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第68回日本口腔衛生学会・総会開催される
 5月22日(水)~5月24日(金),ピアザ淡海(滋賀県大津市)にて,標記学会総会(大会長:花田信弘氏/鶴見大学歯学部探索歯学講座)が,「口腔保健がもたらす三方よし:売り手よし,買い手よし,世間よし」をテーマに開催された.近江商人の哲学である「三方よし」にちなみ,口腔保健提供者・企業(売り手),生活者(買い手),国家(世間)の三方に利益がある口腔保健システムをつくろうという意味でもあり,「歯よし,口よし,身体よし」とも解釈できるとのこと.また,昨年の学会・総会のテーマである「Oral Health for All」を受け,ポピュレーション・ストラテジーによる健康格差是正について,具体的な方策を探ることも目的の1つであるという.
会場から琵琶湖を一望できる最高のロケーション
 サテライト教育講演では,「健康寿命の延伸における医科歯科連携の重要性」(座長:佐藤 勉氏/東海大学医学部基礎医学系生体構造機能学領域)をテーマに吉川敏一氏(ルイ・パストゥール医学研究センター理事長)が登壇.口腔内細菌が動脈硬化や糖尿病に悪影響を及ぼしていることは明らかであるが,腸内細菌にも関与し,ひいては脳との相関の機構が存在していると解説.「口の中に慢性感染症があると全身の健康を害する.慢性感染症を治すと全身の健康を回復できる」というヒポクラテスの言葉を引用し,予防歯科の重要性(全身疾患の予防,医療費の削減,高齢者労働の確保,アンチエイジング,QOLの改善,少子化の防止)を医師の立場から提言した.
吉川敏一氏
 シンポジウム2「防ぎ守る予防歯科,時代の潮流を読む」(座長:天野敦雄氏/大阪大学歯学研究科口腔分子免疫制御学講座)では,3名が登壇.杉山精一氏(日本ヘルスケア研究会代表/清泉会杉山歯科医院)は「CRASP,日常臨床で使えるカリエスリスクアセスメントを目指して」と題して,う蝕関連疾患による歯の喪失は歯周病より多いという報告もあることから,食習慣,プラークコントロールとフッ化物応用に加えて,プラークの酸産生能を調べることを組み合わせたカリエスリスクアセスメント:Caries Risk Assessment Share with Patient(CRASP)を解説.弘中祥司氏(昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座)は「周術期口腔機能管理から在宅機能管理へ」と題して,地域包括ケアシステム構築のために,周術期口腔機能管理実習のほか,在宅を視野に入れたおむつ交換や血圧測定,移乗の実習,そして患者心理を学ぶ教育を学生に取り入れていることを紹介.久保庭雅恵氏(大阪大学歯学研究科口腔分子免疫制御学講座)は「唾液メタボローム解析による口腔内健康度予測」と題して,歯周病に由来する炎症の予測モデルの構築を目指したメタボロミクス研究を報告した.
 シンポジウム3「歯科衛生士が行う“全身と関わる口腔健康管理”の実際」(座長:尾﨑哲則氏/日本大学歯学部医療人間科学分野)では,3名の歯科衛生士が登壇.田中絵美氏(京都大学医学部附属病院歯科口腔外科)は「歯科衛生士による周術期口腔健康管理の実際」と題して,周術期を含む急性期疾患患者に対する口腔機能管理について,多職種と行っている症例をバリアプリコーション(隔離予防策)を含めて具体的に紹介.続いて,前田さおり氏(梅花女子大学看護保健学部口腔保健学科)は糖尿病患者の口腔健康管理について,長岡さとみ氏(こがはしもと歯科医院)は歯科診療所での禁煙支援の実際についてそれぞれ紹介.歯科衛生士の業務と他職種との連携の広がりを実感する内容であった.
シンポジウム3の様子
 シンポジウム7「認知症に対する口腔保健の予防的役割」(座長:深井穫博氏/口腔衛生学会地域口腔保健委員会委員長)では,2017年に本学会が「認知症に対する口腔保健の予防的役割」政策声明を出したことに伴い,口腔衛生学会初となる認知症のテーマが組まれた.山口晴保氏(群馬大学名誉教授/認知症介護研究・研修東京センター)が「認知症の発症予防と認知症終末期の口腔保健」と題して登壇.アルツハイマー型認知症とは長生きすれば誰もが発症し,長生きの勲章である.ポジティブに,“長生きできたので認知症になれた”と考えることが前提であり,予防とは発症を遅らせることであると解説.食事や運動などのライフスタイルで発症を遅らせる具体的な予防法のほか,現在歯数の減少によりリスクが高まること,マウスの臼歯冠を切削すると記憶低下を生じること,軟らかいエサによるマウスの飼育により記憶低下が生じるなどの研究を報告.葭原明弘氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科)は,認知機能の低下や口腔機能の低下による低栄養,歯周組織の慢性炎症状態の予防は,乳幼児から高齢者まで一貫したライフコースアプローチを行うべきであると提言.平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター)は,認知症発症後の口腔を支える重要性を自身の症例を基に紹介.また,『認知症の人への歯科治療ガイドライン』(日本老年歯科医学会編/医歯薬出版)を2019年6月に発行予定であると告知した.
 なお,同テーマはランチョンセミナー「歯周病とアルツハイマー病の関連性~口腔ケアから始まる認知症予防~」(松下健二氏/国立長寿医療研究センター)も設けられ,予定のチケット枚数を超える多くの人が聴講し,わが国の医療界において関心の高いテーマであることが明確である.
左から平野浩彦氏,葭原明弘氏,山口晴保氏,深井穫博氏
 シンポジウム8「フッ化物応用をめぐる誤解を解く」(座長:眞木吉信氏/東京歯科大学名誉教授,相田 潤氏/東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学部分野)では,フッ化物応用に誤解を生じさせかねない記事が報告されたことをうけ,本学会のフッ化物応用委員会が企画したものである.髙橋信博氏(東北大学大学院歯学研究科口腔生物学講座)はフッ化水素を理解するために,難解な生化学的吸収メカニズムについて図を使用し,平易に解説.瀧口俊一氏(宮崎県延岡保健所)は,う蝕予防のフッ化物応用が小児のIQを低下させないことを,国内外の疫学データを紹介し解説.鶴本明久氏(鶴見大学名誉教授)は,フッ化物応用に関する効果と安全性について合理的に説明し続け,ヘルスリテラシーを増強しなければならないと強く提言した.なお,本件に関しては,近日中に学会として,誤解を解くための声明を発表するとのこと.
 教育講演,11のシンポジウム,6つのランチョンセミナーのほか,快晴の下,琵琶湖上で行うクルージングセミナー,テーブルクリニック,パネルディスカッションなど,さまざまな議題をより近い距離で議論できる多くのプログラムで構成され,「三方よし」の実現に向けて学びを深めることができる3日間であった.
クルージングの船:ビアンカ
クルージングセミナーの様子
クルージングの食事風景
 次回,第69回学会・総会は2020年4月24日(金)~26日(日),福岡国際会議場(大会長:埴岡 隆氏/福岡歯科大学口腔保健学講座)にて開催予定.

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