やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 従来の内科疾患の「食事療法」は,栄養素の制限,あるいは追加であり,「成分」が重要視されてきた.しかし,摂食・嚥下障害の場合には,食形態(形状)が医学的な効果(機能)をもつという点で,食事(栄養)療法上の新しいパラダイムとなっている.
 嚥下を容易にし誤嚥を防止する食形態の調整は,肺炎・誤嚥・窒息を予防しつつ経口摂取を確保するという価値があり,また,適切な食形態で行われる直接訓練によって,嚥下パターン運動を再獲得するのがリハビリテーションの重要な手法である.今までむせていた人,あるいは食べられなかった人においしくて適した形態の食事を供すれば,食べることもでき,元気になることもできる,という点では,栄養剤・栄養食品による栄養治療よりも効果が目にみえるといえよう.
 欧米においては,嚥下障害への対応上,1970年代から食形態の調整の必要性が知られ,1980年代前半に相次いで刊行された代表的な教科書では,嚥下造影検査を造影剤の形態を調整して行うことや,複数段階の嚥下障害食例が示されている(J.S.Steefel,1981;J.A.Logemann,1983;M.E.Groher,1984).1990年代に入り,EBMを意識した研究が行われ,2002年,アメリカ栄養士協会はNational Dysphagia Dietを発表している.
 わが国においては,摂食・嚥下障害リハビリテーションを行うリハビリテーション病院などに端を発し,小児施設・高齢者施設,そして現時点では多くの一般病院において嚥下障害のための複数段階の形態調整食が普及している.制度面では,市販食品に関して1994年に旧厚生省が特別用途食品に嚥下困難者用食品を規定(2009年改定,現在は消費者庁所管),介護保険制度においても,段階的な食形態調整食を用意した場合には経口移行加算,経口維持加算が算定可能だが,医療費としての診療報酬上の特別食加算には認められるに至っていない.
 本特集では,現在のさまざまな施設での摂食・嚥下障害のチーム医療で管理栄養士の果たす役割,段階的に調整食を選択し摂取可能量に合わせて非経口栄養摂取手段と組み合わせる栄養マネジメントの取り組みを,第一線の,主に管理栄養士の方がたにまとめていただいた.今後のステップアップへの礎としたい.
 2011年9月
 国立国際医療研究センター病院リハビリテーション科
 藤谷順子 Fujitani,Junko
 まえがき
 座談会 摂食・嚥下障害―栄養ケアと管理栄養士の役割(藤谷順子,藤島一郎,大越ひろ)
Part1 嚥下食の物性,基準
 特別用途食品制度―とくにえん下困難者用食品の基準について(米倉礼子)
 新しいとろみ調製食品とその特徴(大越ひろ)
 嚥下困難者用食品の物性(栢下 淳,山縣誉志江)
 嚥下食形態調査-食形態対応表作成の試み(永津えり,他)
 嚥下食-最新の動向(黒田 誠)
Part2 摂食・嚥下障害-栄養ケアの実際
 リハビリテーション病院での取り組み(堀内 薫,藤井 航)
 介護老人福祉施設での嚥下調整食の取り組み(増田邦子)
 給食会社の嚥下食の取り組み(品川喜代美,井出静香)
 ユニバーサルデザインフードの現状(藤崎 享)
 市販品の使い方(工藤美香,田中弥生)
 摂食・嚥下障害とPEG:在宅患者の症例から―在宅療養者と環境因子(手塚波子,小川滋彦)
Part3 摂食・嚥下リハビリテーションと地域連携
 地域における摂食・嚥下リハビリテーションの実際(新田國夫)
 地域で展開する摂食・嚥下障害治療(福村直毅)
 嚥下調整食の病態別使い分け(大宿 茂)
 地域での取り組み―嚥下食ピラミッドに準じた食形態・名称統一(安原みずほ)
 熊本回生会病院における摂食・嚥下リハビリテーションチームの活動(川嵜 真)
 京滋摂食・嚥下を考える会の取り組み(小澤惠子)
Part4 摂食・嚥下障害に対するチームアプローチ
 病院における取り組み-川崎医科大学附属病院(太田弘子)
 病院における取り組み-国立がん研究センター中央病院(松原弘樹)
 嚥下障害者の退院時指導の実際(工藤美香)
 南河内嚥下勉強会と嚥下調整食共通化の試み(房 晴美)
 刻み食廃止へ-食事形態変更の取り組み(佐藤奈津子,他)
 在宅患者に対するアプローチ(江頭文江)-
 在宅患者に対するアプローチ-福岡クリニック(中村育子)
 在宅患者に対するアプローチ-新宿食支援研究会(安田淑子)

 トピックス
  超高齢者の栄養ケア(麻植有希子)
  バリアフリーレストランの取り組み(山川 治)
  ミールラウンドの進め方(桐谷裕美子)
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