2023/02/27
2/26(日),文京シビックホール 小ホール(東京都文京区)にて,標記大会(大会長:福田雅臣氏/日本歯科大学生命歯学部)が,“「生きる力」を育む学校での歯・口の健康づくり-今後の展開-”をテーマに,学校歯科保健・教育研究会と共同開催された.年1回開催されていた両学会であるが,令和2年以降は新型コロナウイルス感染症蔓延のために見送られ,3年ぶりの開催となった.
新型コロナウイルス感染症流行前の令和2年2月(令和元年度)に『「生きる力」を育む学校での歯・口の健康づくり』が改訂・発行された.学習指導要領の改訂を踏まえて,「生涯にわたる健康づくり」に関する資質・能力を「知識・技能」,「思考・判断力・表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」の三本の柱に沿って,また,保健教育分野が保健学習と保健指導に区分されていたが,この二領域が統合されたことを反映させた改訂となったが,改訂の主旨を学校保健関係者に広く伝えることがこれまでかなわず,口腔衛生関東地方研究会との共同開催という形にてようやく場が整った.
基調講演①では,「学習指導要領改訂と“「生きる力」を育む学校での歯・口の健康づくり”」をテーマに横嶋 剛氏(文部科学省初等中等教育局)が登壇.「受け身ではなく主体的に向き合う力」「蓄積された知識を礎としながら,膨大な情報から何が重要なのかを判断する力」を身につけるための学習指導要領改訂であること,また,日本のデジタル化の遅れを指摘し,コロナ禍の教育が機能不全に陥った事実を述べ,ICT端末が鉛筆やノートと同じマストアイテムとなるような“GIGAスクール構想”の実現についても解説した.
基調講演②では,「学習指導要領改訂とこれからの歯科保健活動」をテーマに安井利一氏(明海大学)が登壇.『「生きる力」を育む学校での歯・口の健康づくり(令和元年度)』について,「口腔機能や食育の充実」及び「家庭や地域社会との連携」を基本とし,学習指導要領を鳥瞰する学力の三要素についても十分配慮した改訂であることを説明.歯肉炎などの健康課題は自身の目で見ることができ,原因と結果の学習が容易であり,感動体験ができる特徴をいかした歯科保健活動が求められると解説した.
シンポジウムでは『“「生きる力」を育む学校での歯・口の健康づくり”今後の展開を考える』をテーマに4人のシンポジストが登壇.
最初に,「歯・口の健康づくりの理論と基礎知識」をテーマに井上美津子氏(昭和大学歯学部)がむし歯予防だけでなく,口腔機能の発達・支援や学齢期にみられる口腔習癖についても学校,家庭,地域の医療機関の連携した対応が望まれると提言.
次に「歯・口の健康づくりの実際」をテーマに根岸 淳氏(横浜市教育委員会)が,「保健教育」においての学習内容を紹介.「学校は気づきの場,揺さぶりの場であり,そこに学校歯科医や歯科衛生士が介入することで,子供たちの“生きる力”となり,健康で豊かな人生につながると発信.
三番目に「歯・口の健康づくりにおける組織活動」をテーマに柏原聖子氏(狛江市教育委員会)が,特別な支援が必要な子供たちへの教育への支援アイテムとして,視力に問題がある子供への点字教材やプラークを触って学ぶ模型を紹介.また,「SDGsに向かう歯・口の健康づくり」への取り組みとして,ある中学校での給食の食べ残しにおける学生自らの気づきと学びをまとめた研究報告を紹介.
最後に,川戸貴行氏(日本大学歯学部)が総括して,日本学校歯科医(日学歯)での取り組みを報告した.
シンポジウム座長(左から尾﨑氏,福田氏)
シンポジスト(左から川戸氏,柏原氏,根岸氏,井上氏,安井氏,横嶋氏)
3つ目のプログラムでは『“「生きる力」を育む学校での歯・口の健康づくり”を活性化する模擬個別指導-ICTを活用した歯周疾患に関する個別指導の展開-』をテーマに日本学校歯科保健・教育研究会運営委員会による模擬個別指導(主題:歯肉は変わる!歯肉を変える!)を実際に披露(対象者:歯科健康診断時にG,GOでピックアップされた中学生,指導者:学校歯科医・養護教諭).歯肉炎の原因やプラーク・歯石,ブラッシング方法などを学校歯科医が説明した動画をタブレット端末で見ながら,養護教諭が保健室で生徒に個別指導を行うというもの.生徒は自分の口腔内写真を指導前・指導後に撮影し,端末で変化を見ることができるため,行動変容を起こしやすく成功体験につながることが期待できるコンテンツである.
その後,会場参加者がその場で3~4名のグループをつくり,模擬個別指導についての感想及びICTを活用した個別指導の展開について討議を行った.健診結果等を落とし込み総合的に活用できると理想的であること,ハイリスクの生徒だけでなく,全生徒が携わることができる小学校6年間を通した『歯のアルバム』作成など,さまざまなアイディアが会場から登場し,第30回という節目を迎える日本学校歯科保健・教育研究会大会の初の試みは盛会であった.
歯科医師,歯科衛生士,養護教諭,そして行政関係者など130名の多職種が集い,対面で討議をする重要性と意義を再認識した本大会.コロナ禍の3年間は決して失われた時間ではなく,次のステージに踏み出すための大切な時間であったと思わせる一日であった.