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第3回 九州老年歯科フォーラム in 長崎 「加速する高齢社会に向けた私達の対応」開催される
 2019年8月4日(日),標記会が長崎県歯科医師会館(長崎市)にて開催され,歯科医師,歯科衛生士,関係職種を含め,100名超の参加者を集めた.

 まず基調講演として,「地域包括ケア時代における歯科への期待」をテーマに,医師の川越正平氏(千葉県松戸市・あおぞら診療所院長)が登壇.在宅医療は疾患を治療するだけでなく,患者の生活をサポートすることであるとし,生活への視点なしに慢性期疾患への対応は難しいこと,多職種が連携して継続可能な介護への指導を行うこと,患者や家族へのセルフマネージメントも促していくことが重要とした.また,在宅患者の大半は口腔ケアが適切に行われていないこと,地域に専門性を有する歯科医師がいるのかがわからず連携が進んでいないことなどを問題点として挙げた.在宅医療においては,将来的には「医師・歯科医師の二人主治医体制」が求められるという考え方を示し,在宅のかかりつけ歯科医に必要な素養,歯科医療機関の経験値を表すベンチマークについても詳説した.
会場内の様子
川越氏
 続いて,「地域を支える多職種連携の重要性」をテーマに,5名のシンポジストが登壇した.
 医師の阿保貴章氏(長崎市・阿保外科医院)は,在宅医療とは「生活の場」での医療・療養であるとし,在宅の患者にとって口のコンディションの維持(食べる,栄養維持,呼吸維持)は極めて重要であることから,口腔領域の専門職との連携の重要性を強調した.
 江頭 聡氏(長崎県歯科医師会)は,歯科医師の立場から,10年前の「歯科と多職種連携の状況」と現状とを比較したうえで,顔の見える連携作りへの取り組みとして,平成19年に発足した「長崎口のリハビリテーション研究会」(会員数:775名)における活動例や事業実績を紹介した.
 作業療法士(OT)の前山隆史氏(長崎県福祉保健部)は県行政の立場から,在宅歯科診療ネットワーク事業としての活動例やロードマップ案を紹介しつつ,在宅の場でまず歯科的対応として求められることは「義歯調整」であることも加えた.
 管理栄養士の山田由貴氏(長崎市・特別養護老人ホームかたふち村)は,高齢者にとって「食べること」は生活の質に影響し,最期まで口から食べることを支援する仕組み作りが重要だとして,ミールラウンド例や,看取り前月および当月における推定エネルギー量・水分摂取量の変化等を解説した.
 歯科衛生士の松尾真由美氏(大村市地域包括支援センター)は,地域包括支援センターにおける2症例を提示,認知症患者の受診拒否が増加しており,病状が進んでからの歯科治療は困難を極めることから,医療職や施設職員による早期の気づき,早期治療につなげるための支援が求められるとした.
左から,阿保氏,江頭氏,前山氏,山田氏,松尾氏
 午後からは,市民公開講座が開催された.
 はじめに,「口のリハビリテーションのすすめ ~いつまでも口から食べることを大切に~」と題して,医師の栗原正紀氏(長崎リハビリテーション病院)が登壇.超々高齢社会ともいえる現代では,「いのちを助ける」だけ,「病気を治す」だけの医療では,たとえ救命できても,結果的に長期入院や寝たきりを作ってしまうことから抜本的な改革が必要であり,これからの地域医療は「生活」を視野に入れた多職種連携,明確な機能分化が求められるとした.口・咽頭・喉頭領域は医科歯科連携の場であるとし,安心して口から食べるためには,口腔衛生に配慮し,義歯調整等を行ってしっかり機能する環境作りが重要であること,歯科医師・歯科衛生士を中心に,強固な医科歯科連携の元,医療,介護,地域生活において口のリハビリテーションを行っていくことが重要であるとまとめた.
栗原氏
 続いて,歯科医師の角町正勝氏(長崎県・角町歯科医院)は,「ともに生きる」をテーマに登壇.歯科医師人生50年,訪問歯科診療を始めて25年となった今,小児歯科・矯正歯科専門医から始まり,浜村明徳氏(小倉リハビリテーション病院 名誉院長)との出会いにより,健康な人だけを対象とするのではなく,障害を抱える方々に対しても「口から食べられること」「人として当たり前の生活をすること」を支援する重要性に気づかされ,訪問診療として口のリハビリテーションを展開していくこととなった経緯を紹介.地域医療の現場で経験した,3例の患者・ご家族との関わりを提示した.少子高齢社会による人口構造の変化は,生活の場においてこれまで経験したことのない状態を作り出しているとし,これからの社会は一人ひとりが自分の問題として,「介護する社会」の在り方を理解することが求められ,生活の場での安心安全を支援していく歯科医療が求められていると訴えた.

角町氏

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