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「技友会学術講演会」開催される
 2016年3月19日(土),東京医科歯科大学(東京都文京区)にて,技友会主催の学術講演会「口腔機能と補綴装置」が,杉本久美子氏(同大学 口腔基礎工学分野)を演者に招いて開催された.技友会とは,同大学歯学部口腔保健学科口腔保健工学専攻とその前身である同大学歯学部附属歯科技工士学校の同窓会で,会場には約50名の同会関係者らが集まった.
 講演の前半では,高齢者の摂食嚥下障害の概要とその改善のために補綴装置が果たす役割が論じられた.はじめに基礎知識として,咀嚼と嚥下のそれぞれについて,関与する筋や神経などの働きを映像も交えつつ供覧.咀嚼・嚥下が,さまざまな器官の協調によって営まれる複雑なプロセスであることを説明した.高齢者では,加齢や全身疾患,薬や放射線治療の副作用などの要因によって,この咀嚼や嚥下に伴う運動が阻害されやすい傾向にあり,誤嚥性肺炎による死亡者数の増加につながっているという.こうした摂食嚥下障害の改善を図る有力な手段として,舌接触補助床(PAP)および軟口蓋挙上装置(PLP)を挙げた.一方で,16,000例を超える義歯型補助具(PAP,PLP,ホッツ床などを含む)の適応患者に対し,その7割以上で装置の製作がなされていないとする植田耕一郎氏(日本大学摂食療法学講座)らの研究結果を引用し,その普及は依然として不十分であるとも指摘.製作に対する潜在的なニーズは非常に高いとして,本分野における歯科技工士のさらなる活躍が望まれていると訴えた.
 講演の後半は,高齢者の口腔機能の維持増進を考えるうえで欠かせない唾液について,その役割と補綴装置との関わりを解説した.唾液には,「酸の緩衝による口腔内の酸性化防止」「口腔内の湿潤化,円滑化」「粘膜や歯の表面の保護」「口腔組織の洗浄,殺菌」「成長因子による傷の修復促進」などの多様な働きがあることを紹介.唾液の分泌量が減少すると,これらの機能も低下するために,う蝕をはじめとする歯科疾患や口臭,摂食嚥下障害などを招くことを指摘した.そのうえで,複数の文献をもとに,全部床義歯・部分床義歯の両方において,義歯の装着や適合精度の改善が唾液分泌量を増加させるとの研究結果を示した.そのメカニズムとしては,義歯装着・適合精度改善によって咬合力が増大したり,今まで痛くて噛めなかったものが食べられるようになったりすることで,口腔組織に適切な機械的・熱的刺激がもたらされたことなどが考えられると述べ た.
 高齢者の口腔関連QOLを高めていくためには,歯科医師・歯科衛生士による歯科治療・口腔ケアのみならず,補綴装置の製作を担う歯科技工士の力も不可欠であることが研究データをもとに丁寧に供覧され,参加者は熱心に耳を傾けていた.

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