌位として,舌尖をスポットに置くことよりも,奥舌を軟口蓋(上顎6番の延長付近)に位置させ,封鎖が得られていることが重要であると示した.また,意識的・無意識的に行われる口腔機能システムについて,さまざまな乳幼児の発達例における現症を辿りながら,知見や見解を示した.

 次回大会は,2026年11月15日(日),16日(月)に開催予定である(大会長・赤井妙子氏/滋賀県開業).

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