やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 編者 宗像恒次

 これまで栄養指導にカウンセリング技法を生かすというテーマを追求し,1994年の『栄養指導のためのカウンセリングテクニック』(臨床栄養別冊)に始まり,1996年の『栄養指導のためのヘルスカウンセリング』,さらに2001年の本書と,多くの読者の方々の好評を得たので3つの著作を上梓することができた.「アセスメント,情報提供,助言」というこれまでのガイダンスの方法に,「リスニング,共感的繰り返し,隠れた本当の要求の明確化」というカウンセリングの方法を効果的に組み合わせて成功した栄養指導の事例に読者の共感を得たためではないかと思う.
 新卒の栄養士が先生に教えてもらった通りに媒体を使って指導しているのに,「患者さんはなぜ私の言うとおりにしてくれないか」ととまどう.これを繰り返しそれに慣れてくると,「指導していて『はい,はい』と言っている人は,そう言っているけれども,きっとやらないだろうな」と思うようになる.「私はこの人にいったい何ができるだろう」と仕事が嫌いになる.だから仕事を適当にさばいてすましてしまう.「何のために仕事をしているのだろう」と悲しくもなるという話を聞いたことがある.
 これは無理のないことである.学校でガイダンスの方法しか学んでないからである.カウンセリングという言葉や理論を学校で聞いたかもしれないが,体験的に身についていないためである.またカウンセリングとガイダンスを組み合わせた栄養指導や患者ケアのできる臨床家や学校の先生がまだきわめて少ないためである.
 筆者は15年前からヘルスカウンセリング全国研修を開始し,保健医療者のための認定ヘルスカウンセラー資格研修セミナーを北海道から沖縄までの会場で年間延べ4,000人以上の参加者を得て進めてきている.幸い多くの認定ヘルスカウンセラーが誕生し,本書の執筆にも貢献してもらえるようになったが,前述の新卒の方の悔しさと悲しさに応えられるまでに保健医療界に普及するにはあと15年くらいはかかると思う.
 本書のカウンセリング法は,訓練されれば誰でもが活用できるように構造化されたカウンセリング技法(SAT)を用いている.これまでの心理カウンセリングの方法は基本的なカウンセリングの姿勢を知的に学ぶのにはよかったが,限られた時間で実際のケースに適用できるよう保健医療者の自己成長を促すには無理があるからである.
 本書を選び,手にとって読んでいただいている読者の方々に感謝したい.今後,有効的な栄養指導や患者ケアのために本カウンセリング法を活かし,ご自分の仕事に今までにはない充実感を得られますよう心から願っています.
 2001年8月吉日
I プロローグ
カウンセリングを活用して,援助者が変わる,患者が変わる
   (1)栄養士が変わる(西 修江)
    ・自分にどんな期待をもっているのだろうか?
    ・栄養指導はガイダンスだけで患者に話が伝わっているのだろうか?
    ・よほどの決意がなければ行動変容は難しい
    ・相手の話をきちんと聴いているか
    ・無視していた患者が話してくれるようになった
    ・自分に少しずつ自信がもてるようになり楽になった
   (2)看護者が変わる(富山美佳子)
    ・変化する病気
    ・変わろうとする医療と看護
    ・患者の自己決定を阻む看護者の価値観
    ・その人なりの価値観に共感する
    ・いま,看護者に変化が求められている
II ガイダンス
 1.栄養士のヘルスカウンセリングの必要性(小森まり子)
   (1)栄養士に求められるもの
   (2)栄養士に必要な3つのコミュニケーション法
   (3)二重意思論
   (4)裏の意思に気づいたときはじめて呪縛から解放される
   (5)栄養士に必要なカウンセリング技術とその学習過程における自己成長課題
 2.ヘルスカウンセリング-SAT法による自立と成長の支援-(宗像恒次)
   (1)健康相談とヘルスカウンセリングとの相違
   (2)自己決定を促す構造化カウンセリング法(SAT)
    1.保健行動のシーソーモデル
    2.行動変容を妨げるもの
    3.逃避的な心のパターンが行動変容を妨げる
    4.SAT法はなぜ行動変容を促すのか
    5.パーソナリティ変容を促し,自己成長を支える
III セミナー
 1.SATカウンセリングの基本姿勢と技法(中野智美)
   (1)SATカウンセリングを支える4つの基本姿勢
    1.観察
    2.傾聴
    3.確認
    4.共感
   (2)SATカウンセリングの技法と効果
    1.目標行動化のための技法
    2.自己決定化のための技法
    3.自己効力化のための技法
    4.自己成長化のための技法
