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第10回アジア小児歯科学会/第54回日本小児歯科学会 開催される
2016年5月26日(木)~28日(土)東京ドームホテル(東京都文京区)にて「参加国だけでない他のアジア諸国を含めた小児歯科関係者の新たな結束を!」という願いが込められた「Kizuna (絆) - Greater Solidarity for Asian children」をメインテーマに,標記学会が開催された(大会長:新谷誠康/東京歯科大学小児歯科学講座 教授).本学会では日本全国の小児歯科関係者だけでなく,Pediatric Dentistry Association of Asiaに加盟している多くの外国人参加者が集まり,どの会場も盛況であった.
認定歯科衛生士認定更新必須研修セミナー「歯科からの健やかな妊娠と出産のサポート~マタニティ歯科における歯科衛生士の役割~」では井上美津子氏(昭和大学歯学部小児生育歯科学講座 客員教授)が登壇し,女性の身体の特徴や生活環境の変化を考慮した歯科衛生士の対応や役割について講演が行われた.「妊娠期の女性ホルモンの急激な増加が全身にも口腔内にも様々な変化を生じさせ,齲蝕や歯周疾患にも影響があることに危惧する必要がある」と論じた.また,歯周病と低体重児出産の関係が世に知られつつあり,妊婦歯科健診にも関心が高まっている社会背景にも触れ,マタニティ歯科において妊婦の方から頻繁に尋ねられる質問,X線写真の危険性や歯科麻酔,薬物の服用に対して臨床でどのように答えるべきかについても述べた.今後,マタニティ歯科における歯科衛生士の果たすべき役割はますます大きくなることが予想される.
井上美津子氏
口から食育を考えるシンポジウムでは,「子どもの食の問題について―全国アンケート調査の結果から―」「子どもの食育に対して歯科医に望むこと(医師の立場から)」「子どもの食の発達支援」の3つのテーマから講演が行われた.「子どもの食の問題について―全国アンケート調査の結果から―」では木本茂成氏(神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔機能修復学講座小児歯科学分野 教授)が登壇.全国の歯科医院および幼児の保護者を対象にした子どもの食の問題に関するアンケート調査の結果を,日本の幼児期における食の問題とあわせて,歯科医師ならびに保護者の視点から論じ,小児保健関連の多職種が連携し個々の問題に対応可能な組織の構築が必要であると述べた.
木本茂成氏
 「子どもの食育に対して歯科医に望むこと(医師の立場から)」では,児玉浩子氏(帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 学科長)が講演を行い,食育の推進には,小児においても発達段階(乳幼児期・学童期・思春期)によって課題が異なると述べた.そして小児科医師の立場から,歯科医師に対する要望として,発達段階,体重や身長といった成長の状態にも気をかけることが望ましいと強調した.そうすることで,虐待やホルモン分泌異常など様々な疾患の早期発見に繋がると結論づけた.
 

児玉浩子氏
 「子どもの食の発達支援」では,田村文誉氏(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション多摩クリニック 口腔リハビリテーション科科長)が登壇.「子どもの食を支援するには,口腔機能や食事のことだけをみるのではなく,子育て全体の中の『食』として支援することが望ましい」と述べ,保護者の悩みなどを理解する必要性を論じた.そして子どもと両親,双方へのサポートを地域全体で連携することが必要であると述べた.
田村文誉氏
 女性小児歯科医委員会企画リレー講演では,笠井靖代氏(日本赤十字社医療センター 第三婦人科部長)と下村―黒木淳子氏(日本歯科大学新潟生命歯学部小児歯科学講座 准教授)が登壇.笠井氏は「妊娠・出産・育児は連続した営み―これから出産を考える女性に産婦人科医から伝えたいこと」と題し,高齢出産や低体重児出産の増加など,日本における妊娠・出産に関する現状を紹介.周産期医療の現場で陥りがちな「出産=ゴール」という考えに警鐘を鳴らしながら,出産から育児までの連続した営みを社会全体で支える必要があり,そのなかで歯科医療職は育児支援を担う重要な専門職であると述べた.
笠井靖代先生
 黒木氏は「女性が働きやすい環境作り―北欧への子連れ留学体験から考える―」と題し,フィンランドへ留学しながら出産・育児を経験した歳のエピソードを紹介.自身の実体験をもとに日本と北欧における出生率や母親の就業率,行政による育児支援対策などを比較し,それぞれの特徴と実情を紹介しながら女性歯科医師が働きやすい環境作りについて問題を提起した.
下村―黒木淳子氏
 全国小児歯科開業医会(JSPP)企画講演「小児歯科医による全身疾患の早期発見―小児歯科医との連携」では,山田亜矢氏(東北大学大学院歯学研究科口腔保健発育学講座 小児発達歯科学分野 准教授)と土岐志麻氏(青森市・とき歯科)が登壇.山田氏は「子ども達を見守る小児歯科医の役割」と題し,少子化問題といった社会的実情からADHDなどの発達障害児の増加など,小児を取り巻く様々な問題を列挙し,歯科医師も含めた他職種協働による総合的な取り組みが急務であると述べた.また,小児患者にとって身近な医療職として,虐待や全身疾患への気づき,外傷を引き起こす事故の予防の必要性を強調した.
 
山田亜矢氏
 土岐氏は「小児歯科医の診る力と気づき」と題し,細菌感染や出血性疾患などを抱えて歯科医院に来院した小児患者のケースを供覧し,小児科医が見逃す重篤な全身疾患に歯科医師が気づく目をもつことの重要性を述べた.また,精神的な疾患を抱える小児患者にも言及し,かかりつけ医として口腔内の変化から心身両面の変化をも中止することが必要であると訴えた.
土岐志麻氏
 少子化が問題視されている今だからこそ,子ども一人ひとりの成長を地域で支える必要があるだろう.そして食育を推進するためには多職種が連携し,地域全体で子どもとその保護者を支えることが重要となる.歯科医師や歯科衛生士も口腔のみを注視するのではなく,子どもの発達段階や健全な成長,保護者がもつ子育ての悩みといった生活全般を支える幅広い知識が求められているようである.

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