2025/09/22
9月19日(金),20日(土),パシフィコ横浜ノース(横浜市)にて,標記学術大会が「いつも楽しく食べる ~多職種による安全な食事の支援~」をメインテーマに開催された(大会長:香取幸夫氏・東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科 教授)(10月15日(水)正午~11月28日(金)正午:オンデマンド配信あり).
特別講演1「ばりあふりーお食事会の取り組みについて」では,井上 誠氏(新潟大)が登壇.「ばりあふりーお食事会」とは,新潟県内の特別支援学校教諭と新潟市内のホテルのシェフ,新潟大学摂食嚥下リハビリテーション学分野や介護食メーカーなど,関連する専門職種が集い,2009年から年に一度開催しているもので,「食べる」ことが困難で,外食を諦めることの多い,障がいのある子どもとご家族に対し,フレンチフルコース料理を提供する取り組みである.子どもの摂食嚥下機能に合わせた食形態(経管注入食,初期食,中期食,後期食,普通食)を産学が協力し,試食会を重ねて検討し,当日は食の安全に配慮しながら提供している.障がい児・者の社会参加について,行政や家族任せではなく,医療の場からも支援を行う実例として,クラウドファンディングへの取り組みなども含め,詳説した.
「公募シンポジウム1 口腔機能支援を支える基礎研究」では,今井健一氏(日本大学歯学部感染症免疫学),重村憲徳氏(九州大学大学院歯学研究院・口腔機能解析学分野),中村史朗氏(昭和医科大学大学院歯学研究科口腔生理学分野),辻村恭憲氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)の4名の研究者が登壇した.
今井氏は,「誤嚥性肺炎の発症と口腔健康管理」と題し,誤嚥性肺炎の発症には,口腔機能の低下と口腔内細菌が深く関わり,口腔健康管理(口腔ケア)の普及が有効であると解説.誤嚥性肺炎の発症メカニズムや口腔健康管理の有効性を解明する基礎・臨床研究の推進が求められるとし,口腔細菌やウイルスが呼吸器疾患や口腔機能に与える影響についてまとめた.
重村氏は「味覚フレイル:薬剤性味覚障害発症の分子機構の解明」と題し,薬剤性味覚障害のメカニズムの研究により,味覚受容体は口だけでなく全身の臓器にも存在し,生活習慣病や感染症と関係する可能性があると解説.将来的には,味覚調整物質の開発で健康維持や病気予防に役立てられることが期待されており,味蕾には未来があると言及した.
中村氏は「In vivo Ca2+ imagingでみる咀嚼時の大脳皮質ニューロン活動動態と歯牙喪失の影響」と題し登壇.咀嚼の際,個々の大脳皮質ニューロンがどのような活動を示すのか,歯の喪失によってどのように変化するかはよくわかっていないとしたうえで,動物実験により,咀嚼は大脳皮質の複数の領域が関与し,歯牙喪失によって,大脳皮質ニューロンの活動強度は増しつつも活動頻度が減るなど,脳の機能が柔軟に変化することを解説した.
辻村氏は「咀嚼が嚥下に与える効果」と題し登壇.「よく噛む」ことは肥満や生活習慣予防効果があるとされるものの,それにより,咀嚼嚥下動態がどう変化するかは知られていないと示したうえで,「よく噛む」場合と「自由に噛む」場合の,咀嚼嚥下動態の違いをVFと筋活動記録により検証.嚥下惹起と食塊嚥下時の咽頭通過の動態から,適量(中等量)をよく噛み,長く咀嚼することで誤嚥が少ないとし,固形物を安全に食べることにより栄養改善やQOL向上に繋がるとした.
学会2日目も多彩なプログラムが組まれ,多様な専門職がともに学び,経験を分かち合う機会となった.
次回大会は,2026年9月11日(金) ~13日(日), 神戸国際展示場,神戸ポートピアホテルにて開催される(大会長:加賀谷 斉氏/国立長寿医療研究センター病院).
「公募シンポジウム1」質疑応答
企業展示ブースの様子