やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 輸血検査を主題とするMedical Technology臨時増刊号『輸血検査のすべて』が刊行されたのは2003 年のことである.過去には1987 年,1994 年にも同書名にて刊行され,広く活用されてきた.そして今回,書名を新たにし,輸血検査ならびに輸血関連業務をテーマとする臨時増刊号『今日から役立つ 輸血検査業務ハンドブック』が刊行の運びとなった.
 医学・医療の発展に伴い,臨床検査領域も,新たな知見や検査機器・技術の開発により日々進歩を続けている.輸血検査においてもそれは例外ではない.カラム凝集法をはじめとする自動検査技術の発展により,今日では他領域同様に自動化が急速に進みつつある.
 その一方で,輸血検査は,検査の誤りが患者の生命をも脅かす重大な過誤に直結するというその特殊性ゆえに,装置の故障や停電といったトラブル時にも迅速かつ正確な対応が求められ,試験管法などの「用手法の技術」と,検査法の選択や結果判定における「確かな判断力」が必須であることには今後も何ら変わりはない.さらに,輸血の適正使用と安全推進が急務となる中,輸血療法委員会や輸血コンサルテーションなどを通して,臨床側と連携・交渉ができる臨床検査技師が求められている.
 そこで本書では,輸血検査の基本手技や手順,精度管理,輸血療法の実際,輸血副作用への対応をわかりやすく解説するとともに,各種自動輸血検査装置の原理や取り扱い,臨床支援といった新たな情報や取り組みも盛り込んだ.加えて,臨床検査技師が担う重要な輸血業務の一つである製剤管理についても詳説している.検査手順や輸血副作用への対応については,「こんな時どうする? 症例から学ぶ 考え方と対処法」と題して豊富な症例を提示し,書名のごとく“今日から役立つ”実践的な内容となるように努めた.
 臨床検査技師の適切な知識と技術なくしては,患者に安全な輸血を提供することはできない.日常的に輸血検査を担当している読者には,知識と技術を再確認するための一助として,また,宿当直時などにのみ輸血にかかわる読者には,最低限習得すべき輸血検査の基本を学ぶ参考書として,本書をご活用いただければ幸甚である.
 最後に,ご多忙の中,本書の執筆に快くご協力下さり,多大なるご尽力をいただいた先生方に深く感謝の意を表する.
 2011 年12 月
 『今日から役立つ 輸血検査業務ハンドブック』編集代表(五十音順)
 東邦大学医療センター大森病院 輸血部 奥田 誠
 市立札幌病院 検査部 高橋智哉
 旭川医科大学病院 臨床検査・輸血部/Medical Technology編集協力スタッフ 友田 豊
 発刊にあたって
Chapter 1 輸血検査の基本
 1.検査の基本操作と手技のポイント(高橋智哉)
 2.ABO血液型検査の手順と注意点(常山初江)
 3.Rh血液型検査の手順と注意点(堀 勇二)
 4.不規則抗体スクリーニング検査の種類・手順・注意点(石丸 健・佐藤進一郎)
 5.不規則抗体鑑別のポイントと抗体同定検査の進め方(安田広康)
 6.交差適合試験の手順と注意点(森 威典)
 7.新生児での交差適合試験(藤本昌子)
 こんな時どうする? 症例から学ぶ 考え方と対処法
  1.冷式抗体保有によるオモテ・ウラ不一致の症例(川畑絹代)
  2.血液型不適合の造血幹細胞移植症例―ABO血液型変化への対応(丸橋隆行)
  3.ABO亜型・変種の症例―(1)日本人でもっとも多い亜型Bm症例(平島瑞子)
  4.ABO亜型・変種の症例―(2)地域集積性がみられるcis AB症例(李 悦子)
