はじめに
寝たきり・痴呆は都市生活の「生活習慣障害」
「介護予防」は一見簡単なようでいて,実際に働きかけてみるとその根の深さに驚かされる.閉じこもりが原因だと知ってその解消をはかろうとしたとき,その人の閉じこもりがちな生活スタイルに突き当たる.
かつての成人病はいまでは「生活習慣病」と呼ばれているが,同様に寝たきり・痴呆も「生活習慣障害」と呼んだほうがよさそうである.そうであれば「介護予防」は,生活習慣(ライフスタイル)の変更を必要とすることになる.
ライフスタイルは,個々人の歴史(人生)を縦軸とし,社会特に地域を横軸とする,時間と空間のなかで編み出されてくる.いまの私やあなたの行動,生活・ライフスタイルは,長い人生のなかで家族,学校,職場,友人,地域の人びととの,感情や価値観,モラルの交換や共有の結果が生んだものだといえる.かつてある哲人は“地域は個人にとって体の一部”といった.同様に家族も友人も,要は個人を取り巻くすべての人や物は,体の一部としてその人のパーソナリティーをつくり上げ,行動やライフスタイルをつくり出している.つまりライフスタイルは,環境との関係とその歴史のなかから生まれてくる.
この環境の総体である現代社会は本質的に「都市社会」といってよい.私たちは大部分そこに生まれ,育ち,死んでいく.
都市生活の主要なキーワードの1つは「孤立」である.元来,自分らしく自由でありたい個人にとっては,孤立は他からの価値観やモラル・文化的圧力からの解放――――「自由の約束」を意味している.都市は孤立と自由を核とするライフスタイルを定着させる.高齢期の閉じこもりは都市型のライフスタイルそのものだといっていい.実際に,「介護予防」を目指し,その解消を助言しようとするとき,多くの例ではこれまでの人生そのものがすでに閉じこもりであることに気づかされる.
大なり小なりの孤立をもとに自由を享受してきた人びとにとっては,孤立・閉じこもりから自己を解放し,近隣の人びとと付き合い,新たな仲間づくりに踏み出すことは一大決心を必要とし,ある場合にはまるで自己のアイデンティティーの否定とさえ映りかねない.
また,都市における閉じこもり克服のむずかしさは,孤立が地域の隅々まで浸透し,文化として地域を支配していることにある.
孤立・閉じこもりからの脱出,地域での人と人とのふれあいには,当然のことに「相手」を必要とする.この相手となるべき人びともまた孤立をライフスタイルとしているために相互の関係をつくることは至難の技といわねばならない.実際に定年退職後の寂しさから友だちや仲間を求めようとしても,話し相手になってくれる人がいないと嘆く人が多い.
こうした互いの孤立化は,一方で閉じこもりとその結果としての寝たきり・痴呆を生むとともに,他方ではそうなったときの住民相互の手助けの機会を奪っていく.健康なときから隣人に関心がなければ,たとえ隣で寝たきりの人がいて何か手助けしたいと思ったとしても,その手がかりはいうまでもなく,言葉すらかけられないというのが現実である.
寝たきり・痴呆の発生自体も,さらにその後の住民相互の手助けも,要は「高齢者問題」と一括していわれるものの根底には都市の性格が横たわっている.私たちはこれを,コミュニティの崩壊,そのなかでの個人の孤立と表現することが多い.
そうであれば,ここでの「介護予防」や「住民相互の支援」というテーマには,コミュニティを場としてその再建をはかること,その一員として暮らしていくライフスタイルのつくり直しが求められているのだといえる.
その方法論は何か,どのような働きかけや機会と場の提供がもっともふさわしいのか,などが真摯に検討されなければならない.
2002年1月 日本医科大学教授 竹内孝仁
寝たきり・痴呆は都市生活の「生活習慣障害」
「介護予防」は一見簡単なようでいて,実際に働きかけてみるとその根の深さに驚かされる.閉じこもりが原因だと知ってその解消をはかろうとしたとき,その人の閉じこもりがちな生活スタイルに突き当たる.
