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2021年度 日本臨床歯科学会 第6回学術大会 開催される -臨床と研究を橋渡しする多様な講演発表-
 さる11月7日(日),2021年度 日本臨床歯科学会 第6回学術大会がweb開催された(大会長:大河雅之氏/代官山アドレス歯科クリニック).

●副理事長講演「インプラント補綴による咬合のバランスおよび患者QOL の向上」(本多正明氏/日本臨床歯科学会 副理事長,本多歯科医院)

 欠損歯に対するインプラント補綴の有用性について,自身が行った研究をもとに講演した.

  インプラント治療を受けた部分欠損患者に対し,咬合接触面積,咬合力,包括的口腔健康評価指数(GOHAI)調査票を用いた口腔健康に関連する生活の質(OHRQoL)を測定した結果,補綴後の咬合接触面積および咬合力はインプラント側で補綴前のものより著しく高かった.また接触面積と咬合力の比は,補綴後のインプラント側と非インプラント側とで著しい差異は見られず,咬合分布のバランスが向上したことを示した.複数歯欠損症例では,補綴後に咬合接触面積がインプラント側で著しく増加したが,単歯欠損症例では統計的に著しい差異は見られなかった.GOHAI スコアは,複数歯欠損症例では補綴後に著しく上昇したが,単歯欠損症例では,補綴の前後で著しい差異は見られなかった.結果として,インプラントを支台とする補綴装置は咬合機能および咬合バランスを回復させるものであり,特に複数歯欠損症例では咀嚼機能の回復とOHRQoLの向上に有用であることを示した.
●教育講演「インプラント周囲炎に対する考え方と対応」(小濱忠一氏/小濱歯科医院)

 インプラント治療は,審美的,機能的に満足した治療ゴールを達成することが可能である一方で術後に外科的・補綴的トラブルが発生することも少なくない.
とりわけ,インプラント周囲炎への対応は,現時点においても明確なガイドラインが確立されていない,としたうえで,インプラント周囲炎に対するリスクファクター,インディケーターの変遷と現時点における捉え方を提示し,特にインプラント埋入ポジションがアバットメントや上部構造の形態を大きく左右しインプラント周囲炎のリスクに関連することなど,臨床的対応について示した.
●講演(研究)「CAD/CAM用ポーセレンブロックに対するフッ化水素酸処理後の経過時間がエナメル質への接着強さに及ぼす影響」(大河雅之氏)

 新谷明一氏(日本歯科大学)との共同研究,シリカ系セラミックスへのフッ化水素酸処理後の経過時間が接着強さに及ぼす影響について講演した.

「唾液60秒間浸漬+60秒間のフッ化水素酸処理+5分間エタノール超音波洗浄」(HF)と「24時間前に60秒間フッ化水素酸処理+唾液60秒間浸漬+60秒間リン酸処理+流水による水洗」(24HF)と「72時間前に60秒間フッ化水素酸処理+唾液60秒間浸漬+60秒間リン酸処理+流水による水洗」(72HF)のせん断接着強さを比較すると,HFは37.1MPa,24HFは,37.4 MPaに対し,72HFは23.1 MPaと有意差を認めた.よってフッ化水素酸処理後,24時間以内に装着することが望ましいことが示唆された.
●講演(研究)「インプラント周囲炎における発症要因の検討」(名取 徹氏/名取歯科医院)

 インプラント周囲炎の発症要因として考えられている歯周病の既往,口腔衛生状態,メインテナンス頻度,角化粘膜の幅,埋入ポジション,セメント残留(上部構造の連結様式)について多施設で行われた研究をもとに講演した.インプラント周囲炎罹患患者は非罹患患者に比較して,歯周病の既往があるもの,口腔衛生状態不良なもの,メインテナンス頻度が少ないもの,角化粘膜幅が2mm未満のものの割合が多かった.一方,埋入のポジションと上部構造の連結様式には差は認められなかった.

