やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

DENVER IIの発刊に当たって
 前日本小児保健協会々長
 母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所々長
 平山宗宏
 1994年10月,私はHelen M.Wallace教授の招きで,米国公衆衛生学会に出席して日本の母子保健について報告し討議する機会が与えられた.そしてFrankenburg教授にお目にかかった折り,DDSTの改訂版“DENVER II”が完成したので,日本でもぜひ標準化して使って欲しい,小児科医で企画してもらいたい,との依頼を受けた.
 小児科医が中心になって標準化を行うとすれば,また全国規模で実施することになれば,日本小児保健協会に依頼するのがもっとも適切だし,実用化の暁には当然版権などの交渉が必要になると考えたので,帰国後すぐに乳幼児の発達の専門家であり,当時協会の副会長であられた清水凡生教授に相談申し上げ,また版権等出版に関わる交渉を日本小児医事出版社にお願いする方向で,清水副会長にご一任してしまった,というのがこの話の発端の経緯である.
 正に丸投げでのお願いであったが,清水副会長は快くお引き受け下さり,日本小児保健協会内に発育委員会を組織され,その委員の方々と共に7年余りの歳月をかけて標準化した日本版を完成して下さった.
 ここに清水副会長とご協力下さった多くの先生方に厚くお礼申し上げると共に,この日本版DENVER IIが広く活用され,わが国の小児保健の現場で役立つことを願っている.


序文
 日本小児保健協会々長
 前川喜平
 小児の日常診療,乳幼児健診,育児相談などの多くの場面で,子どもと接している人はその子どもが正常に発達しているかどうかの必要性に迫られることがある.この場合,自分の方法や健診票のチェック項目で確認するが,発達に疑問が生じた時はどうするであろうか.専門家に直ちに紹介するのも良いが,その前に本当に発達に問題があるかどうか,発達のどの部分が遅れているかのスクリーニングを行う必要がある.この目的のために作成されたのがDENVER IIである.
 この度,日本小児保健協会発育委員会が中心となってDENVER IIのわが国における標準化が行われた.その結果を纏めたのが本書である.このような意味での発達スクリーニング法としてわが国では津守・稲毛式,遠城寺式,デンバー・スケールなどが使用されている.この中でデンバー・スケールは世界54カ国で採用され,15カ国以上で標準化されている国際的な発達スケールであるばかりでなく,発達を個人・社会,微細運動・適応,言語,粗大運動の分野に大別し,各項目ごとに25%,50%,75%,90%の通過月齢で現わしてあるので発達を理解し易い利点がある.我々が行った標準化は完全なものではない.使用しているうちにminor changeが必要となることも予測される.
 企画以来,長年に亘り,標準化に携わってこられた発育委員会の諸氏に心より感謝する次第である.本法が地域における小児保健の諸活動に使用され,健康志向と育児支援の小児保健に役立つことを願ってやまない.



 日本小児保健協会発育委員会委員長
 清水凡生
 当時の日本小児保健協会平山宗宏会長からDENVER IIの日本における標準化を行うことを目的として構成された発育委員会の委員長を命じられた.慣れない仕事でいささか躊躇したが,幸い委員の方々は,この領域に精通した方ばかりであったので,この方々を頼りに引き受けることにした.それが平成8年のことであった.
 初版のDDST(Denver Developmental Screening Test)以上の普及を図って欲しいとの原著者の希望があるとのことで,そのためには協会で作成するよりも,出版社からの販売路線に乗せることが必要であろうということになり,小児保健関係の出版に経験豊富な日本小児医事出版社に依頼していただき,具体的な作業が始まったわけである.
 その後版権問題などで紆余曲折があり,意外に年数を要したが原本が届き,発育委員会でその翻訳をすることになった.その席で,翻訳は高知医科大学と神戸大学医学部の小児科学教室で引き受けるべきであろうと提案していただき,標準化への道を,予想以上に早々に開いていただいたのが,当時の高知医科大学小児科学教室の故倉繁隆信教授である.その後,調査にも積極的にご協力をいただき,心から感謝している.神戸大学の中村肇教授も快く承諾してくださった.この原本の翻訳が,標準化・出版作業の基礎をなすものであったが,翻訳に当たってくださった両大学の4人の先生方に厚くお礼を申し上げる次第である.
 この翻訳本を基にして,委員会で我が国における観察項目の選定を行い,各委員の方々にそれぞれの地域で判定者の養成をお願いし,一連の標準化調査を進めていただいた.この作業が今回の標準化・出版に関する仕事の中心であったことはいうまでもない.しかもこの作業は多くの人手と時間を要し,また,調査対象児をも集めなければならないという難作業である.それにもかかわらず,2,000名余の0歳から6歳までという広い年齢層の子どもたちについて資料を集めていただいた発育委員会の各委員の方々には深甚なる謝意を表するものである.この資料の統計処理には呉大学社会情報学部上岡洋史教授にご協力をいただいた.どのように整理すべきか悩んでいたが,上岡教授に相談したところ,たちどころに統計法をご教授いただき,その仕事を全くのボランティアで快くお引き受けくださった.最後の段階を解決していただき深く感謝している.
 出版に当たっては,日本小児医事出版社の坂田和信氏に並々ならぬお世話をいただいた.書籍の形に整えることができたのはすべて同氏のお陰であり,厚く御礼申し上げる.
 DENVER IIの標準化・出版作業はこのように極めて多くの方々のご支援とご協力によって完成した.いくらお礼を申し上げても足りない思いである.また,最後になったが故倉繁教授のご冥福を祈るとともに,ようやく完成した本書を捧げたい.
 日本小児保健協会発育委員会委員
  荻原正明
  小渡有明
  加藤則子
  川井 尚
  故 倉繁隆信
  齋藤泰子
  故 清水凡生
  故 田中義人
  中村 肇
  故 南部春生
  畠山富而
  阪 正和
  満留昭久
 原著翻訳者
  神戸大学小児科
   河田知子
   宅見晃子
  高知医科大学小児科
   浜田文彦
   吉村加与子
 統計処理担当者
  呉大学社会情報学部
   上岡洋史
 標準化調査協力者
  安藤朗子
  伊藤隆子
  小屋畑敦香
  鎌田晶子
  佐々木慶子
  鈴木眞弓
  千葉宮子
  堤 道子
  恒次欽也
  成田有里
  畠山千穂子
  福井聡子
  松岡道子
  安元佐和
  吉田弘道
 (氏名の一覧はすべて五十音順)


