やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
がんの栄養管理のUPDATE をめざして
 1984 年に『対がん10 か年総合戦略』,2007 年には『がん対策基本法』が施行され,研究から治療中の患者や家族の安心・満足にいたるまで,がん治療については広く検証されるようになりました.
 なかでもがん治療中の栄養管理に関してはそのとらえ方が大きく変わり,「がんになったら栄養や食事は無力」から,「がん治療を支える栄養療法や,患者・家族が満足できる栄養アプローチでQOL の向上が可能」と,まったく様変わりしてきました.
 がん治療は入院治療期間の短縮や外来治療の増加に加え,患者が自らの栄養管理を早期から行うようにもなるなど,医療スタッフからの支援方法や支援の場も変わってきています.患者個々人への対応が求められ,しかも,その内容は限界がなくなってきています.
 ところで,がんの栄養管理のあり方は完全に確立されているわけではなく,まだまだ発展途上にあり,最近になりこの分野に光が差しはじめたといってよいでしょう.これから,この分野に携わる研究者・臨床家・実務家が協力をして,がん予防はもちろんのこと,がんになってからの栄養管理のあり方,がんの状況によってどう栄養アプローチを変化させていくかなど,知見を積み重ねていく必要があります.そして,がんによる死亡率の大幅な減少,がん患者や家族が満足できる延命が望まれます.同時に,人間の生命に対しての栄養管理の限界も見つめなければなりません.
 今回は,がん治療それぞれの専門分野において著名な先生方に「がん治療・がんの栄養管理のいま」について御執筆いただくことができました.若輩者の私からの提案で,なおかつ急なご依頼にもかかわらず,快くご協力いただいた各先生方に心より感謝申し上げたいと思います.
 今回のUPDATE が,今後の研究の成果をもって書き換えられ,がんの栄養管理の指針となっていくことを願っております.
 2010 年8 月
 国立がん研究センター中央病院 栄養管理室長
 桑原節子 Kuwahara, Setsuko
 まえがき (桑原節子)

I がんの栄養代謝
 がん発生のメカニズムと治療の進歩 (野村和弘)
 がんの栄養代謝の特徴 (峯 真司・比企直樹)
II がん治療の現状と栄養療法
 外科治療最前線
  ●食道外科
   食道癌の現状と外科治療 (宮田 剛)
   食道術後の栄養障害と栄養補給法 (外村修一)
   食道術後の栄養サポートと指導の現状 (杉山真規子)
  ●胃外科
   胃癌の現状と外科治療 (飯島正平)
   胃術後の栄養障害と栄養補給法 (阪 眞)
   胃術後の栄養サポートと指導の現状 (井上聡美)
  ●大腸外科
   大腸癌の現状と外科治療 (幸田圭史)
   大腸術後の栄養障害と栄養補給法 (大柄貴寛・他)
   大腸術後の栄養サポートと指導の現状 (河野公子)
 化学療法最前線
  化学療法の進歩と治療効果〜薬理メカニズム (加藤裕久)
  造血幹細胞移植時の栄養管理の実際 (金 成元)
  化学療法による有害事象〜消化管毒性を中心に (後藤愛実・瀧内比呂也)
 消化管毒性を支える栄養管理
  (1)食欲不振・悪心・嘔吐 (稲野利美)
  (2)下痢・便秘 (木幡恵子)
  (3)口内炎 (石長孝二郎)
  (4)味覚異常 (内海繁敏)
 放射線治療最前線
  放射線治療のメカニズムと進歩 (大熊加惠・中川恵一)
  放射線治療副作用対策としての栄養療法の実際 (河内啓子)
 支持療法最前線
  口腔ケアの重要性と効果 (大田洋二郎)
  チーム医療で支えるがん治療〜摂食・嚥下 (鶴見田鶴子)
  経腸栄養剤の利用および最近の課題 (二村昭彦・他)
III 終末期の栄養管理
  終末期の栄養代謝の特徴 (田辺義明・矢永勝彦)
  終末期の栄養管理ガイドライン〜輸液ガイドライン解説を中心に (大原寛之・他)
  終末期の栄養管理の実際 (神山 薫)
IV 在宅医療と継続医療
  継続医療を支えるソーシャルワーカーの活動 (御牧由子)
  がん患者の心と栄養を支える料理教室 (落合由美・松丸 礼)
V がん予防のための知識
  疫学的評価はどこまで進んだか (津金昌一郎)
  補完代替医療と健康食品 (梅垣敬三)

 トピックス
  小児がん患者の夢をかなえる 夢に向かって一緒に走ろう メイク・ア・ウィッシュの活動 (大野寿子)
  なぜがん患者は減らないのか? 政策から考える (天野晃滋・他)