やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序

 昨年4月,本書の姉妹編である「歯学生のための病理学-口腔病理編」が10年ぶりに改訂され出版された.本書「歯学生のための病理学-一般病理編」は,口腔病理編の刊行に後れること2年余の1991年にその初版が出版されているので,口腔病理編に引き続きすみやかに本編の改訂作業を進めることを企画した.執筆者諸氏のご協力により,このたびは口腔病理編と1年の間隔を置くだけで改訂版出版に漕ぎ着けることができた.私事で恐縮であるが,私の広島大学における現役最後の1年間のうちにこの編集作業を全うできたことは大きな喜びであり,各章の執筆にご協力いただいたわが口腔病理学分野の同僚である諸先生に衷心より感謝の意を表する次第である.時間的制約もあって,口腔病理編および本書の各章間での用語の統一,整合性,量的バランスなどを考慮のあまり,オリジナルの原稿にかなりの修正を加えた点は独断専行の誹りを免れえないと自認しており,ご迷惑をかけたであろうことを深くお詫びしたい.
 初版刊行に際して共同で編集や執筆に当たっていただいた先生方(岡邊,内海,雨宮,斎藤,浦郷各教授)もこの10年の間につぎつぎに停年を迎えられた.その間,病理学の各専門分野を席巻した,ことに研究方法や研究対象の新たなる展開には目を見張るものがあり,二百有余年の伝統をもつ顕微鏡解析を中心とした形態学と並んで,今や分子細胞生物学・バイオテクノロジーを駆使した病態の分子解析(分子病理学)が病理学の両輪になったといっても過言ではあるまい.教科書的内容(定説)として取り入れるにはあまりにもめまぐるしい日進月歩の分野ではあるが,分子レベルでの解析は,免疫病理学,炎症論や腫瘍論などを進めるにあたって避けて通れないことは確かである.初版に比較して,新執筆陣による本改訂版の随所に新しい病理学の展開を垣間見ることができる.
 21世紀に向けて求められているのは,良き医療の提供であり,そのための良き医療人の育成であることを歯学生諸君は肝に銘じておいてほしい.病理形態学であれ分子病理学であれ,病理学の原点は「病める人」にあり,疾患機序の解明を通じて医療の質的向上に寄与することを目的とする学問であることに変わりはない.これから歯学生諸君の学ぶ臨床歯科医学のベースとなるのが病理学各論としての口腔病理学であり,そのまた基盤となるのが本書の主たる部分を占める病理学総論である.からだ全体にわたって病気の仕組みを理解し,口腔領域以外の重要疾患(本編12章に相当)についても医師としての常識を身につけるという自覚をもって学ぶことに本書を役立てていただければ幸いである.
 本書の編集は,初版と同じく医歯薬出版編集部の牧野和彦氏に担当していただいた.その優れた手腕を称えるとともに,本書に心血を注いでいただいたことに心から感謝申し上げる.
 2000年3月 編者を代表して 二階宏昌



 「歯学生のための病理学-口腔病理編」が平成元年の春に刊行されて,早くも二年半が経過した.当初の計画では,できるだけ速やかに二分冊の形になるよう,「一般病理編」のほうも1年そこらで完成にこぎつけるはずであったが,今,ようやく本年度後期セメスターでの一般病理学の授業に間に合うべく,上梓をめざして調整作業を終えることができた.その間多大のご迷惑をかけた関係者各位には,衷心よりお詫び申し上げる.
 前編の序文にも記したように,本書は,歯学教育に適した,簡潔で要を得た歯学生用教科書不在の状況に鑑みて,先般改訂された「歯学教授要綱」に沿って立案,企画したものである.二分冊に分かれた教科書の編集に当たっては,両編を通じて用語の不統一がないように,また,総論・各論間で内容的にもできるだけ矛盾するところのないように心がけた.口腔病理編で歯髄炎や口内炎をご担当の先生方には循環障害や炎症の章を,歯の奇形について書かれた先生には奇形・先天異常の章を,腫瘍の章は口腔腫瘍の執筆者にと,それぞれ分担の組み合わせに留意したのもそのためである.
