やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 現代医療は多様な職種との協働を抜きにしては成り立たなくなっており,チームアプローチは保健医療福祉全般において必要になっています.しかし,チームアプローチがリハビリテーション領域において主要課題とされてきたことは間違いなく,看護においては「他職種との連携」として重要視されています.リハビリテーション医療の場では,その人の人生の選択に関わる複雑な問題をチームでじっくりと話し合う必要があり,看護師はチーム活動の調整的役割を担っています.しかし,専門性第一,チームは二の次の専門職が多い状況では,チームとしてその患者の目標を共有し,問題を一緒に解決していこうとする協働の発想はなかなか生まれません.
 一方,多職種による会議で看護職者の影響力を高めるにはチームワークを意識的に推進するための教育的支援が必要です.病棟看護師は,看護チームの一員として24時間ケアを継続することが求められます.そのため,患者ケアに関する意思決定においては集団の規制が強く,個々の看護師の責任が不明確になりがちです.看護職はまず,こうしたチーム内での立場と他職種との違いを認識する必要があります.それには,リハビリテーションチームの組織構造や専門職としての自律性について認識しておきたいと考えます.そこで,「リハビリテーション看護研究」第4号では,「リハビリテーション看護に活用するチームアプローチの理論と実際」を取りあげました.
 セラピストと同じく1人で患者を担当している訪問看護師は,ケアマネジャーとしてカンファレンスを招集するなど,ヘルスプロモーションの能力を発揮しています.また,病院と地域を継ぐ地域連携室では,新しいシステムを構築する過程で,チームの目的やメンバーの役割,連絡体制が明文化され,チームの協働意識も看護師の役割も明確です.これに対して,チームの意思決定が医師にのみ委ねられる階層的なチームでは連携に関わる問題が渾沌として存在しています.複雑な病院システム内でのチームアプローチに関しては,「リハビリテーション看護の国内外の動き」に掲載した「コンサルテーション・リエゾン精神看護の実践」がひとつの手がかりになると考えます.
 「リハビリテーション看護実践研究」では,「リハビリテーション看護に必要な全身管理の知識と実践への活用」を取り上げました.患者の自立支援はリハビリテーション看護において大切な目標です.再発予防など日常的なケアの中で看護師が行っている,“患者が自分で自分の健康を管理できるようにするための看護”を考えてみたいと思います.また,生活を活性化することを目標にするリハビリテーション看護では,活動による身体機能への影響を十分に理解して看護しなければなりません.とくに,呼吸器疾患や循環器疾患をもつ人のリハビリテーション過程では,看護師の細心の観察が欠かせません.本書がリハビリテーション領域の看護師にとって必要な知識を提供し,患者へのアプローチの指針となることを願っています.
 2002年4月 編者
1 リハビリテーション看護に活用するチームアプローチの理論と実際
  1.多職種チームとは何か(菊地和則)
  はじめに/ 多職種チーム研究の視点/ 多職種チームの構造/ 多職種チームの機能/ 多職種チームの統合モデル
  2.回復期リハビリテーション病棟における連携上の問題(吉野壽子)
  はじめに/ 回復期リハビリテーション病棟でのチームアプローチ/ 具体例にみる連携上の問題/ 連携をスムーズにするための方策
  3.地域リハビリテーションにおけるリハビリテーション看護実践(深沢啓子)
  はじめに/ リハビリテーションセンターでの連携のシステム/ 入院から退院までの流れ/ まとめ
  4.訪問看護師の立場から病院看護師へ望むこと(富田晶子)
  はじめに/ 訪問看護師の役割/ 在宅ケアの目標と施設内看護との相違/ 在宅へスムーズにつなぐために/ おわりに
2 リハビリテーション看護 実践研究――スペシャリストのための理論と実践
「リハビリテーション看護に必要な全身管理の知識と実践への活用」
 I 健康の自己管理
  1.健康の自己管理に関する文献と研究の動向と課題(山元由美子)
  「健康の自己管理」とは/ 文献の動向/ 「健康の自己管理」に関する文献の主要なテーマと内容/ 今後の課題
  2.脳血管障害患者の再発予防の看護(富山県高志リハビリテーション病院)(広瀬由香里・酒井昌子)
  はじめに/ 富山県高志リハビリテーション病院での取り組み/看護の実際/ おわりに
  3.脊髄損傷患者の自己管理─褥瘡予防,尿路管理を例に─(国立療養所村山病院)(近藤才子・佐藤広美)
  はじめに/ 脊髄損傷患者の褥瘡予防,尿路管理/ 看護の実際/ 結果と考察/ おわりに
  4.リウマチ患者の生活指導─フットケアに焦点をあてて─(中伊豆温泉病院)(磯 純子・松田百合子)
  RA患者の療養生活とセルフケアのための早期患者教育の必要性/ RA患者のフットケアの実際/ トータルケアとしての患者教育の実際/ 手術とリハビリテーション/ おわりに
 II リハビリテーション過程で生じるアクシデントとその管理
  1.運動負荷による全身状態への影響に関する研究の動向(山本恵子)
  リハビリテーション過程で生じるアクシデントの実態/ 運動負荷による全身状態への影響/ 全身状態の評価と影響に関する文献紹介/ これからの課題
  2.呼吸器疾患術後のリハビリテーション過程での反応と運動負荷による呼吸への影響(竹ノ内路子)
  はじめに/ 呼吸器疾患手術患者の精神状態と呼吸リハビリテーションの関係/ 術後合併症を起こすリスクの評価/ 運動負荷による呼吸器系への影響/ おわりに
  3.運動負荷による循環への影響(成田伊紀)
  リハビリテーションと循環との関係/ 循環器疾患と運動
  4.脊髄損傷者に起こりやすい血管運動神経調節機能障害の問題(神奈川リハビリテーション病院)(宮内康子)
  脊髄損傷者に起こりやすい血管運動神経調節機能障害の問題とは/ 起立性低血圧の予防/事例紹介―起立性低血圧予防に視点をあてて/ まとめ
  5.リハビリテーション過程でみられる活動不耐・易疲労性への対処(東京都立大塚病院)(松下恵利子)
  はじめに/ リハビリテーション過程における活動不耐・易疲労性の問題/ 活動耐性低下・易疲労性の評価と看護介入/ 事例紹介/ まとめ
  6.温泉療法とリハビリテーションケアからみたしびれと痛みの強い患者へのアプローチ(群馬県医師会温泉研究所附属沢渡病院)(島田節子・荒木栄子)
  群馬県医師会温泉研究所附属沢渡病院の概要と特徴/ 温泉の作用/ 温泉療法について/ 事例紹介/ 疼痛に対して可能と考えられる看護アプローチ/ まとめ
3 リハビリテーション看護の国内外の動き
  1.Practice of Psychiatric Consultation Liaison Nursing─Using a Systems Approach to Enhance Rehabilitation,Part 1─(Pamela A.Minarik,Karen M.Stanley)
  Why is a systems approach and the practice of psychiatric liaison nursing important to rehabilitation?/ What is systems thinking and a systems approach?/ Summary
  トピックス デンマークの看護事情(丹下幸子)