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「救歯会30周年記念発表会」開催される
 2月19日(土),20日(日)の2日間,大手町サンケイプラザ(東京都千代田区)およびオンライン配信併催にて,スタディグループ救歯会30周年記念発表会が「救歯臨床30年の軌跡――経過観察と臨床統計の結果を踏まえて」をメインテーマに,会場・オンライン含め250名の参加者のもと開催された.(代表:伊藤公二氏/東京都,実行委員長:法花堂治氏/千葉県)

 冒頭のオリエンテーションにて,黒田昌彦氏(東京都)が,同会30年の歴史を紹介.歯の保存と経過観察にこだわり抜いた臨床への姿勢とともに,特に20周年を経過して以降に取り組んでいる臨床統計の話題に言及.本発表会はそれら臨床統計の成果に基づいたプログラムであること,そしてそのデータに関連して会員全員が症例発表を行い,各テーマごとにシンポジウム形式でより議論を深めていくとの,2日間のプログラムに込めた意図を紹介.

 初日最初のパート「自家歯牙移植の予後を検討する」では,吉野浩一氏(神奈川県)が,2011年に実施した712歯の移植歯の生存率調査を紹介.移植歯の推定平均生存率は5年で90.1%,10年で73.6%,15年で59.5%との結果が示され,またリスクファクターの分析から,条件を絞り込むことで,さらに高い生存率が得られることを報告.自家歯牙移植の信頼性および症例選択の指標が示された.6名の会員発表では,さまざまなシチュエーションにおける自家歯牙移植の実際例が報告された.
 続いてのテーマは「インプラントの対合歯,隣接歯の予後」.インプラント自体の生存率に関する報告は多いものの,インプラントが残存歯の保存に寄与しているかについての報告は少ないことから,同会では2012年にインプラントの対合歯や隣接歯の喪失への影響を調査.対合歯よりも近心隣接歯の喪失のほうが有意差をもって多いとの調査結果が,井汲周治氏(群馬県)により紹介された.症例報告は会員5名が登壇.残存歯を守るためのインプラントの応用の可能性について報告を行った.
 続くシンポジウム「自家歯牙移植・インプラントの応用は欠損歯列の崩壊を防げるか」では,欠損の進行抑制のための自家歯牙移植およびインプラントによる歯列改変のあり方についてディスカッション.介入判断の根拠や連結の是非,咬合の管理などの議論を経て,欠損歯列を十分に読んだうえで歯列内配置の改変が行われるべきとまとめられた.(座長:伊藤公二氏/東京都,法花堂治氏/千葉県)


 2日目の最初のテーマは「メインテナンスの有無による歯の保存を検証する」.メインテナンスにより多くの歯が保存されているとの多くの歯科医師に共通する臨床実感を実証する2014年の臨床統計が,梅原一浩氏(青森県)により紹介された.同会所属の33施設2,100名の患者調査であり,1,361例の定期受診群と429例の問題時来院群における,10年間の平均喪失歯数について解析.前者で1.20本,後者で1.43本との,有意差のある結果が報告された.会員発表では「救歯臨床と経過観察」のテーマで6名の演者が登壇.生活歯であること,臼歯部の咬合高径を維持することの重要性等が報告された.
 シンポジウム「経過観察に何を学ぶか」では,介入の時期や介入の程度をめぐる基準,経過をフィードバックするポイント等が議論された.(座長:豊田真基氏/東京都,日高大次郎氏/東京都)

 続くテーマは「歯根破折の予兆を読む/トラブル頻発症例に学ぶ/難症例を紐解く」.メインテナンスにより多くの歯が保存できることが明らかとなる一方,どうしても避けられないトラブルとして歯根破折がクローズアップされ,経過観察のなかでその予兆をつかめないかとの問題意識から,垂直性歯根破折402歯を2016年に調査.奥平紳一郎氏(愛知県)により,年齢や部位,歯髓の有無,予兆とされる症状の分析,症状発現から確定診断までの期間等に関する調査結果が報告された.
 また,服部夏雄氏(東京都)は,歯根破折に代表されるトラブルが集中する症例群を「トラブル頻発症例」,トラブルの予測がつきにくい症例群を「難症例」とする同会での位置づけを紹介し,「欠損歯列」「力」「歯周病」のそれぞれの視点からその実態に迫った.
 続くシンポジウムでは「トラブルを最小限にする試み」をテーマにディスカッション.トラブルの要因は多岐にわたり絞り込みが難しいこと,経過観察のなかでしか見えてこない問題の存在などが話題となった.(座長:服部夏雄氏/東京都,宮田 泰氏/愛知県)

 最後のテーマは「コーヌスクローネを支台装置に用いた義歯とその支台歯の生存率」.同会では長らく,超高齢社会において最適な欠損補綴としてコーヌスクローネを位置づけ,長期の症例報告を積み重ねてきた経緯があり,2018年に454のコーヌスクローネ義歯と1,939の支台歯について,その生存率を算出.義歯の生存率は,10年で94.1%,20年で75.1%となり推定生存年数は29.0年,支台歯については10年で85.4%,20年で66.8%となり推定生存年数は26.7年との結果が法花堂治氏(千葉県)により示され,長期に安定して使用される義歯であることが強調された.会員発表では5名の演者が,さまざまなシチュエーションにおけるコーヌスクローネ義歯の応用を紹介した.
 シンポジウム「長期経過症例から探るコーヌスクローネの魅力」では,4名の演者が登壇.30年を超えるコーヌスクローネ義歯の経過から,超高齢社会に最適な補綴装置であることを再確認した.一方,その製作工程の複雑さから,間接法の正確な理解とラボとのコミュニケーションが,製作時の肝となることも強調された.(座長:木村敏之氏/千葉県,壬生秀明氏/東京都)

 最後に黒田氏が登壇.「まとめにかえて」として,50年を超える臨床の一端を,印象深い症例とともに振り返り,「救歯臨床」「経過観察」「臨床統計」と,スタディグループとともに歩み続けた歴史を紹介した.「術者満足の医療」から「患者満足の医療」へと日々の臨床を変えていく点において,スタディグループの存在意義があることを強調し,2日間を締めくくった.


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