やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 この本の目的は,正常な運動と神経学的障害の結果生じる運動障害について解説することである.特に,一般的に認められている病的異常性の分析と適切な治療手技の決定に力点をおいている.
 問題解決能力は,理学療法を実施するうえで不可欠な要素として述べられてきている(Newman Henry 1985).“問題解決”とは,多様な障害をもった患者,特に神経学的機能障害をもつ患者の管理と治療に関してよく使われる用語である.神経学的障害のある患者は認知や感覚障害に加え,複雑で広範な運動障害を呈する.これらの障害の分析と最も適切な治療方法の決定は,この領域で仕事をするスタッフの共通の目的である.
 問題解決には,患者の問題を明らかにし適切な治療手段を提供する理学療法士と,代償的手段を通して運動障害に適応することを学習する患者自身との,両者の関係が考慮に入れられる.前者については,“クリニカル・リーズニングclinical reasoning“とか“プロブレム・ソルビングproblem solving:問題解決”という用語で記述され,しばしば同義語として使われる(Higgs 1992).患者自身が問題解決者であるという概念は,たぶん十分に認められてはいない.
 問題解決者としての理学療法士は,障害に関係していると思われるすべての機能障害を考慮に入れるために,正確で広範な運動に関する知識に依存している.神経学的障害を受ける前と同じ方法で機能できない患者は,自分の障害に合った最も効果的な方法を決定しなければならない.両者にとって機能は最高の目的であるが,目的を獲得するための手段はいろいろな問題を提起する.
 現在の臨床環境は,療法士に各治療手技の利点と欠点を見極める判断を要求する(Shewchuk & Francis 1988).運動の質は,最適な機能の獲得には絶対必要なものであるが,正常運動の回復は,神経学的障害をもった大半の患者にとって,獲得できないゴールであることがしばしばあるということを認めなければならない.より正常な運動パターンの再教育と必要でかつ望ましい代償の受け入れ,さらにいえば代償の奨励との釣り合いが存在するに違いない.したがって,患者自身が意志決定過程(decision-making process)に含まれなければならない.「本質的に,患者は,複雑な問題を解決するうえで,大変力強い彼ら自身の,独自性という博士号(PhD)をもっている(Weed & Zimny 1989)」といえる.
 Susan Edwards
Foreword
監訳者の序

はじめに

第1章 神経学的障害の治療に対する理学療法アプローチ…歴史的概観
 1.はじめに
 2.治療的アプローチ
   1)Rood
   2)固有感覚性神経筋促通法:PNF
   3)Brunnstrom
   4)Bobath
   5)運動再学習プログラム
   6)伝導教育
   7)Affolter
   8)感覚統合
   9)ヒューマンサンドウィッチ
   10)Johnstone
   11)教育プログラム
 3.考察

第2章 治療技術の向上の基礎となる正常動作の解析
 1.はじめに
 2.正常運動の特徴
   1)正常の姿勢緊張
   2)相反神経支配
   3)知覚-運動のフィードバック,フィードフォワード
   4)バランス:平衡,立ち直り,防御反応
   5)筋の生体工学
 3.正常動作の特徴
   1)身体各部の回転
   2)postural sets
   3)制御のキーポイント
   4)中心線-体幹軸
 4.特殊な体位の解析
   1)仰臥位
   2)腹臥位
   3)側臥位
   4)座位
 5.連続動作の連続性(動作シークエンス)の解析
   1)仰臥位から座位への動作
   2)座位から立位への動作
   3)歩行
   4)上肢機能
 6.結論

第3章 神経心理学的問題と解決策
 1.全般的知的機能
   1)全般的知的機能障害に対する神経心理学的検査
   2)全般的知的機能障害に関する臨床観察
   3)全般的知的機能障害のある患者に対する治療戦略
 2.記憶
   1)記憶に関する神経心理学的検査
   2)記憶障害についての臨床的観察
   3)記憶障害のある患者に対する治療戦略
 3.注意力
   1)注意力に関する神経心理学的検査
   2)注意力障害に関する臨床的観察
   3)注意力障害のある患者に対する治療戦略
 4.言語機能
   1)言語に関する神経心理学的検査
   2)言語機能障害に関する臨床的観察
   3)言語機能障害のある患者に対する治療戦略
 5.視覚的認知能力
   1)視覚的認知能力に対する神経心理学的検査
   2)視覚的認知障害の臨床的観察
   3)視覚的認知障害のある患者に対する治療戦略
 6.空間認識
   1)空間認識に対する神経心理学的検査
   2)空間認識患者の臨床的観察
   3)空間認知障害のある患者に対する治療戦略
 7.処理能力
   1)処理能力に対する神経心理学的検査
   2)処理能力障害の臨床観察
   3)処理能力障害患者に対する治療戦略
 8.洞察力
   1)洞察力に関する神経心理学的検査
   2)洞察力に関する臨床的観察
   3)洞察力低下のある患者に対する治療戦略
 9.感情障害
   1)感情障害に対する神経心理学的検査
   2)感情障害に関する臨床的観察
   3)感情障害のある患者に対する治療戦略
 10.結論
   1)神経心理学的検査
   2)臨床的観察
   3)治療戦略