  5.血液型異常反応の場合の適合血選択について―緊急時の対応例(丸山美津子)
  6.Rhコントロール陽性への対応(堀 勇二)
  7.高頻度抗原に対する抗体の同定とその輸血(川畑絹代)
  8.赤血球同種抗体と高力価HLA抗体により溶血性輸血副作用を起こした症例(安田広康)
  9.不規則抗体スクリーニング陰性で交差適合試験が陽性となった症例(森 威典)
  10.ABO不適合による新生児溶血性疾患(ABO-HDN)(藤本昌子)
  11.抗Eによる新生児溶血性疾患(HDN)(藤本昌子)
Chapter 2 自動輸血検査装置の原理と取り扱い時の注意点
 1.各種自動輸血検査装置の原理と特徴(西野主眞)
 2.自動輸血検査装置取り扱い時の注意点(日高陽子)
Chapter 3 輸血検査における精度管理
 1.検査室環境・設備における精度管理(安藤高宣)
 2.検査法・判定基準における精度管理(国分寺 晃)
Chapter 4 血液製剤の適応・選択・管理
 1.赤血球濃厚液の使用指針(比留間 潔)
 2.血小板濃厚液の使用指針(比留間 潔)
 3.新鮮凍結血漿の使用指針(比留間 潔)
 4.アルブミン製剤の使用指針(河野武弘)
 5.自己血輸血の種類と使用指針(田崎哲典)
 6.血液製剤の保管方法(堀 淑恵・田崎哲典)
 7.血液製剤の供給体制(堀口新悟・田崎哲典)
Chapter 5 輸血療法の実際
 1.輸血の説明と同意(インフォームド・コンセント)(田中朝志)
 2.輸血速度・輸血量の算出(田中朝志)
 3.大量出血・緊急輸血時の対応(紀野修一)
 4.大量輸血時の合併症(紀野修一)
 5.洗浄・置換血小板の適応 (東 寛・秋野光明)
Chapter 6 輸血副作用の検査と対応
 1.おもな輸血感染症のリスクと遡及調査の意義・課題(高橋雅彦・落合 永)
 2.感染性副作用の原因・対応・リスク管理(加藤栄史・高本 滋)
 3.免疫性副作用の原因・対応・リスク管理(藤井康彦)
 こんな時どうする? 症例から学ぶ 考え方と対処法
  12.血漿交換療法後にADAMTS13 インヒビター力価が上昇し,リツキサン投与が有効であった後天性TTP症例(加藤誠司)
  13.輸血関連急性肺障害(TRALI)症例(岡崎 仁)
  14.輸血関連循環過負荷(TACO)症例(岡崎 仁)
  15.遅発性溶血性輸血副作用(DHTR)症例(宮城保浩)
  16.発熱性非溶血性輸血副作用(FNHTR)症例(笹田裕司)
  17.輸血後E型肝炎症例(花田大輔・友田 豊・紀野修一)
Chapter 7 輸血コンサルテーションと臨床支援
 1.輸血コンサルテーションの実際(石井規子・高木 康)
 2.輸血療法委員会の活動意義と取り組み(橋ケ谷尚路・長田広司)
 3.抗体検査,交差適合試験結果の臨床への報告─報告書の要件と留意点(友田 豊・花田大輔・紀野修一)
 4.医療スタッフへの指導・啓発(栗林智子・奥田 誠)

Column&Topics
 1.酵素法のみ陽性の場合(石丸 健・大橋 恒・佐藤進一郎)
 2.輸血検査の標準化について(星 順隆)
 3.温式自己抗体(寺内純一)
 4.国際単位表示の抗Dを用いた精度管理(上村知恵)
 5. 宗教上の理由による輸血拒否への対応(権田憲士・大戸 斉・安田広康・竹之下誠一)
 6.不規則抗体保有症例への適合血の選択(安田広康)
 7. 輸血製剤による細菌感染の現状と対応―日本赤十字社への報告例より(百瀬俊也)
 8.医師は輸血を行う際にどのような情報を求めているか(岩尾憲明)
 9.輸血管理料の概要と改定の見通し(半田 誠)