やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 睡眠心理生理学会(Association for the Psychophysiological Study of Sleep:略称APSS)の発会式は,1960年に睡眠段階の標準的判定法を定める目的で開かれた.当初の予定では実験成績を討議するはずだつたのだが,発起人たちはそのかわりに,今後最新の知見を発表するために毎年会を開くことをきめた.
 標準的判定法の必要は,ある睡眠段階の判定がひどく不確定であることを明らかにしたMonroe(1967)によつてふたたび強調された.この不確実さが問題になつて,その年のAPSSで判定に関する特別委員会がつくられた.つづいて,この問題をあつかう委員会がCalifornia大学脳情報サービス部の援助で組織され,睡眠研究者たちによつて広く使われるような用語と判定法を定めることになつた.委員は何度も集まり,また頻繁に情報を交換しあつた.委員会のメンバーは次の諸氏で,いずれも睡眠記録の判定については多くの経験をもつ人々である.
 Ralph J.Berger,Ph.D.:California,Santa Crus,California大学,Crown カレッジ,心理学講座
 William C.Dement,M.D.:California,Palo Alto,Stanford大学医学部,精神医学講座
 Allan Jacobson,M.D.:California,Los Angeles,California大学医学部,解剖学講座
 Laverne C.Johnson,Ph.D.:California,San Diego米海軍病院,神経精神医学研究部門
 Michel Jouvet,M.D.:France,Lyon大学医学部,実験医学講座
 Anthony Kales,M.D.: California,Los Angeles,California大学医学部,精神医学講座
 Lawrence J.Monroe,Ph.D.:Illinois,Chicago,Illinois大学医学部,心理学講座
 Ian Oswald,M.D.:Scotland,Edingburgh,Edingburgh大学,精神医学講座
 Allan Rechtschaffen,Ph.D.:Illinois,Chicago,Chicago大学,精神医学講座および心理学講座
 Howard P.Roffwarg,M.D.:New York,The Bronx,Montefiore病院,Albert Einstein医学センター
 Bedrich Roth,M.D.:Czechoslovakia,Prague,Charles大学医学部,精神医学講座
 Richard D.Walter,M.D.:California,Los Angeles,California大学医学部,内科学講座神経医学部門
 われわれの委員会がこの提案を用意したのは,記録手技と判定基準の規格化が広く利用され,各地の研究者の成績がお互いに十分比較できるようになることを期待したからである.このような規格化がどれほど判定の信頼度に貢献するかの評価は,この方法による成績と経験的なテストの積みかさねを待たねばならないだろう.
 委員長 Allan Rechtschaffen
 同 Anthony Kales

はじめに
 これまでの10年間に発表されてきた睡眠段階の広範な研究の中で,論文相互の連関性を保証するために当委員会が指導原則としたのは,もつとも多く用いられてきた用語と判定基準をできるだけ保存することだつた.実際,Dement-Kleitman(1957)の睡眠段階に関する記述が,あまり修正されることもなく,何百人という研究者の10年間にわたる多くの研究で有効だと証明されてきたことは,彼らの正確さと判断の正しさを裏づけている.全体として本書の提案は,睡眠をいくつかの段階にわけたDement-Kleitmanによる判定基準の再確認であり,この方式に従つて行なわれてきたこれまでの10年間の経験から必然的に生じたいくつかの改訂と細目がつけ加えられている.Dement-Kleitmanの睡眠段階判定基準を用いた研究は,Loomis,Harvey&Hobart(1937)が初めて認めた事実,すなわち,睡眠は単一の恒常状態ではないこと,睡眠の諸段階はかなり順序正しく周期的なパターンを示すことを確認した.睡眠各段階の意義はまだ十分にはわかつていないが,各段階に特異な生理学的および行動上の諸現象が見出された.睡眠各段階について述べる以下の章では脳波変化を強調しているが,最終的に睡眠の意味をよりよく記述できるのは,脳波よりむしろこれらの関連現象であろう.
 本書で提案する用語と判定基準は,それらと異なる用語や判定基準を使う独自の理由をもつている研究者を束縛するものではない.しかし,本書の用語と判定基準からはずれるときには,それを明記することが強く望まれる.このように相違点を明確にすることによつて,個々の研究の成績の比較が容易になるだろう.
 各種の動物の間で,睡眠段階のあらわれ方を比べることはかなりの程度可能ではあるが,しかし大多数の種については相違が著しく,それぞれ別個の判定基準が必要である.本書の提案は成人を対象としている.しかし,ヒトの間でさえ,ここに提案した睡眠各段階のポリグラフ記録よりも,さらにいつそうの記述あるいは細目を必要とする個人または集団がみられる.このような場合には,確立されたカテゴリーがあるからといつて,その現象独自の特徴をよりよく記載する努力を妨げるものではない.たとえば幼児のポリグラフが,本書で提案した判定基準による分類の枠の中に入らぬことは広く知られている.ここで提案した体系に厳密に従うことは,幼児睡眠の記載にはふさわしくないだろう.
 序
はじめに
用語
 脳波用語
 覚醒・睡眠段階(Stages)
記録手技
 脳波記録
 眼球運動の記録
 筋電図の記録
判定基準
 1頁ごとの判定
 Stage W
 運動時間(movement time:MT),体動,運動覚醒
 Stage1
 Stage2
 Stage3
 Stage4
 Stage REM
 Stage REMと睡眠紡錘の混在
 Stage REMの始まりと終り
 論文のスタイル
おわりに
付図
 訳者あとがき