やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 近年,人口の高齢化が進み,また医学,医術の発達により,全身的的合併疾患を有する歯科患者も増えている.そもそも,歯科麻酔学の教育目的は,歯科臨床上必要な麻酔学の理論と実際とを理解させ,さらに患者の生命の安全を守護するために全身状態の把握,管理を習得させることにある.とかく,心身両面から総合的な視点に立脚して患者を管理する機会の少ない歯学教育の中では,歯科麻酔学の講義,臨床実習に課せられた役目は重大といえよう.
 「歯学教育の改善に関する調査研究協力者会議」の最終まとめにおいても,医療事故の発生原因とその対策,全身管理に関する基本的医学知識および緊急事態に対処する救急蘇生法,全身に関する医学知識,隣接医学との関連を重視した学習等々を,歯学教育の目標の面で普及している.
 以上のような意義をふまえて,歯科麻酔学の臨床実習は実践されなければないが,限られた期間内で学習目標に到達することは容易ではない.この実習書は,学生諸君が効率的な歯科麻酔の臨床教育が習得できるように,直接学生教育を担当している執筆者によって記述された手引書であり,臨床実習必携ともいうべきものである.
 歯科麻酔学教授要綱(歯科大学学長会議,昭和59年改訂)では,教授項目の中で講義のほかに基礎実習の内容として,1.患者の全身状態評価,2.患者管理,3.局所麻酔法,4.笑気吸入鎮静法,5.救急処置および蘇生法,6.静脈内鎮静法(見学),7.全身麻酔法(見学)を挙げている.本書は,これらを参酌して編集されたものであり,諸君は大いにチェアサイドで活用していただきたい.さらに各項の詳細については,さきに私どもが編著した「歯科麻酔学」等を繙く労を惜しむことなく,歯科麻酔学全般にわたって習得されることを希望する.
 最後に,臨床実習の目的はただ単に医療技術の修得だけにとどまらず,臨床教育実践の場を通して,将来歯科医師としての倫理観,使命観,冷静な判断ないし決断力などの養に努めることも肝要であること,を付言しておく.
 1987年10月1日 東京歯科大学教授 中久喜喬
第1章 全身状態評価 野口政宏
 1・1 バイタルサイン
 1・2 機能検査
 1・3 麻酔記録の読み方
第2章 麻酔に必要な基本手技 野口政宏
第3章 局所麻酔法 中久喜喬
 3・1 局所麻酔に必要な器具
 3・2 局所麻酔薬
 3・3 血管収縮薬
 3・4 表面麻酔法
 3・5 浸潤麻酔法
 3・6 周囲麻酔法
 3・7 伝達麻酔法
 3・8 局所麻酔の偶発症
第4章 精神鎮静法 雨宮義弘・金子譲
 4・1 吸入鎮静法雨宮義弘
 4・2 静脈内鎮静法金子譲
第5章 全身麻酔法 野口政宏
 5・1 麻酔前診察と麻酔前処置
 5・2 麻酔前投薬
 5・3 手術室見学時の注意
 5・4 吸入麻酔器
 5・5 全身麻酔薬,その他の使用薬剤
 5・6 術式
 5・7 術中輸液・輸血
 5・8 回復室
第6章 歯科外来全身麻酔法 雨宮義弘
 6・1 適応と禁忌
 6・2 歯科外来全身麻酔の前準備
 6・3 麻酔方法
第7章 救急蘇生法 金子譲
 7・1 蘇生法の内容
 7・2 救急蘇生法の系統図
 7・3 マネキンによる蘇生法の実習
付)監視装置 雨宮義弘
 歯科麻酔学実習の指導方針 野口政宏

 索引