やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 慢性腎臓病のため維持透析療法を必要とする患者数は,わが国では2022年現在,総数で30万人あまりとなっており,今や日本人の約400人に1人が透析療法を受けているという状況となっています.
 数多ある疾病の中で,腎不全ほど日々の飲食,つまり食事療法が直接生命にかかわってくる疾病はほかにあまりないでしょう.透析患者においては,まずは体内の水分量・電解質の恒常性破綻を防止して生命を維持することが重要です.そして,その一方で,身体に必要な栄養素を適正量摂取して健康寿命の伸延を目指すことが食事療法の目的となります.透析医療にかかわるスタッフは,患者が食事療法を継続できるように,適切な栄養管理と栄養指導を行い,透析生活を支えていく必要があります.それに欠かせない知識と技術を身につけるための一冊として,本書を企画しました.
 本書は,ガイドライン等のエビデンスを踏まえながら,ガイドラインだけでは得られないような,実際の栄養指導・管理の場で役に立つスキルを向上させるための手引書です.各項目とも,エッセンスである重要部分には下線(アンダーライン)が施されていますので,まずは本書の最初から最後まで,この下線部分だけを拾って通読することをおすすめします.本文全部を読むには時間が必要ですが,下線部分を通読するだけなら,それほど時間はかからないでしょう.多忙な業務の合間に下線部分を通読することができ,透析患者の食事療法全般に対する知識・見解を負担なく,簡単に確認することができるでしょう.そして,さらに詳細を求める読者は本文を熟読していただければと思います.欄外には専門的用語が簡明に解説されていますので,辞書代わりとして理解の助けとなるでしょう.
 本書の刊行にあたり,透析診療の第一線の諸先生方にご多忙の中ご執筆いただきました.原稿執筆を快くお引き受けくださった先生方に深謝いたします.また,本書の企画から刊行まで情熱を持って担当された医歯薬出版編集部の方々に敬意を表します.
 2022年7月 猛暑の到来した夏の日に
 編者を代表して 中尾俊之
 序文
基本的事項
 Q-1 末期腎不全での腎機能代替療法にはどのようなものがありますか? 方法により患者数に大きな違いがあるのはなぜですか?(中山侑泉)
 Q-2 透析患者での食事療法で留意すべき点は何ですか? それはなぜ重要なのでしょうか? しっかり透析するなら,なんでもたくさん食べてよいのでしょうか?(花房規男)
 Q-3 血清アルブミン濃度は,なぜ透析患者では栄養状態の指標になりにくいのでしょうか? 栄養状態を評価するうえでの適切な指標と基準を教えてください(松永智仁)
食事療法の各論
 Q-4 血液透析患者の透析間体重増加を抑制するには,どのような食事療法を行えばよいですか? それはなぜですか?(田尻瑛子・中島章雄・大城戸一郎)
 Q-5 透析患者の血清カリウム値に影響を与える因子は何ですか? 血清カリウム値が高くなくても,食事でカリウム制限が必要でしょうか?(中山昌明)
 Q-6 透析患者で血清リン値が高いとなぜいけないのでしょうか? 高リン患者への食事療法はどうすればよいでしょうか? 薬物療法との関係はどうですか?(笠井健司)
 Q-7 マグネシウムは健康上で重要な主要元素として最近注目されていますが,透析患者ではどうでしょうか? どのような注意を払う必要がありますか? それはなぜですか?(坂口悠介)
合併症・特殊病態
 Q-8 糖尿病透析患者への食事療法で重要な点は何ですか? それはなぜですか? 血糖コントロールでは薬物療法との関係はどうなっているのでしょうか?(清水 諭・阿部雅紀)
 Q-9 感染症と心血管障害は透析患者の生命予後に直接関係する主要な合併症ですが,予防のための食事療法はどうすればよいですか?(加藤明彦)
