2015/07/24
7月23日(木),東京医科歯科大学(東京都文京区)にて標記会が開催され,「薬と嚥下障害」をテーマに,野原幹司氏(大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室)が登壇した(座長:戸原 玄氏/医科歯科大).
わが国の喫緊の課題として,ポリファーマシー(多剤投与)の問題があるが,本講演では,特に摂食嚥下領域において,実際に問題となっている副作用と高齢者服用薬の注意点について解説された.
摂食嚥下リハビリテーションにおいては,通常「かめない,飲み込めない」などの症状のある患者に対し訓練などを行うが,薬の副作用によって生じている症状に対して訓練を行っても改善は見込めない.そのため,自ら担当する患者の症状が「何に起因するものなのか」を見極め,もしも薬剤による影響が疑われるようであれば,主治医が適切な処方を行えるよう,現場からの「臨床所見」をあげることが歯科医療職に求められる関わりだとした.
臨床所見をあげる際,その裏付けとしての知識が必要となるが,「日本版 START & STOPPリスト*」が今夏日本老年医学会から出される予定であり,これは医師に限らず,全ての医療職が活用すべきものと謳われている.
*註:欧州で作成されたリスト(Stopp/Start Criteria)にならったもので,高齢者に出やすい副作用を防ぐために,中止を考慮すべき薬物リスト(ストップリスト/約50種類)」と,強く推奨される薬物リスト(スタートリスト/約20種類)」の2つのリストが発表される.これらは,薬学管理へ活用することを促すとともに,高齢者の多剤服用への介入・処方見直しへの積極的関与を求めるものである.
本会の参加者は歯科衛生士,歯科医師が多く,本来薬剤処方に関わることが出来ない職種だが,薬剤によって口腔機能悪化の兆候が疑わしいような場合,「知識(START & STOPPリスト)」+「臨床所見」をつけて処方医に照会することで,主治医による適切な処方を下支えすることができる可能性が大きい.超高齢社会で,さらにポリファーマシーが問題となっているわが国において,歯科医療職も処方薬について当事者意識をもって関与することが求められることが強調された会となった.