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日本歯科衛生学会 第19回学術大会開催される
 9月21日(土)~9月23日(月・祝),朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンターにて,標記学術大会(大会長:江川広子氏/新潟県歯科衛生士会監事)が,「ライフコースを通した健口文化の醸成」をテーマにハイブリッド開催された(※10月15日よりオンデマンド配信予定).
左から吉田直美氏,吉田幸恵氏,江川広子氏
 初日に,日本歯科衛生士会が専門歯科衛生士制度の確立を目指して立ち上げた「第1回専門領域別・研究集会」が開催され,「歯科衛生士の活動を学術へ-各専門領域の現在地を確かめる」をテーマに専門領域から2名ずつ登壇した.
『医療連携・口腔健康管理』では,「手術後合併症予防を目的とした口腔衛生管理法の確立に向けて」と題し,船原まどか氏(九州歯科大学歯学部口腔保健学科)が,多変量解析にて,手術翌日の摂食状態と口腔内の湿潤度が唾液中細菌数と有意に関連していた研究結果を報告.術後は速やかに経口摂食を開始できるような支援が必要と説いた.松田悠平氏(島根大学医学部附属病院歯科口腔外科)は「顎口腔外科疾患に関する口腔機能管理の疫学的研究」と題し,口腔癌治療前と治療後における口腔機能の低下と低栄養との関連性などを検査した研究を報告.手術そのもので機能低下が起こっているわけではないことが明らかになったことにより,治療前からの効果的な口腔機能管理の重要性を発信した.
『口腔健康教育』では,「歯科診療所における禁煙支援の効果」と題し,田野ルミ氏(国立保健医療科学院)が,70の歯科診療所に行った調査において,12回の禁煙支援を行った結果,ニコチン依存度指数,舌苔付着度,いずれも数値が下がったことを報告.しかしながら,歯科衛生士は喫煙者にならないための予防に力を注ぐべきと力説.柏井伸子氏(有限会社ハグクリエイション)は,「歯科用インプラント埋入時における感染対策-汚染物の飛散と付着について-」と題して登壇.介助者用個人防護具(PPE)への汚染物飛散状況をCBB試薬にて蛋白質量を定量し,PPEの汚染が確認されたこと,また,骨切削用ドリルの洗浄前後のRLU(Relative Light Unit)値を定量し,ATP量の減少が確認できたことを報告.
『地域連携・口腔健康管理』では,「通いの場に参加する地域高齢者との口腔・身体機能と参加期間との関係」と題し,三好早苗氏(広島県歯科衛生士会)が,広島県竹原市の週1回「通いの場」で実施されている高齢者の口腔体操による口腔機能と参加期間の関係を調査し,3年以上実施群が3年未満の群に比べて,加齢に伴う口腔機能の低下が緩やかであったことを報告.板木咲子氏(医療法人ピーアイエー ナカムラ病院)は「摂食嚥下リハビリテーションを通じた多職種連携の効果-認知症患者3症例の経験から-」と題し,摂食嚥下リハビリテーションや舌接触補助床(PAP)の装着など多職種が介入し,患者のQOLの向上につながった症例を報告.

第1回専門領域別・研究集会の様子
特別講演 斎藤トシ子氏
教育講演 白野美和 氏
 2日目午前の特別講演には,「低栄養予防における栄養・歯科連携の推進」と題して,斎藤トシ子氏(新潟医療福祉大学)が登壇.総人口・生産年齢人口の減少,医療・介護費の増加,人材不足の深刻化というトレンドのなかで,要介護につながる低栄養,フレイルを効率的に予防することが求められているとして,今年度の介護保険・医療保険の診療報酬改訂にこめられた狙いを解説.続いて地域における保健事業と介護予防の一体的な実施や,施設・通所・在宅における栄養・歯科連携の取り組みを紹介した.また,医療・介護現場での他職種連携実践(IPW)のためには,学生時代からの他職種連携教育(IPW)が不可欠として,新潟医療福祉大学においては2年生から学部横断的に進められているIPWの取り組みを紹介した.
 午後の教育講演では,「大学病院における訪問歯科の取り組み実践」として,白野美和氏(日本歯科大新潟生命歯学部 訪問歯科口腔ケア科)が登壇.同大新潟病院では,1987年より歯科訪問診療を開始し,加えて2014年には,歯科大学病院としては初の診療台を持たない訪問歯科専門の診療所「在宅ケア新潟クリニック」を三条市に開設している.白野氏は歯科大学病院の専門性を活かし,地域のかかりつけ医との役割分担を行うことで,歯科医療の後方支援を行っている体制を解説.また,近年では在宅生活を送る医療的ケア児の口腔健康管理に対する関与も深まっていると述べた.講演の後半では症例を提示しながら在宅での口腔機能管理の実際を紹介.この分野での歯科衛生士のさらなる活躍に期待したい,として講演を結んだ.

ポスター会場の様子
 3日目午前のシンポジウムは「健口文化の醸成を見据えたライフコースアプローチ」メインテーマのもと「-臨床と地域保健の融合-」を掲げ、まず基調講演で葭原明弘 氏(新潟大学 )が近年の研究からも口腔保健を抜きにして健康増進は成しえないことから歯科衛生士の役割は重要であることを述べ、オムニバス的にシンポジウムの全体像を紹介。地域保健として全体的に保健指導を行うだけでは健康意識が高い住民と、そうでない住民の健康格差が広がってしまう場合もあり、口腔保健ライフコースアプローチで重要な点は、地域のソーシャルキャピタルのありように留意しつつ、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの組み合わせを考えることであることを示した。
 続いて、行政、臨床、地域活動の立場から、それぞれ、浦邉萌絵 氏(新潟県福祉保健部 健康づくり支援課歯科保健係)、坂井由紀 氏(笹出線歯科クリニック)、樋口聖子 氏(上越歯科医師会在宅歯科医療連携室)が登壇。
 浦邉萌絵 氏は、1980年から県で取り組んだ「むし歯半減10か年運動」や全国初の歯科保健推進条例の施行など、新潟が全国に先がけて行ってきた歯科保健への取り組みを述べ、行政が従来より率先して根付かせてきた「にいがた健口文化」を紹介。
 坂井由紀 氏は、歯周治療における臨床の立場から症例を通じて患者のモチベーションの上げ方の工夫を紹介。指導と患者の変化を時系列で並列した図で示し何が効果的かを分かりやすく示した。
 樋口聖子 氏は、2015年にNHKクローズアップ現代でも取り上げられた上越歯科医師会在宅歯科医療連携室とともに歯科衛生士会が進めている地域医科歯科連携、介護関連・多職種連携について触れ、実際の症例を用いながら、介護予防事業におけるオーラルフレイル事業の取り組みを述べた。
 シンポジウムでは、多職種連携の重要な点はそれぞれの分野の人が少しずつ(自分の分野を)はみだして仕事をすることで、各領域の隙間に落っこちてしまう人が減るという葭原氏の言葉が紹介され、職種それぞれでの見る目は違うので、連携してシームレスな支援をしていくことの重要性について言及された。

大会は約1400名の参加者を集め,盛況のうちに無事閉じられた.
次回,第20回学術大会は,2025年11月1日(土)~3日(月・祝),東京にて開催予定(大会長:藤山美里氏).
演者左から葭原明弘氏,浦邉萌絵氏,坂井由紀氏,樋口聖子氏
朱鷺メッセからの眺め(信濃川):最終日にようやく秋晴れとなった

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