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令和5年度 日本臨床歯科補綴学会学術大会 開催される



 さる8月6日(日),東京国際フォーラム・ホールD7(東京都千代田区)にて,令和5年度 日本臨床歯科補綴学会学術大会が開催された.
 同会理事の兒玉敏郎氏による開会の辞,同会理事長・浅野栄一朗氏による挨拶のあと,午前の部が開始した.
浅野栄一朗氏



【教育講演1】「歯科技工士の現状と未来」(森野 隆氏/公益社団法人 日本歯科技工士会 会長)
 森野氏は歯科技工士の現状について,就業歯科技工士数はここ数年,横ばいで推移している一方で,50歳以上の歯科技工士が就業者数全体の50%を超えていることを指摘.また歯科技工学校入学者数の減少や免許取得者の就業率の低下が顕著であることから,早急に対策を講じる必要性を訴えた.


【教育講演2】「残存組織の保全と機能回復率の向上を両立させ健康長寿を目指す」田中希代子氏(医療法人社団 Smile Art 理事長)
 田中氏は,「残存組織の保全と機能回復率の向上」を両立させる治療計画を立案することが重要であると述べ,その概念に基づき治療を行った症例を供覧.矯正治療,インプラント治療,総義歯による補綴治療など,さまざまな治療を駆使した20年以上の長期経過症例を提示した.


【教育講演3】「咬合不調和の治療で姿勢も改善する」藤田良磨氏(RYOMA Dental Tachnician’s Office)
 藤田氏はインプラント治療を含めた全顎的な治療を受けたものの,咬合の不調和により機能障害が生じた症例に対し,パーシャルパラレルミリングによるリジッドサポートを構成した義歯治療症例を提示.また本治療により全身の姿勢バランスも改善して著明な機能回復が図られ,補綴治療による全身への影響についても示した.


【教育講演4】「舌を診て姿勢の乱れから全身への影響に気づく」小山浩一郎氏(Japan Dental Colleagues会長,おやま歯科中通り診療所)
 小山氏は,咬合の不調和が舌筋の過緊張を引き起こし,挺舌時に舌尖が偏位することを症例を交えて解説.さらに,低位咬合や早期接触などにより全身の筋肉の過緊張が生じ,姿勢変化にまで及ぶ症例を提示した.


【教育講演5】「インプラント補綴とマテリアルについて」崎田竜仁氏(CARESソリューションセンター代表)
 近年のインプラント補綴の傾向として,臼歯部ではモノリシックジルコニアのスクリューリテイン修復が大半を占める現状を症例を交えて解説.また模型に関しては,3dプリンターではなく,石膏ディスクのミリングが精度面において望ましいとの見解を示した.


【教育講演6】「残存歯の保護と歯列の連続性の維持-力のコントロールはできるのだろうか?」内田剛也氏(鶴見大学歯学部歯周病学講座臨床教授)
 歯周治療後の歯周組織の維持には,炎症のない歯周組織と安定した咬合が不可欠であるが,歯周治療後のメインテナンス時の抜歯原因は歯根破折が最も多く,外傷性咬合への配慮が重要であると述べ,歯の動揺に伴う歯槽骨の吸収や歯の病的移動,歯肉退縮との外傷的な咬合力の関連性について症例を交えて解説した.



 午後の部では,小出 馨氏,筒井照子氏,本多正明氏による特別講演が行われた.

【特別講演1】「咬合が果たす役割の大きさ」小出 馨氏(日本歯科大学名誉教授)
 小出氏は,顎口腔系の機能は,咀嚼,嚥下,呼吸,発語,口腔感覚,顔貌や審美性のみならず,頭位や姿勢の維持,身体運動能力などの重要な機能と密接な関係を有している,さらに近年の研究では,咬合は脳機能を活性化し,精神,心理状態の改善にも関連していることが示されており,日々の生活の質,健康寿命,人生の満足度まで大きく関わっていると指摘,歯科だけができる咬合治療が極めて重要であると述べた.
 さらに,全身のさまざまな障害の引き金となるオーラルフレイルや口腔機能低下症,認知症,転倒なども,咬合の不調和が一つの誘因となるため,咬合の安定が寝たきりや要介護を回避して健康長寿に繋がると述べた.
 こうした咬合の不調和に起因する生体現象に対しては,適正な診断を行うことが重要であり,咬合をはじめとする顎口腔系の診断基準について整理した.
小出 馨氏



【特別講演2】「咬合基本治療~多様なスプリント療法の活用~」筒井照子氏(筒井塾主宰,筒井歯科・矯正歯科医院)
 歯科治療においては「力」と「炎症」のコントロールが重要でありが,力に関しては「咬合基本治療」がその要となる.まず咬合高径や偏位を元に戻し,そこから確定的治療として矯正治療や修復治療を行うこととなる.また“元に戻す”にはスプリント療法が有効だが,咬合崩壊の過程には個体差があるため,その“壊れ方”に沿ったスプリント療法を行う必要があると述べ,症例に応じたスプリントの選択について示した.
筒井照子氏



【特別講演3】「口から食べるための咬合・補綴治療~咬頭嵌合位の安定」本多正明氏(日本臨床歯科学会副理事長,本多歯科医院)
 近年,口腔機能の低下による問題が指摘されているが,顎口腔機能不全になった患者に対し,補綴学的に安定した「咬頭嵌合位」を確立することにより,オーラルフレイルを抑制することも可能になると述べた.さらに歯科臨床において長期的に安定した治療結果を得るためには,力のコントロールが重要であり,咬合を安定させるために最も重要視しているのも「咬頭嵌合位の安定」にあると述べ,矯正治療,インプラント治療,補綴治療などさまざまな治療により咬頭嵌合位を安定させた長期経過症例を数多く提示した.
本多正明氏



 ひさしぶりの現地開催となった大会だけに,講演後には会場から多くの質問があり,白熱した質疑応答が行われた.

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