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九州・山口 口腔ケアシンポジウム in 鹿児島 「口腔ケアから明日の医療を考える」 開催される

119日(日)標記シンポジウムが開催され,歯科医師,歯科衛生士をはじめ,看護師,PTOTST,管理栄養士など約400名の多職種が参加した(於:鹿児島県市町村自治会館,主催:九州・山口 口腔ケアシンポジウム事務局).本会は5年前に発足し,これまで別府,大分,宮崎,山口,福岡の各市にて開催されてきた.第6回を迎えた今回は,鹿児島県歯科医師会の全面協力のもと,角町正勝氏(長崎市開業)をコーディネータに,わが国の口腔ケア領域のオピニオンリーダーを集めての開催となった.

 

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会場内の様子

 

 その「特別講演:口腔ケア座談会」では,角町正勝氏(前出)の呼びかけにより,小玉 剛氏(東京都東久留米市開業),花形哲夫氏(山梨県甲府市開業),佐々木勝忠氏(岩手県奥州市・国保衣川歯科診療所所長),細野 純氏(東京都大田区開業),大石善也氏(千葉県柏市開業),平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター研究所),米山武義氏(静岡県駿東郡開業)が登壇した.

小玉氏は日本プライマリ・ケア連合学会,公営財団法人在宅医療助成勇美記念財団,一般財団法人杉浦地域医療振興財団等の各学会・関連団体の例をもとに,チーム医療の推進,地域医療・介護連携の構築手法の具体例を紹介.現在の歯科における問題点を掘り起こし,国民にわかりやすく伝えるための新たな疾患名の創設,歯科における予防を実践するための法の整備が求められることを今後の提案として結んだ.

  花形氏は,地域包括支援システムの構築には,介護と医療の連携が柱であり,医療・介護職の相互理解(共通用語の使用),ツールや仕組みづくり,日本歯科医師会などによる組織としてのネットワークづくりが重要と解説.すべての開業歯科医院が訪問診療を行う必要はないが,患者が来院できなくなったとき,地域の中で,適切に患者を紹介・繋いでいける連携構築が求められると訴えた.

 佐々木氏は自身の急性期病院NSTへの関わりから,地元歯科医師会と地元病院との組織的連携に成功した例を紹介.歯科はともすると生死に関わらないと考えられがちだが,口腔内の機能や器質は長期的視点で見ると患者の栄養摂取に大きく関わり,こと高齢者では生死に関わるものであると警鐘を鳴らし,栄養や栄養評価の視点をもつことで歯科のアプローチがさらに広がりを見せることを詳説した.

 細野氏はこれから本格的に超高齢化を迎える東京で開業して30年,開業2年後から行っている訪問診療を例に地域医療の流れを解説するとともに「歯科訪問診療1-1-1」(=1診療室,1カ月,1軒の訪問診療を始めること)を提案.地域のかかりつけ歯科医にとって,訪問診療が通常の診療となる時代は間近に迫っているとし,訪問診療への視点は患者が診療室に通院しているときから始まっており,在宅に移行した後に苦労することのないよう診療室にてしっかり口腔管理をしていくこと,かかりつけ歯科医の機能を「チェアサイドからベッドサイドへ」とまとめた.

大石氏は千葉県柏市の「柏プロジェクト」のシステムを紹介.地域包括ケアにおいて重要な,顔が見えること,研修,クラウドを用いた共有システムのもと,「在宅口腔ケアの具現化」を目指し,行政や医師会を巻き込み実践している,医科歯科連携,医療介護連携の例を紹介.開業歯科医院にとっては,訪問診療がやりやすく,わかりやすいものであることが裾野を広げるうえで非常に重要であると場内に訴えた.

平野氏は,認知症患者の病態解説,その口腔へのアプローチについて解説.現在,高齢者数の1/3にあたる460万人強いるとされる認知症患者への対応は,もはや歯科でも無視できない状況であり,その口腔ケア,摂食・嚥下機能に合わせた食支援は病態の理解なくしては難しいこと,機能的には問題がなくとも,病態として“食べない”患者へのアプローチの難しさ,ここへの臨床介入を今後進めていく必要があるとした.

 最後に登壇した米山氏は,「多死,多歯時代の到来」と表し,歯科の念願だった「8020」は国民4割近くが達成しており,高齢になっても多歯を有する夢はかなったものの,現在の視点は保有歯数ではなく,保有状態であること,適切に管理されていないと保有歯が感染源となり,全身状態悪化へと波及する可能性があること等に警鐘を鳴らした.高齢者への口腔ケアの重要性の観点から,昨年(2013年)6月には,厚労省により「主治医意見書」に口腔所見(口腔内の状態確認について)を記載することとなり,各自治体でも動きが活発化してきているという.歯科関係者は地域の中で動かざるをえない状況になっており,「在宅医療はオプションであるという認識の払拭」「口腔のケアや管理に対する価値観を形成」することが喫緊の課題であると結んだ.

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演者一同

 

 午後の部のランチョンセミナーでは,古川由美子氏(熊本機能病院口腔ケアセンター部長/歯科衛生士)が,病院における医科歯科連携システムの現状と歯科衛生士の役割について解説.病院での高齢者の口腔状況,他職種による口腔へのアプローチの実態・現状・課題を示し,口腔に関連したトラブルを予防するためには,地域の診療所に通えるうちからの“生涯食べるためのアプローチ”が重要であるとした.

 吉野賢一氏(九州歯科大学口腔保健学科 准教授)は「脳から見た口腔ケアの可能性」」と題し,脳科学から「食べること」を解説.①ヒトが食べると決めるまで,②実際に対象物を口に入れるまで,③対象物を口に入れてからの処理,の3段階に分けて詳説し,「食べる」ためには複雑かつ緻密な脳活動が必要であり,口腔ケアは上手に正しく食べる口を守るとともに,脳をも守るものである可能性があるとした.

 

 最終シンポジウム「他職種と協働する口腔ケアをめざして」では,九州で地域医療に携わる開業歯科医師・安部喜郎氏(宮崎県日南市開業),病院歯科医師・中村康典氏(鹿児島医療センター口腔外科),障害児施設勤務の歯科衛生士・川床裕子氏(やまびこ医療福祉センター),看護師・福田ゆかり氏(鹿児島大学附属病院),言語聴覚士・黒木 康氏(クオラリハビリテーション病院),管理栄養士・鈴木聖子氏(今給黎総合病院)の6名が登壇.それぞれ異なる職種,医療機関での現状や取り組み例等を紹介し,医療連携の実際,口腔ケアへの関わりを紹介した.

 

なお,本会では故・大田洋二郎氏を偲び,その遺志を引き継ぐものとして,多職種連携の下,志と希望を新たに発信すべく「鹿児島宣言」を提言.内容は以下.

 

●鹿児島宣言

1 生涯,口を通して生きる意欲を支える歯科医療を目指します

2 口腔ケアと食への支援を推進し,QOLの向上を目指します

3 地域包括ケアを推進し,他職種連携協働を目指します

4 社会に対して,口腔機能の重要性を啓発します

 

 

 

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