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「第29回 日本顎咬合学会学術大会」開催

 6月11日(土),12日(日)の両日,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて標記大会が「Innovative New Dentistry─歯科医療の新しい環境と価値創造─」をメインテーマに開催された(大会長:山地良子氏;北九州市小倉北区/ヤマヂ歯科クリニック,プログラムチェアマン:夏見良宏氏;香川県丸亀市/夏見歯科医院).本大会ではJohn C.Kois氏(アメリカ・ワシントン州/ワシントン大学)の特別講演に加え,歯科医師,歯科技工士,歯科衛生士の各部門でシンポジウムが行われたほか,ハンズオン(実習),テーブルクリニック,ポスター発表など計370のプログラムが組まれ,2日間で3,723名(歯科医師2,548名,歯科技工士262名,歯科衛生士680名,その他233名)が参加した.以下,歯科技工に関連するプログラムから一部を紹介する.

DTシンポジウム
 「新進気鋭―Technician 何を考えいかに創るかAge30~」をテーマにしたプログラムでは,内海賢二氏(東京都目黒区/国際デンタルアカデミーラボテックスクール),藤尾 明氏(大阪府東大阪市/本多歯科医院),上原芳樹氏(奈良県生駒市/ファイン)の3名が登壇した(座長:小田中康裕氏;東京都世田谷区/oral design 彩雲).
 内海氏は「セラモメタルクラウンの色調表現による口腔設計」との演題で,シェードガイドと隣在歯(歯頸部)の「明度」を測るために,画像編集用の無料ダウンロードソフト『GIMP』の「脱色」機能を用いてシェードテイキングの画像をグレースケール(モノクロ)に変換し,測定箇所をクリックすると明度が数値化され,その値を参考にして補綴物の色調調整を行う手法を紹介した.また,明度をコントロールするための陶材選択について,①シェードガイドより隣在歯の明度が低い場合はトランスルーセントの量によって,②シェードガイドより隣在歯の明度が『GIMP』が示す数値で3以上高い場合はオペーカスデンティンによって,③シェードガイドより隣在歯の明度が同様の数値で5以上高い場合はオペーカスデンティンと蛍光色によって,それぞれ調整するとよいとし,類型ごとの対応策を示した.
 次に藤尾氏は「咬頭嵌合位の安定から大臼歯咬合面形態を考察」をテーマに,咬合嵌合位の安定のためには炎症と力のコントロールが必要であるとし,特に力のコントロールの鍵となる臼歯咬合面形態について解説.直接的に咬頭嵌合位の安定を図るためには適正なバーティカルストップの付与が重要であるとした.また,前歯部の安定が間接的に臼歯部の維持・安定に繋がることから,適切なアンテリアガイダンスを確立させ,臼歯部離開咬合を導かなければならないと述べた.
 上原氏は「リスクに応じた補綴設計~マテリアルの選択とフレームデザインを考える~」と題して登壇.冒頭,歯科材料を選択する際には「精度」「強度」「操作性」「審美性」「予知性」といった要素のほかに「コスト」についても意識しなければならないとし,修理時に高額な費用がかかる金合金(ゴールド)やプレシャスメタルなどは,将来的に患者の大きな負担となる可能性があることからあまり使用しないほうがよいとの私見を示した.また,模型診査の時点で「上下顎咬合関係(咬合平面,咬合様式,下顎位)」「歯列(上下歯列弓の大きさ,上下歯列弓の形態)」「歯牙(ファセット)」「骨(骨隆起,口蓋)」におけるリスクをリストアップし,それに基づいて適切な補綴処置を行うことが重要であるとした.

 DT部門
 「口腔を守る.パーシャルデンチャーとともに」をテーマにしたプログラムでは,俵木 勉氏(埼玉県狭山市/いづみや歯科),川島 哲氏(埼玉県川越市/ユニデント),上濱 正氏(茨城県土浦市/ウエハマ歯科医院),土田将広氏(千葉県松戸市/ツチダデンタルラボ)の4名が登壇した(座長:鈴木 尚氏;東京都千代田区/一ツ橋歯科クリニック).
 「パーシャルデンチャーにおける歯科医師と歯科技工士の連携の実際」とのテーマで講演を行った俵木氏は,川島氏との臨床例を通じて,義歯を長期間にわたって使用するには歯科技工士による「修理」が欠かせず,そのためには歯科医師と歯科技工士がしっかりと連携を取る必要があるとした.義歯の沈下を防ぎ,咬合力を維持するレストの重要性についても強調したほか,レストによって維持,支持,把持が機能していれば,パーシャルデンチャーの欠点とされている審美性の回復も可能であると述べた.
 川島氏は「キャストパーシャルの『実力』と『永続性』」として,「不正確な模型から口腔内に適合する義歯を作ることはできません」と述べ,チェアサイドにおける印象採得の重要性を強調した.また,アタッチメントに頼るのではなく,コンプリートデンチャーの理論を援用して吸着によって口腔内に納まるような設計を行えば,口腔内での過度な負担や違和感などが軽減でき,デンチャーの永続性を図ることができると説明した.続いて上濱氏が「顎口腔内に調和したパーシャルデンチャーの新たなる可能性」との講演で,パーシャルデンチャーを製作する過程で治療用義歯を活用することによって,咬合高径の回復や下顎位の安定を得たうえで最終義歯に移行することができるなどの利点を,インプラント治療と比較しながら説明した.さらに今後の歯科医療を展望するなかで“全身との関連で口腔内を見る”ことが重要であるとし,高齢患者や認知症,脳疾患患者が適切な義歯を装着することで脳血流の向上や咀嚼筋群が活性化して症状が緩和した事例などを示し,免疫力の向上,消化・吸収作用を高める咀嚼機能を回復させることができる義歯治療は超高齢社会に突入した日本においてますます必要とされるであろうと語った.
 最後に「歯牙区域粘膜区域加圧印象法による,三次元構成義歯の技工とその考え方」と題して登壇した土田氏は,「残存歯に過度に負担がかかる」というパーシャルデンチャーの欠点を解消するため,被圧変位量の違いを捉える印象法として「歯牙区域粘膜区域加圧印象法」を紹介.本法によって得られた模型から義歯を設計・製作すれば,咬合力を粘膜全体で支持する構造が得られ,結果として完成後の調整が不要になるほか,口腔内の保全や快適な装着感に繋がることも期待できると語った.

