やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 「リハビリテーション看護研究」シリーズではこれまでに,リハビリテーション看護に欠かせない「新しい視座」「評価」「チームアプローチ」といった知識や理論とその実践をテーマとして取りあげてきました.また,「転倒」「摂食・嚥下」「口腔ケア」「全身管理」といった臨床の日々の活動に参考となるテーマで,臨床の実践をあげながら関連する研究や理論も紹介する「スペシャリストのための理論と実践」も,理論と実践とをつなぐ特集として好評を得てきました.シリーズも第5号発刊の運びとなり,リハビリテーション看護の拡がりを感じております.
 慢性疾患のある患者,リハビリテーション過程にある患者などにおいては,セルフケアの確立や自己管理・自己決定ということが大切な目標として掲げられます.リハビリテーション看護に携わる看護師にとっては,患者の自己決定権の尊重や自立支援といったことは自明の理であることと思いますが,看護師が患者の自立を支援し,自己決定を支えるとはどのようなことか,患者のセルフケア確立をサポートする看護のかかわりの重要性やその役割を今一度捉え直そうと,本号では,「リハビリテーション看護とセルフケア」と題して,「セルフケアと自己決定」をテーマとして取りあげることにいたしました.
 「1.リハビリテーション看護におけるセルフケアの考え方と活用」では,セルフケア概念の歴史的変遷をふまえつつ,リハビリテーション看護におけるセルフケアとは何かを考えます.「セルフケア」と一口に言われますが,どのような概念のもと,看護師はどのようにアセスメントできるのでしょうか.さらに,看護師が患者の自立を支援する教育的なかかわりとは?自己決定する力はいかにして起こるのかといったことについて,行動理論も交えて展開しています.
 「2.リハビリテーション看護実践研究」では,「自己決定を支える看護実践」として,患者のセルフケア・自己決定を看護師はどのように支えることができるのか,その取り組みの実際を紹介します.日常生活動作の自立に向けてやる気を継続させるためのサポートとは何か,そのためのケア計画はどのようなものかについて,急性期から在宅へ向けてのさまざまな段階における実践から,多くの示唆を得られることと思います.
 患者の主体性を支える中では,看護師は多くのジレンマに直面すると言われます.その一方で,否定的感情を持ちながら自己決定せざるを得ない患者も社会の中で多くのジレンマを抱えています.第4号に続く「コンサルテーション・リエゾン精神看護の実践」は,ケア提供者およびそのシステムと患者・家族との関係を解決する方法を考えるうえで,1つの参考になると考えます.
 患者と家族の主体性を重んじたかかわりは,リハビリテーション看護師のみならず,さまざまな場で働くすべての医療者にこれまで以上に期待されています.医療者は,「その人らしさ」の基本となる「自己決定」を尊重する態度を伝えられているか,常に振り返ってみる必要があるでしょう.本書がそのきっかけの1つとなれば幸いです.
 2002年8月 編者
1 リハビリテーション看護におけるセルフケアの考え方と活用
 1 セルフケアとは何か(奥宮暁子)
   はじめに/ セルフケアの概念(定義)/ セルフケアの歴史/ 看護におけるセルフケア/ リハビリテーション看護におけるセルフケア
 2 セルフケア能力の構成要素とアセスメント(本庄恵子)
   セルフケアとセルフケア能力/ セルフケア能力の定義と構成要素/ セルフケア能力の測定/ セルフケア能力のアセスメント
 3 自立を支援する教育的かかわりの方法(下村裕子)
   はじめに/ やる気はいかにして起こるのか/ 教育的アプローチのための学習理論/ 教育的アプローチの方法/ おわりに
 4 セルフケア実践のプロセスと看護(石鍋圭子)
   はじめに/ 自己決定を促すケアの必要性/ セルフケア実践のプロセス/ セルフケア行動を促す看護/ おわりに

2 リハビリテーション看護実践研究―スペシャリストのための理論と実践「自己決定を支える看護実践」
 1 セルフケアに関する国内外の文献の動向と傾向(藤田あけみ・大関浩美)
  1 国内のセルフケアに関する文献検索
   はじめに/ 文献の動向と傾向/ 文献の概観/ 今後の課題
  2 国外のセルフケアに関する文献検索
   はじめに/ 欧米諸国の疾病構造の変化とセルフケアへの焦点/ 文献の概観
 2 社会受容とは何か ―自己決定を支えるものとして(南雲直二)
   自己決定を支える3つの前提/ 社会受容と自己決定/ リハビリテーション看護とのかかわり―まとめにかえて―
 3 セルフケアを促す援助の基本とは―主体性の尊重とジレンマからみえたこと(石川県済生会金沢病院)(宇野親子)
   はじめに/ 患者のセルフケアを確立していくときの問題/ あらためて,セルフケアを促す援助について
 4 早期離床・主体性の回復につなげる急性期のケア(杏林大学医学部付属病院高度救命救急センター)(佐藤道代)
   はじめに/ 早期リハビリテーションでの留意点/ 疾患別リハビリテーション/ まとめ
 5 日常生活動作の自立に向けたケア計画(兵庫県立総合リハビリテーションセンターリハビリテーション中央病院)(岡崎孝子・松野征美子)
   はじめに/ 入院時―出会った瞬間リハビリテーション看護は始まる/ ADLの拡大および自立への援助―患者が自分のことに,希望を持てるように働きかける/ 社会復帰に向けて―患者がどのような生活を望んでいるのかを探る/ おわりに―患者の可能性を信じ,共に歩める看護
 6 障害受容をサポートする-生活の再構築決定にかかわる患者・家族への援助(秋田県立リハビリテーション・精神医療センター)(照井和子・中谷弓子・佐々木典子)
   はじめに/ 回復期にある患者の障害受容に関する看護のポイント/ 回復期から維持期にある患者へのかかわり/ 事例紹介/ まとめ
 7 自己決定を支える看護実践―在宅での自己管理に向けて(NTT東日本伊豆病院)(諸伏悦子)
   はじめに/ 事例を通して考える自己決定を支えるかかわり/ 在宅自己管理に向けて/ おわりに

3 リハビリテーション看護の国内外の動き
 1 Practice of Psychiatric Consultation Liaison Nursing―Using a Systems Approach to Enhance Rehabilitation,Part 2-(Pamela A.Minarik,Karen M.Stanley/杉若裕子訳)
   PSYCHIATRIC CONSULTATION LIAISON NURSING/ PCLN SPECIALISTS: VERSATILE REHABILITATION TEAM MEMBERS/ ENHANCING REHABILITATION NURSING ROLES AND FUNCTIONS/ SUMMARY

トピックス
 アメリカのリハビリテーション看護関係の文献紹介(奥宮暁子,石川ふみよ,藤原正恵,川波公香)