やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
肝臓の生活習慣病としてのNASHを知る
 愛媛大学大学院医学系研究科 先端病態制御内科学
 恩地森一
 日本には非アルコール性脂肪性肝疾患はおよそ1,000万人,うち約100万人が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とされ,B型,C型肝炎とともに,三大肝炎とされている.NASHは肝臓における生活習慣病の表現型であり,肥満や2型糖尿病の急激な増加と並行して増加している.肥満や2型糖尿病が10〜20歳代で急増しており,近い将来NASHの急激な増加が危惧されている.
 NASHは肝硬変へ進展するとともに肝細胞癌も併発する.2008年までの過去10年間の肝硬変の成因の全国調査を行ったところ,約2%がNASH関連肝硬変であったが,原因不明を加えると5%に達する可能性があった(恩地森一監修;肝硬変の成因別実態2008,中外医学社,2008).現時点では少ないが,調査は過去の症例であり,今後,肥満や2型糖尿病とともに急増することが予想されている.今回の全国調査でNASH関連肝硬変の31.5%に,経過中にも10.2%のNASH関連肝硬変に肝細胞癌を合併した.将来,NASHが肝硬変や肝細胞癌の大きな原因となることが危惧されている.
 現在,NASHの急増に備えて,早期診断法と治療法の開発が必要となり,その研究が進んでいる.たとえば,ALT(GPT)の異常値を男子で31IU/l,女子で21IU/lとすることや,血小板数が15万以下では肝硬変まで進行したNASHを疑う必要があることなどが報告されている.また,診断に関しては,肝線維化の血清診断や肝の硬度を測定するtransient elastographyなどが有望視されている.治療法は生活習慣の改善と栄養療法が主体であり,栄養専門医や病態を理解している病態栄養専門師などの管理栄養士の活躍が期待されている.
 本特集では,最新情報を含めてNASHに関する重要な事項をすべて理解していただけることを意図して企画した.この特集がNASH患者さんの日常診療や研究のお役に立つことを期待しています.
 まえがき:肝臓の生活習慣病としてのNASHを知る(恩地森一)
 カラー
  目でみるNASH/NAFLD(徳本良雄)
  NASH/NAFLDの画像診断(飯島尋子)
NASH/NAFLDの基礎知識
 NASH/NAFLDの概念(宮本英明・佐々木 裕)
 NASH/NAFLDの成因・発症メカニズム
  ・遺伝的素因(宮本敬子・他)
  ・ライフスタイル(食生活)(利光 久美子)
  ・栄養素異常(羽生大記・他)
  ・特殊型NASH(上田晃久・恩地森一)
 NASH/NAFLDの疫学(高木章乃夫・山本和秀)
  トピックス 免疫異常―自然免疫と獲得免疫(三宅映己・他)
NASH/NAFLDと関連疾患
 肥満(今城健人・他)
  トピックス 内臓脂肪と炎症(笹子敬洋・他)
 小児肥満(松下理恵・大関武彦)
 インスリン抵抗性(川口 巧・佐田通夫)
 脂質代謝異常症(是永匡紹 ・日野啓輔)
 高血圧・心血管イベント(植村正人・他)
  トピックス 線維化の成立機構と診断法(池嶋健一・他)
NASH/NAFLDの診断・治療
 診断法:血液・生化学的検査(大竹孝明・他)
 診断法:画像診断(飯島尋子・他)
 診断法:病理診断(小橋春彦)
 臨床経過I:通常型(伊藤純一・河田純男)
  トピックス NASH/NAFLDと酸化ストレス(大石俊之・他)
 臨床経過II:肝硬変(川合弘一・他)
  トピックス ウイルス肝炎とNAFLD(堤 武也・森屋恭爾)
 NAFLD/NASHと肝細胞癌(橋本悦子)
  トピックス NASHに対する除鉄と瀉血療法(藤田尚己・竹井謙之)
 栄養療法(松浦文三・恩地森一)
 運動療法・行動療法(中尾春壽・米田政志)
  トピックス NASH/NAFLDと地域連携(古川慎哉・恩地森一)
 NASHの薬物療法(澤井良之・今井康陽)
 外科的治療(渡部祐司)
NASH/NAFLD 症例編
 エネルギー過剰によるNASH(安井洋子)
  トピックス 飲酒とNAFLD(今村也寸志・他)
 偏った食生活を見直すことで脂肪肝が改善した症例(鈴木淑子・他)
 NASHによる肝硬変(永井祥子・利光久美子)
  トピックス NAFLD/NASHの予防・管理栄養における栄養ケアステーションの役割(大部正代)
 肝機能悪化も受診せず,健康食品や民間療法を行っていたNASH症例(岩田加壽子・他)