かつての成人病はいまでは「生活習慣病」と呼ばれているが,同様に寝たきり・痴呆も「生活習慣障害」と呼んだほうがよさそうである.そうであれば「介護予防」は,生活習慣(ライフスタイル)の変更を必要とすることになる.
ライフスタイルは,個々人の歴史(人生)を縦軸とし,社会特に地域を横軸とする,時間と空間のなかで編み出されてくる.いまの私やあなたの行動,生活・ライフスタイルは,長い人生のなかで家族,学校,職場,友人,地域の人びととの,感情や価値観,モラルの交換や共有の結果が生んだものだといえる.かつてある哲人は“地域は個人にとって体の一部”といった.同様に家族も友人も,要は個人を取り巻くすべての人や物は,体の一部としてその人のパーソナリティーをつくり上げ,行動やライフスタイルをつくり出している.つまりライフスタイルは,環境との関係とその歴史のなかから生まれてくる.
この環境の総体である現代社会は本質的に「都市社会」といってよい.私たちは大部分そこに生まれ,育ち,死んでいく.
都市生活の主要なキーワードの1つは「孤立」である.元来,自分らしく自由でありたい個人にとっては,孤立は他からの価値観やモラル・文化的圧力からの解放――――「自由の約束」を意味している.都市は孤立と自由を核とするライフスタイルを定着させる.高齢期の閉じこもりは都市型のライフスタイルそのものだといっていい.実際に,「介護予防」を目指し,その解消を助言しようとするとき,多くの例ではこれまでの人生そのものがすでに閉じこもりであることに気づかされる.
大なり小なりの孤立をもとに自由を享受してきた人びとにとっては,孤立・閉じこもりから自己を解放し,近隣の人びとと付き合い,新たな仲間づくりに踏み出すことは一大決心を必要とし,ある場合にはまるで自己のアイデンティティーの否定とさえ映りかねない.
また,都市における閉じこもり克服のむずかしさは,孤立が地域の隅々まで浸透し,文化として地域を支配していることにある.
孤立・閉じこもりからの脱出,地域での人と人とのふれあいには,当然のことに「相手」を必要とする.この相手となるべき人びともまた孤立をライフスタイルとしているために相互の関係をつくることは至難の技といわねばならない.実際に定年退職後の寂しさから友だちや仲間を求めようとしても,話し相手になってくれる人がいないと嘆く人が多い.
こうした互いの孤立化は,一方で閉じこもりとその結果としての寝たきり・痴呆を生むとともに,他方ではそうなったときの住民相互の手助けの機会を奪っていく.健康なときから隣人に関心がなければ,たとえ隣で寝たきりの人がいて何か手助けしたいと思ったとしても,その手がかりはいうまでもなく,言葉すらかけられないというのが現実である.
寝たきり・痴呆の発生自体も,さらにその後の住民相互の手助けも,要は「高齢者問題」と一括していわれるものの根底には都市の性格が横たわっている.私たちはこれを,コミュニティの崩壊,そのなかでの個人の孤立と表現することが多い.
そうであれば,ここでの「介護予防」や「住民相互の支援」というテーマには,コミュニティを場としてその再建をはかること,その一員として暮らしていくライフスタイルのつくり直しが求められているのだといえる.
その方法論は何か,どのような働きかけや機会と場の提供がもっともふさわしいのか,などが真摯に検討されなければならない.
