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第22回日本臨床環境医学会学術集会開催される

 6月8日(土),9日(日),北里大学白金キャンパスにおいて,「環境とコミュニケートする」をテーマに,第22回日本臨床環境医学会学術集会(主催:日本臨床環境医学会,後援:日本衛生学会,日本口腔機能水学会,日本歯科人間ドック学会)が開催された(大会長:佐藤 勉氏/日本歯科大学).日本臨床環境医学会は,環境と疾患のかかわりに関する研究の発展を促進し,疾患の予防と治療に努めるために設立され,本年で22年を迎えた.具体的な内容は,中毒,アレルギー,内分泌,自律神経などにまたがり,環境問題と臨床医学の接点を主題としている.また,その環境の内容は,化学環境,物理環境,生物環境と,幅広いものを目指しており,特に枠を限定せず,医師,歯科医師,看護師,臨床検査技師などの医療関係者のみならず,他領域の人材を含めた幅広い交流と研究に取り組んでいる.

 第22回目となる本学術集会においては,医科・歯科・看護領域から6つのテーマでシンポジウムが構成され,そのうち4つが歯科からの発信となった.
 シンポジウム1「全身の健康からみた小児の口腔の発育と環境」では,わが国の小児齲蝕の罹患率は減少しているものの,発展途上国なみの高い罹患率であることから,小児の乳歯や幼若永久歯の齲蝕をさらに減少させること,とりわけ,妊娠中の母親の健康管理が極めて大切であると,小口春久氏(日本歯科大学東京短期大学)より発表された.
 シンポジウム2「喫煙と歯科疾患」では,口腔内に発症する生活習慣病ともいえる歯周病のリスクファクターの1つである喫煙について,沼部幸博氏(日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座)より報告された.喫煙は,口腔がんや白板症,黒毛舌,正中菱型舌炎,味覚障害,歯肉メラニン色素など,歯や軟組織の疾患や機能障害を生じることも知られており,歯科からの禁煙支援についての重要性について強調された.
 シンポジウム5「歯科材料とアレルギー疾患」では,近年,増加傾向にあるアレルギー性歯肉炎や扁平苔癬,エリトマトーデスなどの口腔アレルギーとよばれる一連の病態について,川村浩樹氏(日本歯科大学附属病院口腔アレルギー外来/総合診療科)より,2010年4月に開設された日本歯科大学附属病院口腔アレルギー外来の取り組みについての発表があった.歯冠修復に用いる金属やレジンなどイオンが遊離し,体内に蓄積され,これがアレルゲンとなり,全身皮膚に丘疹や嚢胞などを発症するといわれており,近年、掌蹠嚢胞症などの患者が増加傾向にある.メカニズムについては,まだ明らかにされていないものの,口腔外科や総合診療科の歯科医師と皮膚科,そして歯科技工士が参画し,発症のメカニズムの解明と患者への治療に取り組んでいる日本歯科大学附属病院口腔アレルギー外来での症例を報告した.

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 シンポジウム6「福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質(プルトニウム239,ストロンチウム90)のヒト乳歯への蓄積に関する研究」では,放射性物質が人体にどの程度取り込まれているのかを調べるために,福島第一原子力発電所事故が発生した近隣地域を中心に日本全国より乳歯を集め,年齢の違いや居住地区によってその差があるのかどうかを研究しているとの報告が井上一彦氏(鶴見大学歯学部探索歯学講座)よりあった.この研究は現在進行中であり,日本全国の乳歯を集め,世界中で核実験が行われた時期の日本人における放射性降下物ストロンチウム90の年間降下量(1958-2011年)と日本人第三大臼歯中と乳歯のストロンチウム90量(国立予防衛生研究所 石井俊文氏ら)の研究結果と比較して,2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故の影響を検証すると報告された.国は大気中の放射性核種のデータを報告しているが,人体へ及ぼす放射能の影響についての研究はほとんど実施されておらず,今回の事故の影響を精査継続していくことは,人類の将来にとり極めて重要であり,本研究は世界に対する日本の責務であるとともに,この研究は内部被爆と人体に与える影響の貴重な基礎データになると強調された.

 それぞれの専門領域からのアプローチは,「臨床」を視野に入れた「環境健康影響」を学際的に探究する本邦唯一の学会にふさわしく,まさに本学術集会のメインテーマ「環境とコミュニケートする」ことであると実感した2日間であった.

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