 近年,歯学教育の改善に向けて,多くの大学においてカリキュラムの再編成が試みられている.本書においても,平成元年に大幅に改訂された「歯科医師国家試験出題基準-歯科医学総論II」の病理学に関わる内容を網羅して,従来の病理学総論に該当する範囲に重点をおいた.また,各執筆者には,免疫病理学等に関連した,新しい概念や知識も取り上げていただいた.一方,従来,病理学各論の形で講述されてきた,全身臓器の病変に関しては,歯科医師としてもこの程度は知っておいてほしいとみなされる重要疾患について簡単に紹介するにとどめ,医学部ご出身で長年歯学生の教育に携わってこられたお二人の先生に,最終章としてまとめていただいた.
 本書作成に当たってのこのような理念・方針にもかかわらず,この一般病理編では,まだまだ未整理の部分,いささか詳細にすぎた記述や,ことに各章間での内容の重複が随所に残っている.将来,本書の改訂の機会に恵まれれば,ぜひ,贅肉をそぎ,学生諸君にとって使いやすい教科書に仕上げていきたいと願っている.
 両編を通読することによって,歯学生諸君のみならず,卒業後の歯科臨床家にも,生涯研修に必要な,病気そのもの,あるいは歯科・口腔疾患についての基礎的な病理学的知識が得られ,そのレベル・アップに役立つことを願ってやまない.本編1章の最後にも記したように,病理学の知識を基盤に患者を診ない歯科医師にはなってもらいたくないものである.なお,一般病理編に関しては,医学生用の教科書に比べて簡易な記載であることから,パラメディカルの学生用教科書としても活用されれば幸甚である.
 本書の刊行にご理解とご協力をいただいた共同執筆の先生方,医歯薬出版株式会社の関係各位,わけても口腔病理編の企画に始まって,一般病理編の完成に至るまで,昭和61年このかた数年余にわたってお付き合いいただき,本書に熱情を注ぎ続けて下さった,同社編集部の牧野和彦氏の卓越せる編集,お力添えに心から敬意と感謝の意を表します.
 1991年10月 二階宏昌 岡邊治男
第2版の序/iii

1章 病理学とはなにか……二階宏昌……1
 I.病理学の歴史・概念の変遷……1
 II.臨床医学としての病理学……3
2章 病気とは――その内因と外因……賀来亨……5
 I.病気とはなにか……5
 II.内因――生理的素因と病的素因……6
   1.生理的素因……6
   2.病的素因……6
 III.遺伝性疾患……7
   1.先天異常……7
   2.染色体異常……7
   3.遺伝子の突然変異による疾患……8
 IV.栄養の異常による障害……9
   1.栄養不足による障害……9
   2.栄養過剰による障害……10
   3.ビタミン欠乏症……11
   4.無機質に関連した障害……12
 V.物理的外因……13
   1.高温・低温の病因作用……13
   2.気圧変動の病因作用……14
   3.光線の病因作用……14
   4.放射線の病因作用……15
   5.機械力の病因作用……16
   6.その他……17
 VI.化学的外因……18
   1.外来性毒物による中毒……18
   2.生体内毒物による中毒……19
   3.環境汚染……19
   4.医原性疾患……21
 VII.生物学的外因……21
   1.病原微生物……21
   2.寄生虫……22
3章 循環障害……永井教之……23
 I.循環障害とはなにか……23
 II.血液の分布異常による局所循環障害……24
   1.局所の貧血(虚血・乏血)……24
   2.充血……25
   3.うっ血……26
 III.出血……28
   1.原因と種類……28
   2.病態と転帰……30
   3.出血性素因……30
 IV.血管閉塞に伴う局所循環障害……32
   1.血栓症……32
   2.塞栓症……35
   3.梗塞……35
   4.副行(側副)循環……37
 V.ショック……39
   1.原因と種類……39
   2.発現機序と症状……40
 VI.水腫(浮腫)……40
   1.原因と発現機序……40
   2.部位による病態……41
   付.脱水症……42
 VII.高血圧症……42
   1.原因……42
   2.分類と病態……42
4章 細胞の傷害――物質代謝異常……立川哲彦……44
 I.細胞の基本構造と退行性病変……44
   1.細胞の基本構造と機能……44
   2.細胞傷害による細胞構造の基本的変化……47
   3.退行性病変……49
 II.変性……49
