2024/07/01
6月28日(金)~6月30日(日),札幌コンベンションセンター(札幌市白石区)にて標記学会が「人生100年時代を切り拓く~口腔の健康を通して~」をテーマに開催された(大会長:山崎 裕氏・北大).
大会長講演『高齢者の日常診療におけるピットフォール~口腔内科学的観点の重要性~』(座長:水口俊介氏・医科歯科大名誉教授)では,山崎氏が高齢患者の口腔粘膜疾患として口腔カンジダ症と舌痛症・口腔乾燥症・味覚障害との相互関係に言及し,その特徴を解説した.
特別講演2『未来を拓く老年歯科医学教育を考える』(座長:米山武義氏・静岡県)では,羽村 章氏(日歯大)が日本老年歯科医学会のこれまでの流れと,そこに関わってきた氏の思いを述べ,現状の教育の問題からこれからへの期待などを述べた.
シンポジウム2『脳を基礎から理解する』(座長:金澤 学氏・医科歯科大,黒嶋伸一郎氏・北大)では,まず枝広あや子氏(東京都健康長寿医療センター研究所)が「脳機能の障害と共に生きる人の支援のために脳を知る~脳を基礎から理解したくなる臨床場面~」と題し,本人の生きづらさを理解していないことによるトラブルの例や,口腔機能と脳の機能の関連について臨床の立場から問題を提起した.
榊間春利氏(鹿児島大医学部)は「リハビリテーション(運動)と脳との関係性」と題し,老化促進マウスを用いた研究を紹介,運動による認知機能低下予防について解説した.
後藤哲哉氏(鹿児島大)は「口腔がアルツハイマー病の発想に関係するメカニズム」と題し,口腔のリスクファクターである歯周病と歯の喪失に関して三叉神経中脳路核に注目した研究を紹介した.
ランチョンセミナー2『回復期等口腔機能管理って何?-歯科のできることとは-』では大野友久氏(陵北病院)が登壇(座長:菊谷 武氏・日歯大),今次改正で病院歯科において回復期へのアプローチに保険点数がついた意義を具体的に示した.回復期は口腔ケアのみならず,歯科処置,義歯調整等を含め口腔を再建するステージであり,退院後に地域の歯科診療所へつなぐ重要な役割があることを詳説した.
シンポジウム6『R6年改定は私たちに何をもたらすのか?』(座長:菊谷 武氏・日歯大)では,まず小嶺祐子氏(厚労省)が「令和6年度歯科診療報酬改定の概要~老年歯科領域のポイント~」として,今次改定においてリハビリテーション,栄養管理,口腔管理の連携の推進が明記された点について詳説.
猪原 健氏(広島県)は「令和6年度診療報酬・介護報酬改定に向けた社会保険委員会の活動とその成果」と題し,今次改定に至る同学会社会保険委員会の活動を総括し,今後は職種の枠を超えた他学会との連携をさらに深化させる必要があるとした.
糸田昌隆氏(大歯大附属病院)は「歯科における令和6年度保険改定のもたらすもの~入院・入所患者さんへの歯科の関わりを中心に~」と題し,病院歯科の立場から今次改定のポイントや歯科からのアプローチに触れた.
シンポジウム9『歯科口腔保健法に基づく今後の高齢者歯科保健活動~歯と口腔の健康づくりプランをふまえたアプローチ~』(座長:三浦宏子氏・北医大)では,まず福田英輝氏(国立保健医療科学院)が2035年度までの12年間の国の施策である「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第二次),別称:歯と口腔の健康づくりプラン」の概要を説明.
続いて秋野憲一氏(札幌市保健福祉局)が登壇し,札幌市歯科口腔保健推進条例に基づく第2次札幌市生涯歯科口腔保健推進計画に沿って進められている同氏の先進的な取り組みを紹介した.最後に,水口俊介氏(東医歯大)が日本老年歯科医学会前理事長としての指定発言を行った.
スポンサードレクチャー『オーラルフレイルの新定義について』(座長:池邉一典氏・阪大)では,岩崎正則氏(阪大)が「新たに整理されたオーラルフレイルの概念と評価指標(OF-5)について」と題し,日本老年医学会,日本老年歯科医学会,日本サルコペニア・フレイル学会の3学会より2024年4月1日に公表された「オーラルフレイル3学会合同ステートメント」に基づくオーラルフレイルの定義〔口の機能の健常な状態と「口の機能低下」との間にある状態で,改善が可能〕と,歯科医療専門職が不在の場でも評価が可能な「Oral frailty 5-item Checklist:OF-5」の活用法と妥当性について述べた.
教育講演『百寿者の医学的特徴』(座長:池邉氏)では,新井康通氏(慶応大)が,同大で実施した百寿者,超百寿(105歳),スーパーセンチナリアン(110歳以上)の3つの長寿コホート研究などの比較を通じて,認知機能と栄養状態維持の重要性や,百寿者における分子・細胞レベルの特徴ならびに遺伝的特徴,生活習慣と健康長寿との関連性などについて考察した.
シンポジウム11『地域で最期まで支える」を実現するための覚悟とスキル』(座長:菊谷 武氏・日歯大,猪原 光氏・広島県)では,まず若杉葉子氏が「内科の在宅診療から考える歯科の責務」と題し,自身の訪問診療の事例・経験から,歯科医師として考える在宅医療の現場における視点,考え方等を示した.水越新人氏(日歯大)は「在宅歯科診療における医療ソーシャルワーカーの役割」と題し,アウトリーチとして関わった2ケースを呈示,医療ソーシャルワーカー(MSW)として生活の視点で患者を捉える重要性を解説した.菊谷 武氏(同前)は「人生の最終段階まで寄り添う歯科の可能性と課題」と題し,在宅医療,病院,それぞれの場における臨床倫理的思考を呈示し,家族の意思決定の揺らぎを支え,家に帰ってきたことを後悔させてない支援が求められるとした.大堀嘉子氏((株)紫恩)は歯科衛生士資格を持つ納棺師という立場から,「看取りの後に私たちのできること」と題し登壇,死後の人の身体・口腔の変化を解説し,個人の尊厳を保つため,,また家族のグリーフケアのためにも死後できるだけ早期の保湿と口腔ケア,および生前からの口腔ケアの重要性を解説した.
シンポジウム12『地域におけるオーラルフレイル対策と歯科衛生士の関わり』(座長:須田牧夫氏・横浜市,渡邉理沙氏・愛知県)では,最初に増田絵美奈氏(厚生労働省)が登壇,「介護保険を活用した高齢者の口腔管理の推進」と題して,令和6年度より開始された国の第9期介護保険事業計画および令和6年度介護報酬改定について解説した.続いて,武藤智美氏および末永智美氏(共に北海道歯科衛生士会)が,札幌市と他の北海道の市町村における北海道歯科衛生士会の取り組みの実際とその成果,今後の課題を提示した.
最後に,秋野憲一氏(札幌市保健福祉局)が「国保データベース(KDB)システムを活用したオーラルフレイル対策の今後の可能性」と題して,KDBシステムに収録されているデータの内容と具体的な活用方法を解説,行政部局に歯科医師,歯科衛生士が在籍する市町村では特に積極的に活用して欲しいと呼びかけた.
なお,今大会にて新理事長に,平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター)が就任した.
次回大会は,2025年6月27日(金)~29日(日),幕張メッセ(千葉県)にて開催される予定(大会長:片倉 朗氏・東歯大)(*第34回日本老年学会総会 併催).