やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第7版の序
 2004年5月に第6版を発行し1年であるが,今回も必要に応じて補足,修正を行った.
 まず,A:消化管吸収「金属錯体(キレートなど)・吸着」に起因する相互作用を,より詳細に書き改めた.つまり,「p.34図7-1金属アニオンと錯体を形成しやすい薬剤の構造式」,「p.33表2-1金属錯体(キレートなど)形成による併用慎重例」,「p.46表2-3吸着による併用慎重例」を新たに作成した.金属含有品のみならずミネラルウォーター,飲食物などにも言及すると同時に,特にキノロン系では金属の影響が“1)大きい,2)中程度,3)小さい,4)まったくない”ものに分類して,金属カチオンとの動態学的変化をp.42表2-2に示し,さらには━《注意》━として「Al脳症・骨症」「Znと薬剤性味覚障害」についての解説も加えた.近年は,金属含有の健康食品などを服用している患者が多く,金属と相互作用を引き起こす薬剤について,本書を利用し完璧に把握していただきたい.
 相互作用では,新薬である塩酸バルデナフィル(レビトラ;PDE5阻害剤),硫酸アタザナビル(レイアタッツ;HIVプロテアーゼ阻害剤)を追加した.塩酸バルデナフィルは,薬動態学的(CYP3A4阻害作用)にも薬力学的(QT延長および血管拡張作用)にも相互作用が多く,投与患者にも制限があり,その使用には注意を要する.また,硫酸アタザナビルでは,イリノテカン(カンプト;活性代謝物はSN-38;抗悪性腫瘍剤)との併用禁忌の原因が,UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)のアイソザイムであるUGT1A1阻害に起因することが示されたのに基づき,新たに「p.182表56-2ヒトのUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)の分子種と主な基質」などを設けて解説を加えている.
 その他の相互作用では,「マレイン酸フルボキサミン(デプロメール,ルボックス)と塩酸チザニジン(テルネリン;α2刺激;筋弛緩剤)との併用;禁忌」,「ケトライド系(テリスロマイシン〈ケテック〉)と主にCYP3A4で代謝されるスタチン系(シンバスタチン〈リポバス〉,アトルバスタチン〈リピトール〉)との併用;原則禁忌」,また「抗菌剤とサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)との併用」,「マクロライド系とコルヒチンとの併用」,「少なくとも7種類のCYP450分子種で代謝されるテルビナフィン(ラミシール;抗真菌剤)による特異的CYP2D6阻害」,「レフルノミド(アラバ;抗リウマチ剤)の活性代謝物(A771726)による特異的CYP2C9阻害」,「アルコールとアセトアミノフェンとの併用(肝障害誘発)」などを加えて解説し,必要に応じて関連事項についても補足した.
 一方,トランスポーターについては,基質になる薬剤の追加(p.97表18-2,「付D」p.298表F)を行い,「p.68表9-2P-gpの基質で,なおかつMRP,UGTの基質になる薬剤」,「p.88表16-3肝P-gp競合に起因する相互作用」を新たに作成し整理してみた.また,臨床・基礎に役立つ知識として「胆汁酸は脂肪の消化・吸収に不可欠」,「プロバイオティクス(Probiotics),腸内細菌とアレルギー」,「14員環マクロライド系の様々な作用」,「飲酒後および断酒後の肝CYP2E1の誘導および減衰」などの解説も行った.さらに「ケトライド系(テリスロマイシン〈ケテック〉)による意識消失」,「メトトレキサート(リウマトレックス)による死亡例」,「COX2阻害剤による心筋梗塞」などについても補足している.
 上記以外にも,CYP450の基質になる薬剤の追記(p.112表26-1,p.114表26-2),また販売中止の薬剤の商品名削除や多少の追加修正も行っているが,相互作用の発現機序についての解説,考え方は初版から一貫して同じであり,本書が最新の情報を兼ね備えた「相互作用を勉強するための必携書・実践書」として愛読されるよう最善の努力を行ったつもりである.本書について読者の方々からのご意見・ご感想があれば,引き続き著者の薬局(e-mail: sgym-ph@soleil.ocn.jp)までご連絡いただければ幸いである.
 最後に,今回の改訂にご協力いただいた藤沢薬品工業(株)物性研究所・出口収平氏,(株)アステム医薬情報室・二宮ルミ氏,(有)杉山薬局・落合寿史氏,後藤洋子氏にお礼を申し上げ,改訂版序の言葉としたい.
 2005年5月
 杉山正康
 ・本書の構成,内容について
  ・参考図書・文献
  ・本書の構成と使い方
  ・欧文略号
  ・医薬品名・構造式