2002年1月 日本医科大学教授 竹内孝仁
はじめに 寝たきり・痴呆は都市生活の「生活習慣障害」 竹内孝仁……iii
基調講演 寝たきり・痴呆を防ぐ 竹内孝仁……1
■元気高齢者をつくろう――世田谷からの発信
世田谷区社会福祉協議会「ふれあい・いきいきサロン」 古閑 学……21
市民活動深沢地区「ねたきりゼロをめざすまちの会」 松岡政義……29
社会福祉法人「支えあいミニデイ」@在宅介護支援センターの取り組み 鍋田 浩……39
世田谷区社会福祉事業団「生涯青春芦花大学」 大野逸平……49
区民と共に歩む烏山ネットワーク「共に支え合ういきいきネット」 和智由里子……57
ディスカッションみんなで話そう「介護予防」 古閑 学・松岡政義・鍋田 浩・大野逸平・和智由里子 コーディネーター:上野谷加代子……67
■川崎方式の介護予防――介護保険10円事業の展開
わたしの町のすこやか活動支援事業の試み 佐々木元行……75
実践団体報告「野川セブン」 鈴木恵子……86
■介護予防――在宅介護支援センターのありかた
介護予防――在宅介護支援センターの現場から どこまでできるか「介護予防」――介護予防の拠点となる在宅介護支援センター 神崎浩之……99
介護予防――在宅介護支援センターへの期待 介護予防ケアマネジメント 國光登志子……110
■新しい介護予防の手法――フィットネスで元気高齢者づくり
地域・虚弱高齢者を対象とした包括的高齢者運動トレーニング(Comprehensive Geriatric Training,CGT)の効果 大渕修一……121
施設・要介護高齢者へのパワーリハ 岡持利亘……137
総合討議
新しい地域社会への挑戦――介護予防 その取り組みの展望と課題 竹内孝仁 vs上野谷加代子 司会:秋山由美子……151
おわりに 武田治恵……167
本別冊は,「平成13年度コミュニティケアマネジメント研究会IN世田谷」「世田谷区社会福祉協議会設立15周年記念」「世田谷郵便局かんぽ健康増進支援事業」として,世田谷区民会館ホールにて2001年6月23〜24日に開催されたものを再構成し編集している
基調講演 寝たきり・痴呆を防ぐ 竹内孝仁……1
■元気高齢者をつくろう――世田谷からの発信
世田谷区社会福祉協議会「ふれあい・いきいきサロン」 古閑 学……21
市民活動深沢地区「ねたきりゼロをめざすまちの会」 松岡政義……29
社会福祉法人「支えあいミニデイ」@在宅介護支援センターの取り組み 鍋田 浩……39
世田谷区社会福祉事業団「生涯青春芦花大学」 大野逸平……49
区民と共に歩む烏山ネットワーク「共に支え合ういきいきネット」 和智由里子……57
ディスカッションみんなで話そう「介護予防」 古閑 学・松岡政義・鍋田 浩・大野逸平・和智由里子 コーディネーター:上野谷加代子……67
■川崎方式の介護予防――介護保険10円事業の展開
わたしの町のすこやか活動支援事業の試み 佐々木元行……75
実践団体報告「野川セブン」 鈴木恵子……86
■介護予防――在宅介護支援センターのありかた
介護予防――在宅介護支援センターの現場から どこまでできるか「介護予防」――介護予防の拠点となる在宅介護支援センター 神崎浩之……99
介護予防――在宅介護支援センターへの期待 介護予防ケアマネジメント 國光登志子……110
■新しい介護予防の手法――フィットネスで元気高齢者づくり
地域・虚弱高齢者を対象とした包括的高齢者運動トレーニング(Comprehensive Geriatric Training,CGT)の効果 大渕修一……121
施設・要介護高齢者へのパワーリハ 岡持利亘……137
総合討議
新しい地域社会への挑戦――介護予防 その取り組みの展望と課題 竹内孝仁 vs上野谷加代子 司会:秋山由美子……151
おわりに 武田治恵……167
本別冊は,「平成13年度コミュニティケアマネジメント研究会IN世田谷」「世田谷区社会福祉協議会設立15周年記念」「世田谷郵便局かんぽ健康増進支援事業」として,世田谷区民会館ホールにて2001年6月23〜24日に開催されたものを再構成し編集している