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文部科学省選定課題解決型高度医療人材養成プログラム 平成28年度公開シンポジウム 開催される
 人口減少・少子化進行の背景をもとに,健康長寿社会に貢献できる口腔保健専門職の育成に向けて,東京医科歯科大学,広島大学,九州歯科大学では,文部科学省が推進する「課題解決型高度医療人材養成プログラム」の選定を受け,チーム医療を実践できる技術力を習得させることを目的とし,連携大学の特色を活かした教育プログラム,ならびに実習指導者の指導力および技術力を向上させるプログラムが展開されている.プログラムが開始されてから2回目となる公開シンポジウムでは,チーム医療を目指すべく歯科衛生士教育・歯科技工士教育に携わっている教育関係者のほか,歯科衛生士学生,医学部教員など,多様な顔ぶれが詰めかけた.
 教育講演では,「がん緩和ケアにおけるチーム医療-口腔保健専門職への期待」と題し,三宅 智氏(東京医科歯科大学 臨床腫瘍学分野 教授)より,がん診療の緩和ケアにおける口腔保健専門職に求められる役割とその期待について講演された.
「歯学部との連携強化」と「緩和ケア病棟の設置」により,東京医科歯科大学はがん診療連携拠点病院に指定された.「緩和ケア」は,「ターミナルケア」と同義だと考えられがちだが,近年とらえ方が変化してきており,治療とともに並行に行うものであるとされている.当院では「がん診療」と「緩和ケア」の目的が,どちらもQOLの向上だけでなく,QALYs(質調整生存年)の延伸を目指している点に着眼し,「緩和ケア」に力をいれることにより.がん診療におけるパフォーマンスを向上させている.同大学附属病院には,来春(2017年)に都内で初となる緩和ケア病棟が開棟される.口腔保健専門職へは,緩和ケアで重要となる口腔ケアでの活躍がますます期待されている.
 三宅氏は,現代の医療現場において,今後はコンコーダンス・モデルの推進が必要であると説いた.コンコーダンス・モデルにおいては,患者はチームの中心に位置しているという考え方ではなく,患者自身も「身体の変化の専門家」として,医療従事者とともに治療に参加する「チームの一員」とみなされる.患者と医療従事者がともに同じ目標へと進んで行くという,調和型医療である.また,チーム医療においてのリーダーは必ずしも医師ではなく,むしろ,マネジャーとしての役割を看護師が担うケースが多く,歯科の場合では,その役割を誰が果たすべきなのか提言された.
 特別講演では,「高齢者における口腔機能維持-健康長寿延伸へのアプローチ-」と題し,平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科部長)より,高齢者の虚弱(フレイル),ひいては,日本歯科医師会ホームページでも啓発されているオーラル・フレイルに対する対策の重要性が述べられた.
 8020運動の目標は達成されつつあるが,依然として口腔機能低下を訴える高齢者は多く,口腔機能低下予防を目的としたスクリニーング(評価法)の確立が急務であること,また,老年学分野に対して口腔機能低下についてのアピールが必要であると説明するとともに,口腔機能低下予防を目的とした口腔機能向上サービス(介護予防)の失敗に学ぼうと苦言を呈した.「歯数の評価」だけではなく「口腔機能の評価」に注目し,「長生き」を「元気で長生き」にする予防を本気で考えることが超高齢社会である日本において急務であること,また,そうした予防,口腔機能の維持管理に必要な土台は「本人・家族の選択と心構えである」と説いた.
 最後に,課題解決型高度医療人材育成プログラムにおける各大学の取組状況についても各大学から報告された.

 「大学附属病院におけるチーム医療実践プログラム」,「周術期患者の感染・衛生(口腔ケア)管理におけるチーム医療指導者養成プログラム」を実践している東京医科歯科大学からは,小原由紀氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 講師)より,チーム医療を支える人材の育成が確立されていなかった従来の教育から一歩進み,多職種連携が不可欠な現場での医療の質・安全を効果的に評価,確保していくのに大切な人材育成を目的としたプログラムの現状と方向性が報告された.
 「デイサービス施設・大学病院におけるチーム医療実践プログラム」を実践している広島大学からは,西村瑠美氏(広島大学大学院医歯薬保健学研究院 助教)より, 口腔機能向上と食支援を目指したチーム医療を実践するために必要な歯科衛生士の育成についての活動が報告された.同様に 「歯科技工士による手術支援プログラム」の活動報告として,木原琢也氏(広島大学大学院医歯薬保健学研究院 特任助教)より,患者に安心安全な医療を提供するための手術支援を目指し,そのために必要な技能をもつ歯科技工士育成を目標とし,CAD/CAMなど機器の使い方だけではなく,仕組み,原理を深く理解することでほかの医療従事者とは異なる技術工学的知見をチームに補完することができる人材の育成について述べられた.
 「回復期病棟での多職種連携実践プログラム」を実践している九州歯科大学からは,松田悠平氏(九州歯科大学高齢者支援学講座 助教)より,口腔保健学科学生を対象とし,回復期病棟でチーム医療に参画する際に必要とされる知識と技術の基盤づくりのため,医師・歯科医師・看護師・リハビリテーション職種・歯科衛生士の指導者のもと,回復期病棟での口腔ケアおよび摂食嚥下支援にかかわる実践力を修得することを目的とした人材育成のためのプログラムの展開について報告された.
 今後も各大学の課題解決型高度医療人材養成プログラムにおける取り組みを期待したい.

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