2022/08/30
2022年8月28日（日），標記オンライン学術大会が「口腔と全身の健康-過去・現在・未来―Oral Health and Systemic Health: Past, Present, and Future」をテーマとして開催された．（大会長：深井穫博氏，深井保健科学研究所）
セッション１「コホート研究およびリアルワールドデータを用いた口腔と全身の健康との関連に関する研究展開」（座長：宮崎秀夫氏，明倫短期大）では，3名の演者が登壇した．
「口腔と全身の健康に関するコホート研究における研究手法 の現状と課題」の演題で登壇した古田美智子氏（九大）は，口腔と全身の健康に着眼したコホート研究のいくつかを紹介し，その手法や課題について論じた．「リアルワールドデータを用いた歯科疫学研究」の演題で登壇した佐藤美寿々氏（東大），岩崎正則氏（東京都健康長寿医療センター研究所）は，は歯科領域における RWD 研究についてその展望を語った．
セッション２「統計手法を用いた観察研究からの因果推論の可能性」（座長：竹内研時氏，東北大）では，2名の演者が登壇した．「因果推論の注意点」の演題で登壇した野村義明氏（上海理工大）は，疫学において重要でありながら限定的にしか語られてこなかった因果推論について，論理学の観点から解説した．「自然実験による口腔と全身の因果関係の解明」の演題で登壇した松山祐輔氏（医科歯科大）は，歯科疫学における因果推論の可能性を語った．
セッション３「歯科口腔保健と医療費」（座長：福田英輝氏，国立保健医療科学院）では，2名の演者が登壇した．「医療費データを用いた口腔と全身の健康の関連」の演題で登壇した嶋崎義浩氏（愛院大）は，三重県後期高齢者医療広域連合が管理する保健・医療に関するデータから，口腔と全身の関連性について述べた．「診療報酬明細書（レセプト）データからみる歯科口腔保健と医療費の関係」の演題で登壇した恒石美登里氏（日本歯科総合研究機構）は，歯数や咬合支持と医療費の関連性を解き明かしたレセプトデータを紹介したうえで，レセプト研究における展望を語った．
セッション４「実践および健康政策につなげる研究展開と基盤整備」（Ⅰ部座長：小川祐司氏，新潟大．Ⅱ部座長：百合草健圭志氏，静岡がんセンター）では，Ⅰ部に3名，Ⅱ部に4名の演者が登壇した．
Ⅰ部は後述の演者と演題にて進行した．「国民皆歯科健診の展開」の演題で登壇した花田信弘氏（鶴見大）は，6月に政府が打ち出した国民皆歯科健診について検討し，適切な患者管理システムを確立することが急務であると主張した．「歯周疾患検診有効性の検討」の演題で登壇した竹内研時氏（東北大）は，さまざまなデータから，歯周疾患検診受診がその後の歯科受診割合の増加に寄与するかどうかについて検討した．「日本の歯科研究の低迷をどうすればいいか：疫学・公衆衛生研究について」の演題で登壇した相田 潤氏（医科歯科大）は，国際的な研究力の低下が指摘される日本の現状を振り返り，わが国の研究に欠落した部分を指摘した．
Ⅱ部は後述の演者と演題にて進行した．「大きすぎて埋もれがちな統計表データの見える化-Excel の Power Query とピボットグラフの e-Stat・NDB オープンデータへの活用」の演題で登壇した安藤雄一氏（国立保健医療科学院）は，オープンデータをより有効に活用するために，データの「見える化」を行う方法について解説した．「病床機能報告からみた一般病院の医科歯科連携の状況」の演題で登壇した岡本悦司氏（福知山公立大）は，最新の病院機能報告を分析したうえで，医科歯科連携に関する加算項目からみえる展望について話した．「がん口腔 支持医療の臨床実装にむけて―当科における実装科学からの研究アプローチ」の演題で登壇した上野尚雄氏，八岡和歌子氏（国立がん研究センター）は，国立がん研究センターに初めて立ち上がった，行動科学を扱う研究部（行動科学研究部）がエビデンスに基づく介入（evidence-based intervention，EBI）を社会実装していく様子について解説した．
総括コメントとして，「デジタル化社会における歯科医療・口腔保健」の演題で登壇した神原正樹氏（神原グローバルヘルス研究所）は，社会改革の進む先に，livable, happiness and wellbeing な社会があるべきであり，歯科領域の専門家たちが担う役割は大きいと話した．