2021/11/18
2021年11月8日(月)「いい歯の日」,大阪大学歯学研究科は「歯科全体における社会課題」として,「視覚障がいのある方にも平等に『健口』を!」をスローガンに,標記のプロジェクトを始動させた(プロジェクトリーダー:十河基文教授/大阪大学大学院歯学研究科附属 イノベーティブ・デンティストリー推進センター).
一般的に,患者が晴眼者(目が見える方)であれば,「ブラッシング指導」や「治療説明」は鏡を持ってもらい行われる.一方で,視覚障がい者への指導では「自身の歯を触らせること」が推奨されているものの,実際には指の大きさに対して歯は小さいため,「どの歯を指しているか」すら伝えるのが難しいのが現状であった.この事実を臨床現場で痛感した村上旬平氏(大阪大学歯学部附属病院 障害者歯科治療部)による問題提起をきっかけに,小八木圭以子氏(大阪大学歯学部附属技工士学校)が試行錯誤の末,視覚障がい者への指導ツールとして「触ってわかる歯の模型」を開発した.
触ってわかる歯の模型セット.成人向けの永久歯列模型と,小児用の乳歯列模型がある.
2021年11月8日,プロジェクトが始動した(左から小八木氏,村上氏,今里 聡研究科長,野田義和市長,十河氏).
この「触ってわかる歯の模型」は,一本一本の歯がマグネットで自在に動かせるようになっており,歯列不正などの患者個別の歯列を適宜再現することができる.さらに,通常の歯の模型に対して一辺が2倍,体積で8倍の大きさであるため,視覚に障がいがあっても模型に触れることで,自身の歯並びや指導されている部位を容易に理解することができるという特徴がある.
一本一本の歯をマグネットで自在に動かせるようになっており,患者ごとの歯並びを再現できる.
歯科衛生士による模型を用いた指導の練習.
村上氏らが模型を用いて,実際の全盲の患者さんにブラッシング指導を行っている様子.
本模型は2017年にグッドデザイン賞を受賞するなど非常に画期的なツールで(
https://www.g-mark.org/award/describe/44767),実際に大学の診療室や大阪近隣の盲学校でブラッシング指導に使用したところ,現場からは大変な好評を得た.しかし製造コストと販売数を勘案すると,商品化(事業化)は難しい.そこでこのたび,「寄付型クラウドファンディング」という形で,模型の製作と,全国への展開を試みることになった.
大阪大学×クラウドファンディング READYFOR
視覚障がいのある方に「触ってわかる」歯の模型で「健口」を!
https://readyfor.jp/projects/handai-hamokei期間:2021年11月8日(月)~12月24日(金)
本プロジェクトではまず,全国の盲学校に無償配布することで,小学生を含めた若年者の視覚障がい者の支援を狙う.一方で昨今,大学病院だけではなく,一般の開業歯科を訪れる視覚障がい者は増えてきており,特に歯周治療や歯周病予防が必要な成人の視覚障がい者に対しても,本模型の活用が期待される.そのため,全国の大学病院や母校の盲学校などに模型を配布し,一般開業歯科で必要な際に借りられる仕組みをつくることで,年齢や場所を問わず,すべての視覚障がい者に対してユニバーサルな歯科医療を提供できることを目指している.
視覚障がい者は,小児期は盲学校で歯科治療を受けるが,成人になれば通常,近隣の歯科医院を訪れる.そのため全国の開業歯科医院にとって決して他人事ではなく,いつ視覚障がい者が来院しても対応できるような姿勢と準備が求められている.
なお,本クラウドファンディングは,企業や事業主の利益を目的とした取り組みとは異なり,社会貢献を目的とした「寄付型クラウドファンディング(税制控除あり*)」となっている.視覚障がい者であっても晴眼者と変わらぬ予防歯科医療を受け,「健口」を保つことができる社会づくりのための意識が,全国6万件の開業歯科医院にも求められている.