やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 「人間であるということは,自分には関係がないと思われるような不幸な出来事に対して忸怩(じくじ)たることだ.人間であるということは,自分の僚友が勝ち得た勝利を誇りとすることだ.人間であるということは,自分の石をそこに据えながら,世界の建設に荷担していると感じることだ…」(サン=テグジュペリ著,堀口大学訳『人間の土地』新潮文庫)
 この文脈をそのまま臨床栄養(栄養ケア)にあてはめる.患者さんの痛みを自分の痛みに感じ,ともに働く僚友,隣人ではあるものの自分では決してない他人(ひと)の勝利を自分のことに感じ心から誇りに思い,にこにこする.ただひたすらに,いま生きていることがうれしくて楽しくて,そのひとがいまの世界を創っている.
 臨床栄養は時代とともに生きている.その対象である疾患,病態は,いつもひとつところにとどまることはない.疾患の数も種類も時代の関数であり,新たな疾患の登場とともに,新たな栄養療法の創出が求められる.
 本増刊号は,そうした時代背景から新たに私たちの眼前に現れた,病態に対する臨床栄養をいかに創り出すか,私たちに求められている時代からの切実な要求を浮き彫りにした.世界の先頭を走り続ける超高齢社会のわが国.今回ふれられた「高齢者の至適BMI」はおそらく初めてのアナウンスであろう.また少子化社会をふまえ,小児の栄養療法の特異性,重要性も今回強調された.それ以外にも多くの病態やデバイス開発の成果などが,本号でクローズアップされた.
 しかし,実は栄養指標がアウトカムの予想指標であることは,小児と高齢者というライフステージの両端だけではなくて,その間で病に苦しむすべての弱者に差しのばされる救いの一手,栄養療法従事者からのプレゼントになるに違いないと期待する.
 さて私たちがつぎにすべきことはなにか.たくさんおられる患者さんのうち一体どの方に優先的に,どのような栄養療法を,どのタイミングで行えば,最適な未来,最良のアウトカムを出せるのか.いいかえればアウトカムをしっかりと視野にとらえた栄養療法こそが,社会構造の変化に耐える強力なパワーをもちえるような気がしてならない.
 いまや栄養療法の臨床における有用性はつぎつぎと明らかにされはじめている.栄養療法の最新情報こそは,切れ味鮮やかなメスとなり,あなたの見事なメスさばきによって,見事なアウトカムを出すに違いない.
 本号が,その確かな足元を支える礎となることを強く信じてやまない.
 最後になりましたが,超多忙を極める臨床現場から玉稿をお寄せくださったすべての先生方に心より感謝申し上げます.

 武庫川女子大学 生活環境学部食物栄養学科
 雨海照祥
 Amagai,Teruyoshi
 まえがき 雨海照祥
1 栄養療法の現況
 栄養管理実施加算―その現状と課題 中村丁次・他
 稼働中のNST―つぎのステップは 東口志
 がん対策基本法と栄養療法 大村健二
 NSTと地域連携―岐阜県関市の現況と課題 齋藤雅也
 蛋白代謝を考慮した栄養療法―侵襲下における栄養療法の宿命的限界と効果 寺島秀夫・他
 TOPICS エビデンスとガイドラインの意味 中山健夫
2 栄養指標・アセスメント
 高齢者にとって至適BMIはいくつか 佐々木 敏
 小児におけるアウトカム指標としての予後推定栄養指数―小児におけるPNIの意義 脇田真季・他
 Mini Nutritional Assessment(MNA)―高齢者のアウトカム指標としての栄養判定基準 雨海照祥
3 経腸栄養
 外科的侵襲期に有用であると考えられる新しい経腸栄養剤に含有される栄養素と経腸栄養剤の臨床的効果 櫻井洋一・鶴田 啓
 栄養剤の形状と用語の統一 合田文則・他
 小児外科領域におけるプロバイオティクスの臨床応用 金森 豊
 抗酸化栄養療法とその可能性 松本重清
 重症病態における経腸栄養 小谷穣治
 濃厚流動食による銅欠乏症-濃厚流動食による胃瘻栄養中に貧血と白血球減少症で発症した亜鉛製剤ポラプレジンク投与による銅欠乏症の一例を通して 河合勇一・他
4 PEG
 半固形化経腸栄養剤の現状と今後の課題 合田文則・犬飼道雄
 在宅医療とPEG管理 小川滋彦
 胃瘻造設と口腔ケアの効果 中村文泰・他
 TOPICS コンプライアンスとアドヒアランス 佐野喜子
5 静脈栄養
 中心静脈栄養法トラブル回避のポイント 井上善文
 脂肪乳剤の効果-臨床アウトカムにおける意義と課題 雨海照祥・他
6 ライフステージ別栄養管理
 高濃度調製乳とその有効性 谷口章子・他
 超高齢者の周術期栄養管理 冨澤勇貴・池田健一郎
 超高齢者周術期管理における経腸栄養―超高齢者における諸機能の低下を勘案した経腸栄養管理のポイント 西田康二郎・他
7 特殊病態時の栄養療法
 非アルコール性脂肪肝炎:NASH 宇都浩文・他
 バーチャル症例検討 60歳・NASHの女性 利光久美子
 クローン病における経腸栄養剤使用の新機軸 田井真弓・他
 ALS患者の栄養管理の特殊性 沖野惣一・湯浅龍彦