   1.細胞の水腫性変化……50
   2.角質変性……51
   3.粘液変性……54
   4.硝子変性……54
   5.アミロイド症……56
   6.脂肪変性……56
   7.糖原変性と糖原蓄積症……58
   8.病的石灰化(石灰変性)……60
   9.尿酸沈着症(痛風)……62
   10.色素沈着……63
 III.細胞の死……65
   1.壊死とはなにか……65
   2.壊死を表す細胞の形態変化……67
   3.壊死の諸型……67
   4.壊死組織の運命……67
   5.アポトーシス……68
 IV.生理的萎縮と病的萎縮……69
   1.退縮と老人性萎縮……69
   2.病的な全身の萎縮……70
   3.病的な局所の萎縮……70
 V.個体の死……71
5章 細胞の反応性増殖……大家清……73
 I.細胞の増殖……73
   1.増殖能による細胞分類……74
   2.増殖に影響を与える因子……75
   3.反応性増殖と腫瘍性増殖……76
 II.肥大と過形成(増生)……76
   1.肥大……77
   2.過形成(増生)……79
 III.再生……80
   1.再生能力……80
   2.再生の様式……82
 IV.化生……82
   1.上皮の化生……82
   2.間葉性組織の化生……83
 V.肉芽組織による修復……84
   1.肉芽組織……84
   2.創傷治癒……85
   3.異物の器質化と被包化……89
6章 炎症……向後隆男……91
 I.炎症とはなにか……91
   1.炎症の定義と意義……91
   2.炎症の歴史……91
   3.炎症の原因……92
   4.炎症の命名と分類……92
 II.急性炎症にみられる基本的組織変化および発症機構……93
   1.初期血管反応……94
   2.液性成分の滲出……95
   3.炎症性細胞の遊走と浸潤……96
   4.血栓形成……97
   5.治癒・修復……98
   6.その他の反応……98
 III.炎症に関与する細胞の種類と役割……99
   1.多形核白血球(顆粒球)……99
   2.リンパ球と形質細胞……101
   3.単核・貪食細胞と多核巨細胞……102
   4.血管内皮細胞……104
   5.血小板……104
 IV.炎症の経過を修飾する要因……104
   1.外因側の条件……104
   2.宿主側の条件……104
 V.急性炎症の形態学的分類……105
   1.滲出性炎……105
   2.急性増殖性炎……109
 VI.急性炎症巣の転帰(炎症の修復)……109
 VII.慢性炎症の形態学的特徴と分類……110
   1.増殖性炎の発症機序……110
   2.慢性増殖性炎……110
   3.肉芽腫性炎症……111
   4.結核症……112
   5.梅毒……115
7章 免疫の病理……田中昭男……118
 I.免疫の概念と仕組み……118
   1.免疫の概念……118
   2.免疫の仕組み……120
 II.免疫機構にかかわる細胞と免疫グロブリン……122
   1.T細胞の分化と性質……122
   2.B細胞の分化と性質……124
   3.免疫グロブリン……126
 III.免疫反応による組織傷害……127
   1.I型(アナフィラキシー型)アレルギー……127
   2.II型(細胞傷害型)アレルギー……128
   3.III型(免疫複合体型,アルチュス型)アレルギー……129
   4.IV型(遅延型,ツベルクリン反応型,細胞性免疫型)アレルギー……130
 IV.移植と拒絶反応……131
   1.移植……131
   2.拒絶反応……133
 V.免疫不全症候群……134
   1.先天性免疫不全症候群……134
   2.獲得性免疫不全症候群……135
   3.AIDS……136
 VI.自己免疫疾患……137
   1.臓器特異的自己免疫疾患……137
   2.臓器非特異的自己免疫疾患(全身性自己免疫疾患)……139
8章 感染症……谷口邦久……141
 I.感染症の成立機序と感染経路……141
   1.感染と感染症……141
   2.感染の経路と体内蔓延……141
   3.宿主の防御機構……142
 II.日和見感染とは……142
 III.細菌・スピロヘータによる感染症……143
 IV.真菌による感染症……147
 V.ウイルスによる感染症……149
   1.皮膚病変を主とするウイルス感染症……150
