2016/08/02
7月31日（日），東京医科歯科大学歯科棟南4階特別講堂（文京区）において，「平成28年熊本地震 歯科支援中間報告会」（主催：日本災害時公衆衛生歯科研究会）が開催された．
熊本において，気象庁震度階級で最も大きな震度7を観測する地震が4月14日の夜と4月16日の未明に発生し，甚大な被害を及ぼした．その後も余震が続き，7月19日時点で地震回数が1,909回と阪神・淡路大震災や東日本大震災の余震回数をはるかに超えたが，7月26日（地震発生後104日目）で回数がゼロとなり，ようやく地震活動が収束を迎えたこともあり，ここまでの歯科支援活動の中間報告会が中久木康一氏（日本災害時公衆衛生歯科研究会／東京医科歯科大学大学院）の発案により開催され，災害医療にかかわる医師，歯科医師，歯科衛生士，看護師，保健所長などが参加した．
東日本大震災を岩手で体験した佐藤 保氏（日本歯科医師会副会長）から，東日本大震災では，日本歯科医師会・日本歯科衛生士会の要請により，歯科医師・歯科衛生士等派遣され，歯科支援活動を行ったが，熊本地震では，九州歯科医師会連合会の関係性が強い地域であり，その中での支援が行われたとういうこと，そして，JMAT（Japan Medical Association Team：日本医師会災害医療チーム）に歯科医師が帯同することになり，東日本大震災以降に進めてきた準備が一歩前に進んだ証であるという挨拶から始まった．
最初に「熊本県における歯科支援活動の対応と実際」として，楠田美佳氏（歯科衛生士／熊本県歯科衛生士会）より，熊本県歯科医師会とともに避難所などにおいて歯科相談を実施したことや，熊本県歯科衛生士会が災害支援担当歯科衛生士を3名配置したこと，避難所巡回歯科診療補助・歯科保健指導・口腔ケアを行ったことなど時系列で詳細に説明された．現場では，それぞれの職種が一目でわかるように色の異なるビブスを着ての活動となったが，熊本県歯科衛生士会は鮮やかなピンク色のビブスを纏ったせいか，住民の方から「ピンクの人！」と声をかけられ，覚えていただくよいきっかけになったことなど，現場でないとわかりえない詳細な報告もなされた．また，地震発生当時，携帯電話やメールが不通であったときに関係者の安否確認や活動引き継ぎなどで一番役に立ったのがLINE及びLINE電話であったというのも貴重な情報であった．
次に「JMATとしての歯科派遣の経験」として，門井謙典氏（歯科医師／JMAT／兵庫医科大学歯科口腔外科学講座／救急・災害医学講座／救急救命センター）が登壇した．今回，兵庫県医師会は，兵庫県歯科医師会，兵庫県薬剤師会，兵庫県看護協会とともに，熊本県益城町に兵庫JMAT（医師／歯科医師／薬剤師／看護師／事務員の計6～10人）を派遣し，益城町医療対策本部の統括JMATを担当した．歯科支援チームの活動内容としては，歯科ニーズの調査，避難所・避難者歯科アセスメント，口腔ケア用品提供，歯科に関する相談・聴き取り，口腔ケア・指導，唾液腺マッサージ，義歯洗浄，歯科治療，歯と口の健康教育，摂食嚥下評価・リハビリテーション・摂食指導，環境アセスメント・整備，地域歯科医療機関への紹介など多岐にわたるが，統括JMATは，それらをコーディネートする役割である．家屋が損壊した住民のうち，公共施設の大型駐車場に車中泊をしている人も多数いたそうだが，彼らは日中仕事に出かけていくので，仕事から帰ってくる時間を見計らって，夕方以降に医師，歯科医師，看護師で，急性肺血栓塞栓症（エコノミークラス症候群）予防のための靴下のはき方指導などを中心に通常業務以外に巡回したことも報告された．
最後に「災害時の歯科支援における熊本地震対応の特徴と成果，そして課題」を中久木康一氏より発表された．今回の特徴として，本震1週間後に外部から派遣したことや継続的にコーディネーターを派遣したこと，避難所における統一アセスメント用紙による評価を行ったこと，JMAT帯同の歯科として派遣したこと，歯科診療所稼働状況をホームページに掲載したことなどが挙げられた．課題としては，県の災害対策本部との情報共有・連携不足，アセスメントからの継続介入と引き継ぎの問題，JMAT以外の医療班やNPOに帯同する歯科との情報共有不足など多々あるが，災害歯科保健医療連絡協議会において，一つずつ解決していきたいと述べられた．
地震は収束したものの，いまだ仮設住宅に住んでいる住民の方への継続支援に期待し，一日でも早い復興を願うばかりである．