2025/05/20
5月16日(金)~5月18日(日),朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター(新潟県新潟市)にて,標記学会学術大会・総会(大会長:小松﨑 明氏/日本歯科大学新潟生命歯学部)が,「口腔衛生学の真価,深化,進化」をテーマに開催され,特別講演,日本歯科医学会懇話会,2つの教育講演,日韓国際交流招待講演,12のシンポジウム,6つのミニシンポジウムが行われた.
特別講演では,「芸術と医療の融合を求めて」と題し,精神科医の伊集院清一氏(多摩美術大学)が登壇.歯科と精神疾患の関わりから始まり,表現精神病理学の精神医学における位置づけ,芸術療法の理論的枠組みへと話題が展開された.「天才の精神病理学」とも称される病跡学については,19世紀末から20世紀初頭にウィーンで活躍した著名な画家,エゴン・シーレの生涯における精神的なクライシスと画風の転換,それを超克していく様子を,彼の作品をもとに解説した.
シンポジウム1は「公衆栄養との連携に基づく成人・高齢期の歯・口腔の健康づくり」と題して3名のシンポジストと2名の指定発言者が登壇.山本龍生氏(神奈川歯科大学)は口腔衛生学の視点から,成人・高齢期の歯・口腔の健康づくりと栄養との関連に関する学術的エビデンスを概説.田野ルミ氏(国立保健医療科学院)は厚生労働科学研究事業「食育における歯科口腔保健の推進のための研究」報告とともに胎内市と蒲郡市の具体的な事例を紹介.日本公衆衛生学会「公衆衛生分野における行政管理栄養士のあり方委員会」委員の磯部澄枝氏(新潟県南魚沼地域振興局健康福祉環境部)は公衆栄養と歯科・口腔保健との有機的連携について,新潟県でのヘルスメイト(食生活改善推進委員)の取り組みを紹介.加えて日本公衆衛生学会「歯科保健のあり方に関する委員会」委員の福田英輝氏(国立保健医療科学院)・尾﨑哲則氏(日本大学)から指定発言がなされ,本学会と日本公衆衛生学会との共同企画の意義が語られた.
左から福田英輝氏,尾﨑哲則氏,磯部澄枝氏,田野ルミ氏,山本龍生氏
シンポジウム2は「口腔衛生学の新展開に向けた若手・中堅研究者からの提言」と題して,4名の演者が登壇.アルタンバガナ・ウンデンウチラル氏(神奈川歯科大学)は「オーラルフレイルとそのリスク及び認知度の地域差と関連要因」として,JAGESなどのビッグデータを活用した研究成果を紹介.兼保佳乃氏(広島大学)は「未来のオーラルヘルスの一助を目指す新規指標・デバイスの開発とエビデンス統合の実践」として,PBT歯ブラシの刷毛状態に着目した研究などを披露した.続いて,木内桜氏(東北大学)は「国際共同研究がもたらす口腔疫学における新たな知見」として,シンガポールおよびオーストラリアとの共同研究について発表.最後に竹内洋輝氏(大阪大学)が「分子細胞生物学による歯周病のリスクファクターの理解」として,歯肉上皮組織のタイトジャンクション関連タンパクであるCXADRとJAM1に着目した研究成果と将来展望を解説した.
シンポジウム4は「認定歯科衛生士を取得しよう!」と題して,野口有紀氏(静岡県立大学短期大学部),石黒 梓氏(鶴見大学短期大学部),佐久間 愛氏(医療法人社団ワンアンドオンリー麻生歯科クリニック)が登壇.それぞれの認定歯科衛生士資格取得に向けた取り組みやその後について具体的な体験談を報告.会場からは質疑応答も活発に行われ,サポーティングメンバーによる仮想質問も有効に使ってほしいとエールが送られた.
シンポジウム5は「現場で使える行動変容を促す患者支援テクニック~コーチング,MI,そして認知行動療法の視点から~」と題して,3名の演者が登壇.最初に「今から思えばナッジ理論!?―スポーツクラブコーチとしての経験から―」と題し,片岡宏介氏(徳島大学)が登壇.大阪大学でのアメリカンフットボールのコーチ・監督の経験から,現在でいうナッジ理論の実践ともいえる数々の取り組みを振り返った.続いて「認知行動療法・行動科学の理論と技法から」と題し,臨床心理士・公認心理師の佐々木淳氏(大阪大学)が登壇.パニック症を例に認知理論の概要を解説するとともに,認知行動療法を用いた行動修正のための技法などを紹介した.最後に「歯科医療における動機づけ面接(MI)〜禁煙支援と教育実践の視点から〜」と題し,谷口奈央氏(福岡歯科大学)が登壇.動機づけ面接(MI)の基本的な技法を解説するとともに,氏が専門とする禁煙支援において,WHOが推奨する手法である5Asと5Rsについて,MIの観点から解説を行った.
シンポジウム7は「歯科禁煙支援の推進を加速するロジックモデルの構築」と題して4名のシンポジストが登壇.田野ルミ氏は歯科衛生士学生の修学にWHO歯科簡易禁煙支援モデルの導入を提言.埴岡 隆氏(宝塚医療大学)は近年わが国で増えている加熱式タバコの公共の場以外の受動喫煙の対応が急務であると説明.谷口奈央氏は健康経営の歯科領域による取り組みとしてサンスターグループの健康経営戦略マップを紹介.尾﨑哲則氏は本学会がタバコ産業と関わらないという方針のもと,薬物依存等に対するアプローチ法の1つ,タバコのハーム・リダクションを解説した.
左から尾﨑哲則氏,谷口奈央氏,埴岡 隆氏,田野ルミ氏
多彩な領域のプログラムが組まれた本大会.同日同会場で旧ジャニーズグループのコンサートも開催され,例年以上に熱気に包まれた3日間となった.
次回,第75回学会学術大会・総会は2026年6月22日(金)~24日(日),沖縄コンベションセンター(大会長:杉原直樹氏/東京歯科大学)にて開催予定.