 Q-10 サルコペニア・フレイルを合併した透析患者への食事療法はどうすればよいでしょうか? それはなぜですか?(土屋毅亮・長岡由女・菅野義彦)
 Q-11 腹膜透析での食事療法は血液透析とどのような違いがありますか? なぜそのような違いが出るのでしょうか?(伊藤靖子)
 Q-12 透析患者では,どのようなビタミンが欠乏するリスクがあるでしょうか? それはなぜですか?(稲本 元・加藤 学)
 Q-13 透析患者では,どのような微量元素が欠乏するリスクがあるでしょうか? それはなぜですか? 食事療法で補えますか?(脇野 修)
食事指導の実践
 Q-14 透析患者の体重・血圧データや検査データから,食事摂取状況がどのように把握できるのでしょう? 食事指導へつなげる方法について教えてください(中尾俊之・金澤良枝)
 Q-15 透析間体重増加や採血データが悪いのに食事療法に関心の薄い患者がいます.なぜでしょうか? このような患者には,どのようなことからアプローチすればよいでしょうか?(菅野丈夫)
 Q-16 透析患者でのサルコペニアの診断はどのようにしたらよいでしょうか? 簡便でよいスクリーニング方法はありますか? また,測定での注意点を教えてください(金澤良枝・中尾俊之)
 Q-17 血液透析導入時に尿量が800〜1,000mLある患者の食塩・水分摂取量はどのように考えるとよいですか? 尿量が減少し透析間体重増加が多くなったときの食塩・水分摂取量はどのように考えるとよいですか?(大里寿江)
 Q-18 食塩を制限すると食欲が減退してしまうという患者がいます.なぜでしょうか? 食塩をコントロールしたうえで十分なエネルギーを摂取するには,どのような指導をするとよいでしょうか?(小林 恵)
 Q-19 透析間体重増加を気にして食事回数や米飯を減らしてしまう患者がいます.なぜいけないのでしょうか? どのように食事指導をすればよいでしょうか?(北島幸枝)
 Q-20 カリウムをコントロールするにはどのような食事指導をしたらよいですか? 血清カリウム値が通常は5.9mEq/L以下であっても,年に何回か6.5mEq/L以上となる患者がいます.なぜでしょうか? どのように食事指導すればよいですか?(瀬部真由・武政睦子)
 Q-21 リンをコントロールする食事指導について教えてください.無機リン,食品添加物の摂取はなぜいけないのでしょうか? どうしたらよいですか?(瀬部真由・武政睦子)
 Q-22 透析患者はアルコールを飲んでもよいのでしょうか? どのくらいの量なら許されるのでしょうか? 禁酒したほうがよいのはどのような患者でしょうか?(齋藤かしこ)
 Q-23 透析患者の外食・中食・配食ではどのようなことに注意すればよいでしょうか? 旅行や冠婚葬祭時の食事療法はどのようにすればよいでしょうか?(井上啓子)
 Q-24 透析患者の味覚と嗅覚の異常について教えてください.食事指導では,どのようなことに気をつけたらよいでしょうか?(城田直子)
 Q-25 透析患者が低栄養状態(PEW)に陥る原因はどのようなことでしょうか? PEWの予防はどうしたらよいのでしょうか? 十分に食べられないPEW患者に,どう指導したらよいのでしょうか?(金澤良枝・中尾俊之)
 Q-26 透析患者での経腸栄養の適応と注意点,具体的な方法,処方を教えてください.なぜ,その方法がよいのですか?(江崎真我)
 Q-27 災害時における血液透析患者,腹膜透析患者の食事管理方法を教えてください.透析が通常どおりできない場合,食事療法で乗り切ることはできませんか?(瀬戸由美)
 Q-28 高齢透析患者への介護保険制度でのサービスにはどのようなものがありますか? 地域包括ケアシステムの中で適切な食事療法を実施するにはどのようにしたらよいでしょうか?(瀬戸由美)
 Q-29 75歳以上の高齢者に対する生命予後を考えたうえでの透析量,透析方法,食事療法の具体的な方法を教えてください(酒井 謙)

 巻末資料
 索引