2023/11/01
さる10月29日(日),ビジョンセンター浜松町(東京都港区)にて,標記情報交換会が開催された.
3Dアカデミー(旧3D研究会)は,口腔内スキャナー(IOS)によるデジタル印象をはじめとした歯科治療全般のデジタル技術を研究し,デジタルワークフローを確立することで歯科医師,歯科技工士の労働環境の改善や国民の口腔健康に寄与することを目的として2014年に発足したスタディグループであり,今回の情報交換会が第9回目となる.
はじめに同会会長の千葉豊和氏(札幌市開業)より開会挨拶が行われ,
「IOSを基軸としたインプラント治療,審美修復治療,矯正治療は当然のこととなっており,これからはそれをどう活用していくかが重要になってくる.本日の情報交換会では各ジャンルの著名な先生方による講演が行われるので,最新の情報を得て,明日からの臨床に役立てていただきたい」と述べた.
リレーセッション「スキャンアバットメントを再考する」田中義篤氏,夏堀礼二氏,寺本昌司氏
田中氏は,IOSによるインプラント印象採得に用いる「スキャンゲージ」(Osteon)について解説.スキャンボディが近遠心方向に伸びた形状をしており,これによりインプラント間距離,欠損部の長さをスキャンゲージが補償することで印象範囲が広くてもインプラント位置情報を正確に採得することができるという.
夏堀氏は,精密なインプラント上部構造の製作には,スキャナー,ミリング,3Dプリンター,CADソフトのマッチングなどさまざまな因子があるが,とりわけスキャンアバットメントの精度の重要性について指摘.インプラントレプリカに締結して浮き上がりがないか確認するといった臨床術式以外にも,スキャンアバットメントの材質,形状によっても精度は影響を受けるため,術者が適切なスキャンアバットメントを選択することが重要であると述べた.
寺本氏はまずはじめにサブジンジバルエリアの形態,反応がインプラント治療において重要であると述べ,プロビジョナルレストレーションで煮詰めた形態をファイナルへ正確に移行するため,プロビジョナルレストレーションとIOSデータの重ね合わせや,「3 on 1 Ti base」(デンテック)について解説した.
大学研究発表
「補綴治療のデジタル化について」馬場一美氏,古舘美弥氏(昭和大学)
馬場氏は,歯科全体でデジタル化は進みつつあるが,その普及や発展のカギは歯科技工士にあると指摘.昭和大学ではデジタル化が進んでいるが,それは歯科技工士がデジタルのことを理解し,努力しているからであると敬意を表した.
また今後のデジタル化については,「モデルレス」と「データの統合・移行の最適化」にあり,「モデルレス」についてはIOSとモノリシックジルコニアがポイントである,「最適化」については,生物学的・機能的・審美的最適化を図るため,歯科技工士と連携して治療に取り組み重要性について指摘した.
続いて歯科技工士の古舘氏が,機能の最適化を図るために顎運動データを活用したクラウンの機能的咬合面形態の設計について解説した.またFace Scanを活用して審美的最適化を図った症例を供覧した.
教育講演「デジタル義歯の現状」山崎史晃氏(富山県射水市開業)
山崎氏は,3Dプリンター義歯,ミリング義歯,既製人工歯をミリング義歯床に接着した義歯を供覧.従来法の工程に比較して製作効率が向上したこと,患者の満足度の向上,調整回数の減少,粘膜面・咬合の再現性向上が認められたという.
「審美領域におけるデジタル技術の活用」大河雅之氏(東京都渋谷区開業),山本恒一氏(大阪府大阪市開業)
大河氏,山本氏は「デジタル印象によってラミネートべニアのプレパレーションデザインがどう変わったか」「ミリングマシンを用いたラミネートべニア製作」「チェアサイドCAD/CAMによるラミネートべニア」について講演.エナメル質を極力保存しつつ,審美性の高いラミネートべニア修復を行うためには,術前の診断が重要であり,適切なプレパレーションデザインの選択と手技,そして歯科技工士との連携について述べた.
インプラント,義歯,審美修復治療,大学研究など,多岐にわたるデジタル歯科の現状が示され,盛会裏に幕を閉じた.次回は,2024年10月開催予定である.