 2.SATカウンセリングの体験学習法(小森まり子)
   (1)ヘルスカウンセリング研修とは
    参加動機と研修後の感想
   (2)4つの基本姿勢
    1.観察
    2.傾聴
    3.確認
    4.共感
   (3)基本技法と展開
    1.開いた質問から効果的沈黙へのプラクティス
    2.共感的繰り返しと要約
    3.感情・期待・心の本質的欲求の明確化法
    4.自己イメージ連想法(自己関連連想法)
    5.心傷風景連想法と癒しの技法
    6.“癒し”の共感的励まし
    7.矛盾の確認
    8.矛盾する感情の心傷風景連想法
    9.自己解釈
    10.心の声の変更法
    11.再誕生・再養育カウンセリング法
IV 事例
 1.糖尿病患者のヘルスカウンセリング(山内惠子)
   (1)糖尿病の現状
   (2)糖尿病患者のセルフケア行動
   (3)食事療法とカウンセリング
    Case 1 食事療法が守れない65歳女性の場合
    Case 2 家族からいろいろ言われるほどいい加減になるという事例
    Case 3 わかっていても間食がやめられない症例
    Case 4 インスリン導入目前のパニック状態から脱却した症例
 2.肥満症・高脂血症患者のヘルスカウンセリング (八木香里)
   (1)リバウンドしない減量
   (2)肥満治療の流れ
    Case 1 肥満を伴う高脂血症の主婦
   (3)患者の立場に立ったサポート
 3.透析患者のセルフケアとヘルスカウンセリング (植松節子)
   (1)わが国の透析患者の現状
   (2)透析患者の心のケア
   (3)透析患者のセルフケア
   (4)水分管理をめぐる会話
    Case 1 透析室での会話
    Case 2 生活行動変容のカウンセリングシートを使った水分管理のアプローチ
   (5)カウンセリングの結果
   (6)透析患者の継続フォローにカウンセリングは有効
   (7)透析患者へのPR
 4.慢性腎不全患者のヘルスカウンセリング (山内惠子)
   (1)慢性腎不全とは
   (2)慢性腎不全の食事療法
   (3)患者の心理状況
    Case 1 透析導入に対する不安をもつ慢性腎不全の症例
    Case 2 栄養指導により食事コントロールがよくなった慢性腎不全の症例
 5.高血圧症患者のヘルスカウンセリング (山内惠子)
   (1)高血圧症とは
   (2)高血圧症の食事療法と生活管理
   (3)高血圧とストレスや感情
    Case 1 カウンセリングによる運動指導が効果をあげた高血圧症例
    Case 2 高血圧食の栄養指導への不平・不満がカウンセリングにより受け入れられた例
 6.拒食・過食のヘルスカウンセリング (小塚友美)
    Case 1 寂しさのあまり胎児に戻りたいと拒食を続けるA子
    Case 2 言えない怒りを吐くことで表現するB子
   カウンセリングの心がまえ
 7.高齢者の栄養指導とヘルスカウンセリング (鈴木浄美)
   (1)相手の訴えの背後にある本当のニードをキャッチする
    Case 1 突然機嫌が悪くなった高齢の患者
   (2)自己イメージ連想法により本当になりたい自分に気づく
    Case 2 糖尿病をもった高齢者
   (3)できることから始めてみよう
 8.アレルギー患児とヘルスカウンセリング (益子育代)
   (1)アレルギー疾患における治療上の問題
   (2)アレルギーの心理的アセスメント
    Case 1 アトピー性皮膚炎患者の心理的ケア
   (3)ストレス対処にカウンセリングが果たす役割
 9.うつ病患者へのヘルスカウンセリング (二井屋敬子)
    Case 1 若い女性のうつ病患者
V 手法と教材
 1.30分の栄養指導で使えるSATカウンセリングテクニック (所澤和代)
   (1)「教える栄養指導」から「一緒に考える栄養指導」へ
   (2)3つの健康
   (3)SATカウンセリング利用の方法
    Case 1 食事療法なんかできっこないよ
    Case 2 この前教わったとおりにやっているのにやせないんです
    Case 3 のらりくらりと答えをはぐらかす
 2.栄養指導におけるセルフガイダンス法 (所澤和代・宗像恒次)
   (1)セルフモニタリング
   (2)3方向からモニターする必要性
   (3)実践手順
 3.運動指導におけるセルフガイダンス法とSATカウンセリング法 (橋本佐由理)
   (1)運動行動の現状
   (2)運動行動の実行や継続にかかわる要因
   (3)セルフケア行動を支援する
   (4)セルフガイダンス法とは
   (5)運動指導におけるセルフガイダンス法

文献
索引