序章 薬物相互作用とは
 1.相互作用の発現機序
 2.相互作用に注意すべき薬剤
 3.処方箋を受け付けた際の相互作用の考え方と医師・患者への対処
  1)最初に処方箋を受け付けたとき
  2)患者への投薬
 4.発現機序別の併用禁忌(同時服用禁忌も含める)・原則禁忌のまとめ

第1章 薬動態学的相互作用
 A:消化管吸収
  1.物理化学的変化
   1)金属との錯体(キレートなど)形成
   2)吸着
   3)結合(イオン交換,酸塩基結合など)
  2.抗菌剤による腸内細菌叢の変化
  3.消化管運動の変化
   1)難溶性薬剤の溶解
   2)胃排泄時間と初回通過効果
   3)薬剤の分解
  4.消化管内のpH変化
   1)胃内での溶解性の変化
   2)解離度の変化
   3)酸による分解,析出,苦味
   4)製剤特質の変化
  5.トランスポーター
   1)P糖タンパク質(P-gp)
   2)アミノ酸トランスポーター
   3)PEPT1
   4)OATPs
  6.その他
 B:分布
  1.血漿タンパク結合
  2.血液組織関門
   1)血液脳関門(BBB)
   2)肝分布(OATP2)
   《注意》肝P-gpの競合(胆汁排泄)に起因する相互作用
 C:腎排泄
  1.NSAIDによる腎血流量の低下(糸球体濾過低下)
  2.トランスポーターの阻害・競合(作用増強)
   1)近位尿細管での分泌阻害・競合(作用増強)
   2)その他のトランスポーター
  3.尿酸の再吸収,分泌の変化
  4.近位尿細管でのリチウム(Li),抗菌剤の再吸収
  5.尿pHの変化
  6.その他
 D:代謝
  1.肝チトクロームP450(CYP450)酵素関係
   1)肝チトクロームP450酵素阻害が関与する相互作用
   2)肝チトクロームP450酵素誘導が関与する相互作用
   3)二相効果
  2.チトクロームP450酵素以外での代謝に関係する相互作用
   1)ウラシル脱水素酵素(ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ〈DPD〉)
   2)キサンチンオキシダーゼ(XOD)
   3)アルコール代謝酵素系
   4)抱合
   5)モノアミンオキシダーゼ(MAO)
   6)コリンエステラーゼ
   7)チオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)

第2章 薬力学的相互作用──協力および拮抗作用──
 A:薬の作用に起因する相互作用
  1.中枢神経抑制および興奮
  2.末梢神経系
   1)交感神経系
   2)副交感神経系(抗コリン剤,コリン剤),運動神経遮断剤,神経節遮断剤
  3.MAO阻害
  4.ヒスタミン
  5.心機能促進および抑制,QT延長
  6.血管拡張および収縮
   ●トピックス 誤嚥性肺炎の予防にACE阻害剤が効果的である?
  7.血液凝固抑制および促進
  8.血糖低下および上昇
   ●トピックス 抗精神病薬と糖尿病
   《参考》
    1)糖尿病性合併症
    2)糖代謝
    3)甲状腺ホルモン
 B:薬の副作用に起因する相互作用
  1.痙攣,パーキンソン病
   1)痙攣
   2)パーキンソン病(脳内ドパミン低下)
  2.低K・高K血症
  3.血液障害
  4.NSAIDによる副作用
   1)消化性潰瘍
   2)腎血流量低下
   3)アスピリン喘息
   4)スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS;皮膚粘膜眼症候群),ライエル症候群(TEN;中毒表皮壊死症)
   5)ライ症候群
   6)不妊症,心筋梗塞
   7)その他
    ●トピックス COX3発見
    ●トピックス NSAIDが大腸癌の予防薬として有効か?
  5.その他の副作用
   1)横紋筋融解症
   2)内耳神経(第八脳神経)障害および腎障害
   3)光線過敏症
   4)間質性肺炎
  6.その他の併用禁忌

 A:5-HT(セロトニン)
  1.うつ病,精神分裂病(統合失調症)
  2.末梢循環不全
  3.催吐作用
  4.消化管運動賦活
  5.片頭痛
 B:PDE(ホスホジエステラーゼ)
  1.血管系(血管平滑筋・内皮,血小板)
  2.心筋
  3.気管支平滑筋,炎症細胞
  4.海綿体平滑筋
 C:飲食物・嗜好品(20品目)と薬の相互作用
 D:薬物トランスポーター(薬物輸送系)
  1.ABCトランスポーター(ABCB,ABCC)
  2.有機イオントランスポーター
  3.ペプチドトランスポーター

・薬剤名索引
・一般索引