第4章 神経疾患による機能障害に伴う異常な筋緊張と運動:治療のための考察
 1.はじめに
 2.痙縮
   1)理学療法の目的
   2)痙縮のある患者にみられる特徴的な病的活動
 3.固縮
   1)パーキンソニズムの臨床像提示
 4.ジストニア
   1)臨床症状
   2)治療
 5.コレアとアテトーゼ
   1)臨床徴候
   2)コミュニケーションと摂食に関連する問題
   3)肢位や動きにより引き起こされる問題
 6.失調症
   1)感覚性失調症
   2)前庭性失調症
   3)小脳性失調
   4)臨床的特徴
 7.要約

第5章 治療の一般原理
呼吸機能障害の治療と管理
 1.急性期脳障害
   1)頭蓋内圧,脳灌流,脳血流
   2)脳血管に影響する要因
   3)脳外傷による肺への影響
 2.呼吸筋機能障害
 3.理学療法の介入
 4.要約
神経障害のマネージメント
 1.基本理論
 2.ポジショニング
   1)ベッド上におけるポジショニングの基本
   2)座位でのポジショニングの基本
   3)立位姿勢の基本
 3.動作
   1)口顔部の動き
   2)肩甲帯と上肢
 4.要約

第6章 病歴
 1.はじめに
 2.後頭窩部の診査および斜台部髄膜腫摘出後の右片麻痺患者
 3.T12〜L2レベルの不完全な脊髄障害を呈した患者
 4.頭部外傷を受症した患者
 5.多発性硬化症の患者
 6.議論

第7章 姿勢の管理と特殊なシーティング
 1.はじめに
 2.姿勢
   1)エネルギーを浪費しないための戦略
   2)運動の必要条件である姿勢
   3)姿勢調節の学習
   4)不適切な姿勢
   5)姿勢障害症例に対し最大のパフォーマンス獲得のため用いられた戦略
   6)“悪い”姿勢から生じる合併症
   7)姿勢能力の測定
 3.座位姿勢のバイオメカニクス
   1)構造
   2)支持性に影響する因子
   3)偏位に影響を与えやすい主要な部位
 4.評価
   1)目的
   2)必要な情報
   3)評価の基準
   4)評価の順序
 5.安定した姿勢をつくる
   1)姿勢制御の特定の目的
   2)安定した姿勢のための着実なアプローチ
   3)重度の症例で必要とされる多くの支持の決定
 6.特別な問題解決
 7.解決の技術
   1)支持と運動の自由
   2)足部の支持
   3)支持と可動性
   4)患者と介助者の希望
   5)美学と効果
   6)処方の実施を助けるチェックリスト
   7)反対の戦略
 8.結語

第8章 神経障害者管理における副子などの活用
 1.はじめに
 2.物理法則
   1)力
   2)臨床応用
 3.装具の分類
下肢装具
 1.足底板
 2.短下肢装具
   1)短下肢装具
   2)継手付短下肢装具
   3)支柱付靴型短下肢装具
   4)前方支持型短下肢装具
   5)足関節背屈バンド
 3.長下肢装具
 4.下腿キャスト
   1)プロピレン製下腿キャスト
   2)痙縮残存患者に対する下肢キャスト
   3)足関節足部連続キャスト
   4)下肢伸展保持バックスラブ
   5)膝関節屈曲変形矯正キャスト
   6)ドロップアウトキャスト
上肢装具
 1.肩サポート
   1)カラーとカフ
   2)カフサポート
   3)外転ロール,楔
   4)枕やトレーテーブルを使うサポート
 2.肘キャスト
   1)連続キャストとドロップアウトキャスト
   2)バックスラブ
 3.手関節と手
   1)手関節と手の痙縮に対するスプリント(副子)
   2)弛緩性手関節と手に対するスプリント
 4.要約

第9章 能力障害が残存または進行している症例の長期管理
 1.はじめに
 2.非進行性の機能・形態障害
   1)持続性植物状態(PVS)
   2)成人した脳性麻痺
 3.進行性の神経学的および神経筋疾患
   1)多発性硬化症(MS)
   2)遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN)
 4.考察

文献
索引