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まえがき
 最近の自然免疫の発見によって,獲得免疫だけで説明されていた免疫学の革命が起こった.今まで漠然としていた抗原の主体が腸内細菌であることが明らかになってきている.そして,免疫の多くが腸管で営まれており,腸内細菌とのクロストークにより恒常性が保たれていることや,そのクロストークの破綻により種々の疾患が発症したり,また,栄養は腸管から吸収されていることから,メタボリックシンドロームもある種の腸内細菌群によって引き起こされることが明らかにされてきている.さらに,性格形成にも腸内細菌が関与する,などという論文も発表されている.
 今回の特集では,「腸管と免疫・栄養」という大きなテーマを掲げ,「腸管の機能と免疫」「腸内細菌と疾患」「腸疾患と栄養療法」と3 部門に分けて,消化器疾患に限らず幅広く,その道のフロンティアで活躍している先生方にご執筆していただいた.最近の分子生物学の応用によって,腸内細菌の解析は新時代を迎えており,腸内細菌叢の見直しがされている.また,自然免疫の解明により,腸内細菌と腸管免疫の関係も新しい視点で解明されつつある.まさに,そのホットな部分を詳しく,わかりやすく書いていただいた.
 まだ,研究途上のものも多いが,今後の疾患の原因解明や治療法の開発に向けて大いに参考になると思っている.また,細菌学に興味のなかった読者の方々にも満足いただける内容になっていると確信している.
 2012 年5 月
 東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科
 大草敏史 Toshifumi Ohkusa
 まえがき(大草敏史)

1 腸管の機能と免疫
 腸上皮による粘膜防御機能(長谷耕二・小畑佑樹)
 腸内菌叢の成立(辨野義己)
 脳腸相関(須藤信行)
  トピックス 腸内細菌による腸上皮のメチル化(牛島俊和・丹羽 透)
 腸管自然免疫系と腸内細菌(八村敏志)
 腸管IgA産生と腸内細菌(鈴木敬一朗)
2 腸内細菌と疾患
 新生児壊死性腸炎(山城雄一郎)
 偽膜性腸炎・出血性腸炎(神谷 茂)
 感染性腸炎(黒田 誠)
 潰瘍性大腸炎・クローン病(大草敏史)
 過敏性腸症候群(IBS) (福土 審)
 肥満(園山 慶)
 動脈硬化(小田宗宏)
 ギラン・バレー症候群(桑原 聡)
 アレルギー疾患 (下条直樹)
 1 型糖尿病(佐藤淳子・綿田裕孝)
 多発性硬化症(三宅幸子)
 ALD,NASH(岩佐元雄・竹井謙之)
 NSAID小腸潰瘍(坂本長逸)
  トピックス 大腸癌と腸内細菌の新知見(小井戸薫雄・他)
3 腸疾患と栄養療法
 腸管出血性大腸菌に対するプロバイオティクス療法(伊藤喜久治・百瀬愛佳)
  トピックス 胆汁酸による腸内細菌叢の制御:高脂肪食による菌叢変化要因としての可能性(横田 篤)
 クローン病の成分栄養療法の再評価(安藤 朗・他)
 クローン病とn-3 系多価不飽和脂肪酸(食事療法)(内山 幹・他)
 潰瘍性大腸炎,クローン病のプロバイオティクス,プレバイオティクス,シンバイオティクス療法(加藤公敏)
 IBDに対して絶食療法は必要か(寺尾秀一)
 吸収不良症候群の栄養療法(渡辺知佳子・三浦総一郎)
 過敏性腸症候群(IBS)の栄養療法(鳥居 明)
 短腸症候群の栄養療法(田附裕子・窪田昭男)
  トピックス 全身性炎症反応症候群(SIRS)に対するプロバイオティクス療法の有効性(山田知輝・他)