「安定する局部床義歯と吸着する総義歯作製のための基礎知識と実践応用方法」をテーマに登壇した松本氏は冒頭,保存修復や歯内療法,歯周外科や補綴治療はすべて歯科医療の最終目標である「咬合の構築」のために行われているとし,それに寄与する良質な総義歯・局部床義歯を製作するためには,義歯床辺縁形態の熟知とその知識に基づいた印象採得が重要であると述べた.そしてその精度を高めるためには,顔面や口腔内の筋肉について知る必要があるとして,顎舌骨筋やオトガイ舌骨筋の違いなどについて解説したほか,印象採得が義歯の精度を左右するため,歯科技工士は担当歯科医師の作業工程を把握しておくべきであると強調した.
続く会員講演では,八巻賢一氏(東北歯科技工専門学校)が「歯科技工として歩む道は?」をテーマに,全国の歯科技工士養成校の入学者数が減っている状況(2009年度は1,373名.昨年度比81名減)や現在の歯科技工士の求人倍率が上昇していること(約11倍)を紹介し,今後なり手が減少し続けた場合,ますます歯科技工士の需要と供給のバランスが崩れていくのではないかとの見方を示した.そして今後は,歯科医師-歯科技工士-歯科衛生士が同じ目線で治療に望む必要がますます高まるとして,自身は学生らに対して技工技術のみならず歯科医師や歯科衛生士と信頼関係を構築することの重要性を教えていると述べた.
次いで小暮勝之氏(東京都江東区/メグデンタル)が登壇し「私の考えたキャストデンチャーの合理的製作法」と題して,高齢者に多い顎堤が極端に吸収したケースの対策法を紹介.その一例として,通常はキャストプレート製作,咬合採得,人工歯排列の手順を踏むが,顎堤が吸収した場合は解剖学的ランドマークの判別が困難であることからフィニッシュラインの設定も難しくなるため,咬合採得と人工歯排列を先に行うことが有効であると説明した.
最後に川島氏が「新技法の公開 シリコーン複印象の“超”らくらく製作法について」とのテーマで講演を行った.まずシリコーン印象材の扱い方に言及し,保存する際は上積み部分を混ぜないように注入口を下にするといった具体的な対処法を示した.また,義歯製作ではスタビライジングアームは必ずしも用いる必要がないとし,使用しない場合は硬めのシリコーン印象材を採用するよう歯科医師に伝えるべきであると強調した.そのほか,各社の金合金やコバルトクロム合金の流れのよさや強度について比較しながら,現在広く使用されている金合金は硬すぎるため,やや柔軟性のある金属を自身が開発中であることを紹介した.