はじめに
 DENVER IIは1967年に出版されたDenver Developmental Screening Test(DDST,デンバー式発達スクリーニングテスト)の改訂版である.
 初版のDDSTは潜在的発達障害を客観的に明らかにするための補助手段として出版され,世界でも多くの国々で利用された.また,多くの小児保健関係の教科書や書籍でも紹介されている.
 この発達スクリーニング法の記録票は,子どもが年齢が長じるにつれて発達する種々の行動を「個人-社会」,「微細運動-適応」,「言語」,「粗大運動」の4分野に分類し,それぞれの行動について25%〜90%の達成率を示す標準枠を階段状に図示してある.そのため,発達の個人差とともに行動発達の時系列的変動が明瞭に示されているため,スクリーニングの方法としてのみならず,子どもの発達を示す教材としても利用されている.
 しかし,初版のDDSTは,現時点でみると子どもの発達状況も大きく変化しているし,いくつかの改定すべき点もあるため,第2版がDENVER IIとして出版された.
 今回,このDENVER IIを日本の子どもについて標準化し,日本版として出版されることになった.このスクリーニング法は,本来,IQ検査等とは違い行動能力や知的能力を測定する検査ではなく,また,発達障害を診断するものでもない.種々の行動課題について同年齢の子どもと同様の発達段階にあるか否かを判定し,発達に問題がある子どもを早期に発見して,的確に対応するための方法として考えられたものである.初版には表題にTestの語が使用されているが,改訂版では,単にDENVER IIとなり,検査の雰囲気を排している.
 日本版の翻訳,標準化,出版に際しても,この意志を尊重し,できるかぎり「検査」,「試験」,「診断」等の言葉を使わなかった.また,本法の説明,解説の執筆についてもこの意向を重視した.したがって,日本語版の表題もDENVER II(デンバー発達判定法)のみとした.
 DENVER IIには解説・説明書としてTraining Manual(研修用マニュアル)とTechnical Manual(技術マニュアル)とが出版されている.前者はこの方法を使用する判定者の養成用に作成されたものであるが,この判定法の特徴,臨床的応用等とともに,本法を用いて発育状況を判定する際の子どもの観察法が述べられている.また,後者は本法作成の基礎理論や改定の理論的根拠,および標準化の統計的背景などが詳細に述べられており,研究者を対象に書かれている.
 本書は,主にDENVER IIの使用法を解説したもので,Training Manualを中心に翻訳したが,必要に応じてTechnical Manualの内容も要約して翻訳してある.勿論,DENVER II日本版の標準化については,翻訳ではなく作成の経過,標準化法などについて,新たに記述した.
 (清水凡生)
 はじめに
I 原著の作成過程
 作成の目的
 改訂版作製の理論的根拠
 見直しと再標準化の目標
 作成法
 特徴
 長所と限界
 DENVER IIと予備判定票を用いた二段階スクリーニング法
 判定者の研修
II 日本版の作成過程
 観察項目の検討
 標準化のための標本
 結果の統計処理
 標準化の結果
III 判定の実施法
 判定用具
 記録票
 子どもの暦年月齢の算出と年月齢線
IV 判定法と総合的判断
 判定法の概要
 判定結果の判断
V 観察項目の判定法
 個人-社会
 微細運動-適応
 言語
 粗大運動
VI 予備判定法
 使用の目的
 判定方法
 予備判定票