 このことから,歯周病の既往がある患者には,「術前に徹底した歯周病のコントロールを行うこと」,「最終補綴装置装着後も,歯科医師が歯科衛生士と連携し適切なタイミングでPMTCを行ってプラークコントロールを行うこと」,「インプラント周囲に2mm以上の角化粘膜を温存・造成すること」がインプラント周囲炎の予防に重要であることを示した.
●講演(研究)「L-ラクチド・ε-カプロラクトン二層性GBR メンブレンの露出耐性に関する検討」(榊原 亨氏/榊原歯科クリニック)

 L-ラクチド・ε-カプロラクトン共重合体を主原料としたメンブレン(製品名:サイトランスエラシールド;ジーシー)が,オープンバリアメンブレンとして使用が可能か検証した研究をもとに講演.

 実験では,分解吸収挙動確認試験としてメンブレンを遠沈管中で疑似体液に浸漬し,浸漬開始後1, 4,8週後に回収した試料を浸漬前の重量を100 とした場合に対する重量として残存重量率(%)を算出した.そして,分解吸収進行後の試料を引張試験にて破断距離を調べた結果,0週から4週,8週へと破断距離は有意差をもって低下していた.しかし,SEM像やマイクロCT像からメンブレンの構造体自体は維持し,穴が空いたりなどの構造が破綻することはなく,本メンブレンは吸収性でありながらオープンバリアメンブレンとして応用可能であることが示唆された.
●講演(臨床) 「包括的治療計画の重要性」(構 義徳氏/六本木カマエデンタルオフィス)

 講演では,10年間におよぶ矯正治療のために,酷い頭痛,首回りの凝り,不眠,鼻閉感,パニック症候群などを主訴に紹介で来院された40歳の男性に対して,包括的治療計画に基づき治療を行ったことで,上記の症状を改善,寛解した症例を通し,包括的治療計画の重要性について論じた.
●講演(臨床)「矯正治療後の機能・審美的問題を補綴修復治療により改善した一症例」(陶山新吾氏/陶山歯科医院)

 講演では,初診時25歳女性,矯正医より今後の補綴修復治療の必要性を考慮して相談・依頼があった症例について解説した.矯正治療途中であったが意見交換を行い,治療目標を共有して矯正治療を継続.歯の移動に限界があり目標を達成できなかった点もあったが,矯正後に機能・審美的な問題点を抽出し,各部位ごとに根面被覆術,咬合面形態の回復,コネクティブティッシュグラフト等を行い,順序立てた治療計画のもとに補綴修復治療を行った症例を供覧した.
●講演(臨床)「Minimal Intervention に寄与している歯質接着システム進化の変遷」(宮地秀彦氏/宮地歯科医院)

 エナメル質・象牙質双方に強く安定した接着性を有する2ステップセルフエッチングプライマーやエナメル質のみでなく象牙質に対しても優れた接着強さを示す3ステップエッチ&リンスシステムなど,接着システムの基本的機構と現在に至るまでの世代の変遷について詳説した.

●教育講演「欠損部に対する包括的治療戦略」(米澤 大地氏/米澤歯科醫院)

 先天性欠如歯のある矯正治療患者や多数の予後不良補綴歯や過去の治療によって生じた欠損部を含む患者に対しては,矯正学的診断,補綴学的診断単独で計画を立てるのではなく,予後不良歯を便宜抜去の対象としたり,欠損部分を閉鎖したりする等,包括的な診断に基づいて治療計画を立案する重要性について症例を交えて解説した.
●特別講演「心と体と地球に優しい歯科医療を目指して」(添島正和氏/添島歯科クリニック)
 歯周・補綴・インプラントを主体として包括的な処置を日常的に行っている日本臨床歯科学会としても,ミクロの審美・インプラント・歯周治療だけにとどまらず,全会員が全身の健康,すなわち真の意味での審美を意識した禁煙サポートに取り組む必要がある,としたうえで,歯周治療,禁煙指導,TBIの効果を細菌検査や血流モニターを用いて評価している自院での取り組みを紹介した.

 それぞれの講演後には,web視聴者からの質疑応答が活発に行われた.
 次回は2022年11月25日~27日に広島にて開催予定となっている.
講演演者(左より:構 義徳氏,陶山新吾氏,宮地秀彦氏,米澤 大地氏,添島正和氏,大河雅之氏,新谷明一氏,名取 徹氏,榊原 亨氏)  ※写真撮影時のみマスクを外しています.

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