   2.呼吸器病変を主とするウイルス感染症……151
   3.中枢神経系病変を主とするウイルス感染症……151
   4.消化器病変を主とするウイルス感染症……152
9章 腫瘍……二階宏昌……154
 I.腫瘍とはなにか……154
 II.腫瘍の形態と基本的構造……155
 III.良性腫瘍と悪性腫瘍の特徴……156
   1.増殖・進展パターンと発育速度……157
   2.腫瘍細胞の分化度と異型性……159
   3.再発……161
   4.転移……161
   5.宿主への影響……164
   6.癌の悪性度と病期分類……165
   7.前癌病変……166
 IV.腫瘍の分類と命名……166
   1.上皮性の良性腫瘍……168
   2.上皮性の悪性腫瘍……169
   3.間葉性の良性腫瘍……172
   4.間葉性の悪性腫瘍……172
   5.神経組織の腫瘍……173
   6.混合腫瘍……174
 V.腫瘍発生の要因と発癌機序……175
   1.疫学的にみた腫瘍の素因……176
   2.化学的要因……177
   3.物理的要因……178
   4.腫瘍ウイルス……178
   5.細胞の癌化の機序:癌遺伝子と癌抑制遺伝子……179
   6.発癌の多段階説……180
 VI.癌と免疫……182
 VII.癌の診断・治療・予防……183
   1.診断……183
   2.治療と予防……184
10章 先天異常および奇形……片桐正隆……185
 I.正常発生と異常発生の関係……185
 II.先天異常・奇形とはなにか……185
   1.先天異常・奇形の概念……185
   2.先天異常・奇形の定義……187
 III.先天異常はどのようにして成立するのか……187
   1.先天異常の原因……187
   2.先天異常の成立機転……190
   3.先天異常の成立時期ならびに成因別頻度……195
 IV.先天異常にはどのようなものがあるか……197
   1.異常の程度による分類……197
   2.成立要因による分類……202
11章 老化の病理……佐藤方信……203
 I.老化現象……203
 II.老化の形態学……204
   1.細胞の変化……204
   2.細胞間質の変化……204
 III.加齢変化と老人病……204
   1.循環器……205
   2.消化器……208
   3.呼吸器……208
   4.神経系……209
   5.生殖器……210
   6.泌尿器系……211
   7.運動器……211
   8.感覚器……211
   9.造血器と免疫機構……212
   10.内分泌……212
12章 臓器別にみた病変の特異性と重要疾患……賀来亨(I-IV),佐藤方信(V-VII)……213
 I.循環器の病変……213
   1.心臓……213
   2.血管・リンパ管……215
 II.呼吸器の病変……218
   1.上気道……218
   2.気管支・肺……219
 III.消化器の病変……222
   1.食道……222
   2.胃……223
   3.腸管……227
   4.肝臓……230
   5.胆嚢・胆管……234
   6.膵臓……235
 IV.造血器の病変……236
   1.血液・骨髄……236
   2.リンパ節……241
 V.神経系の病変……242
   1.発生の異常……242
   2.外傷……243
   3.循環障害……243
   4.炎症・感染症……244
   5.中毒……245
   6.変性疾患……245
   7.腫瘍……246
   8.その他……247
 VI.泌尿器の病変……248
   1.腎臓……248
   2.下部尿路(腎盂・尿管・膀胱・尿道)……253
 VII.生殖器の病変……254
   1.女性性器……254
   2.男性性器……257
 VIII.内分泌器の病変……258
   1.下垂体……258
   2.甲状腺……259
   3.副甲状腺(上皮小体)……262
   4.副腎……263
   5.膵ランゲルハンス島……265
   6.異所性ホルモン産生腫瘍……266
 IX.皮膚の病変……266
   1.先天性疾患……266
   2.炎症……266
   3.腫瘍および腫瘍様病変……268
   4.感染症……270
 X.運動器および軟部組織の病変……272
   1.骨,関節……272
   2.骨格筋……274
   3.軟部腫瘍……274

索引……275