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「なぜ審美歯科に長期症例がでてこないか?」開催

 6月29日(日),モクダ歯科研修センター(神戸市中央区)にて標記セミナーが開催された(主催:茂久田商会).歯科医師の行田克則氏(東京都世田谷区/上北沢歯科開業),松山智子氏(同勤務),歯科技工士の小田中康裕氏(同/バーレン)を講師に招いて「なぜ審美歯科に長期症例がでてこないか? ─なぜ辺縁歯肉は退縮するのか─」という印象的なタイトルを冠した講演は,「長期にわたる予後観察の結果こそが歯科におけるエビデンス確立の本道」とする講師陣のフィロソフィーを背景に,補綴物の装着直後~短期の予後のみが供覧される傾向のみられる昨今の審美歯科の潮流に一石を投じる内容となり,定員の100名を大きく上回る歯科医師,歯科技工士らが質疑応答を交えて熱心に聴講した.
 行田氏は審美上の有用性や白血球の自浄作用,上皮性付着部の変動の臨床応用などを理由に歯肉縁下マージンでレスカントゥアを与える設計を基本としている補綴臨床方針をベースに,補綴前処置としての歯周治療と歯槽上線維群との関係を①マージンの設定位置,②咬合に関する検証,③適切なメインテナンス,④歯槽上線維群の項目ごとに詳しく説明した.①については歯肉縁下マージンを否定する原著論文の多くは歯肉縁下=結合組織と位置づけていることを指摘したうえで,平均1.0㎜の歯肉縁下にマージン設定している自身の症例を供覧しながら「臨床におけるマージン位置は上皮性付着部のおおむね半分あたりになり,歯肉の防御機構を活用して長期予後の視点で健全な歯肉をもたらすことができます」と説明.②では矢状顆路角プラス7~8°の値をインサイザルガイドテーブルに与えてアンテリアガイダンスとする咬合器操作などを,③では患者のブラッシング圧を管理することで歯肉のコントロールを行っているチェアサイドワークなどを,豊富なスライド写真をもとに展開した.

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 行田氏講演の間には,小田中氏が「エマージェンスプロファイル」,松山氏が「歯肉縁下マージンの印象採得」と題してそれぞれの立場から登壇し,小田中氏は歯肉の成長スペースを考慮したS-Shape Profileにおいて「ストレートカントゥアを基本に,歯肉を上げたいときはレスカントゥア,下げたいときはオーバーカントゥアを与える」ラボサイドからの歯肉コントロールの“公式”を示したほか,歯間乳頭については「Tarnowの法則」「近遠心方向からの観察」「隣接歯,周囲歯肉の歯間乳頭」「術前写真やスタディモデル」「マージンの近遠心部と隣接歯の距離」の5つを判断基準に,歯科技工士としての分析を行っていることを説明.松山氏は歯槽骨の吸収が起きにくく,多様な補綴部形態を与えやすい歯肉縁下マージンの利点を活かすための精密な印象採得法を,圧排から印象材選択,印象採得手技の順で丁寧に解説した.
 各氏講演のなかでは「生物学的幅径は本当に一定だと思いますか」「ルートプレーニングは歯槽上線維群の再生力を奪ってしまうことを忘れないようにしてください」(行田氏),「歯科技工士がラボサイドワークによる歯肉のコントロールを意識すれば治療や技工のレベルが上がりますので,歯科医師の先生がたにはその分,技工料金も上げていただければと思います」(小田中氏)などと,歯科学や歯科界の“常識”を鵜呑みにせず,補綴物が患者の口腔内で長期に機能するための“最善手”を常に模索する演者ならではの問いかけ,コメントも数々飛び出し,参加者からは「演者のプロ意識に触発されました」「歯科治療というのは再生機能を有する口腔内を相手にしていることを学びました」などの感想が聞かれた.

 ※本セミナーについては,月刊『歯科技工』誌上にて詳報する予定です.

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