 テーブルクリニック
 「診断用ワクシングの重要性〈歯科臨床を成功させる為のkey point〉」では,南 清和氏(大阪市淀川区/ミナミ歯科クリニック)が上顎中切歯単冠補綴の症例や上下全顎にわたる咬合再構成の症例を通じて診査・診断の要諦を示し,続いて藤本光治氏(ミナミ歯科クリニック)が後者の症例をもとに,適切な機能と審美を達成するための歯冠形態の観察,再現法として「歯列の連続性」「天然歯に即したエマージェンスプロファイルの付与」「臼歯部離開咬合」「咬頭嵌合位の安定とそれに関わる咬合面形態」「下顎の安定のためのクロージャーストッパー,イコライザーの付与」など多岐にわたるポイントを図示したほか,ワックスアップで作り上げた形態をプロビジョナルレストレーションへと精密に置換するために同医院で行っている取り組みを動画で紹介した.
 「明度をコントロールするポーセレン築盛法」では,小田中氏がCreation陶材(Fact)の概要や主たる特徴である蛍光性についてWilli Geller氏の開発コンセプトとともに概説.また,前歯部の色調再現では一般的に「側切歯は中切歯よりも明度をやや低く,犬歯はさらに明度を下げ,彩度を上げて表現する」と認識されているが,6前歯をブラックライト下で観察すると,犬歯の歯頸部や変色した側切歯でも高い蛍光性が観察されるとして,これらの光学的な特徴も加味したうえで天然歯の色調再現に臨むべきであると強調し,その知見を踏まえた上顎中切歯の陶材築盛をデモンストレーションで示した.

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 「3D-CT時代における下顎のポジショニングからワックスアップまで」では,重村 宏氏(大阪市東成区/Japan Prothetic Dental Laboratory)が登壇.前半の講演部分では,難易度の高い咬合再構成が求められる臨床ケースにおいて,(特に顎関節部の)X線画像診断などを用いていかに患者個々に適正な下顎位を決定するかという歯科医師,歯科技工士に共通の課題について解説した.咬頭嵌合位での診査から咬合器上でのシミュレーション,外科処置,顎位診査,顎変位の是正(リポジショニング),アンテリアガイダンスの修正を経て最終補綴物を製作する流れを概説した後,後半は上下顎臼歯部のワックスアップを実演.「上下のバランス」をキーワードに常に“なぜその箇所から,その順序でワックスを盛り上げていくのか”ということへの裏付け(根拠)を持ちながら進めていくことの大切さを訴えたほか,インスツルメント先端部をあえて冷やしてワックスの温度コントロールを図るなどの“重村流”の創意工夫も惜しげなく披露していた.
 「インプラント修復における歯肉縁下形態付与の基準」では,鶴巻春三氏(新潟県三条市/マスターズ)がインプラント技工に従事する歯科技工士にとって難易度の高い作業と言える歯肉縁下への形態付与をテーマに,プロビジョナルレストレーションを用いてインプラント周囲組織を長期にわたって健全に保つことのできる上部構造製作の要点について展開した.特に,インプラント?側縁上粘膜の生物学的な高さと幅の比率は平均1:1.5であるという文献および検証結果を示したうえで,良好な術後結果を得るための理想的な歯周組織の追求に力点を置いて説明.講演途中では,両隣在歯が天然歯の場合のインプラント症例を例に実際に即時重合レジンによって上部構造のプロビジョナルレストレーションを製作していく詳細な工程を動画で供覧したほか,講演後には聴講した若い歯科技工士からの質問に長時間にわたって丁寧に応えている姿が印象的であった.

 一般口演やポスター発表のなかにも若い歯科技工士の積極的な参加がみられたが,たとえば,フェイスボウトラスファーなしでラボサイド(外注ラボ)で咬合器装着して診断用ワックスアップを行ったある発表に対して,聴講していた歯科医師から「診断用ワックスアップは本来チェアサイドで行うべきだが,フェイスボウなしで送られてきた模型に対して,どのようにして咬合器装着し,何を基準にワックスアップをしているのか?」との指摘がなされるなど,歯科医師,歯科技工士双方が咬合再構成症例の歯科臨床で抱えている根本的な問題点が浮き彫りになっていた場面もみられた.
 次回大会(プログラムチェアマン:南 清和氏)は2012年6月9日(土),10日(日)に同会場にて開催予定である.

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