やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第1版の序

 公衆衛生といえば,かつては乳幼児を筆頭にすべての人びとの延命を第一の目標としたものであったが,わが国では今やその目標はほぼ達成されて,世界でも有数の低乳児死亡率や高平均寿命を享受できるような時代となってきた.当然のことながら,公衆衛生の目標も高齢化対策や人生の質(quality of life)の向上などに向けられつつあるわけで,問題はこのような目標の変化に公衆衛生従事者がいかに適切に対応するかということであろう.
 公衆衛生学とは,公衆衛生活動の理論的根拠となるべきものであるが,上述したような意味では公衆衛生学も日々新たでなければならないし,事実これほど変動の激しい学問も珍しいかもしれない.今日の公衆衛生が多くの職種の人たちのチームワークによって支えられていることは周知の通りであるが,共通の学問である公衆衛生学をそれぞれの立場から勉強していただき,変貌する公衆衛生の目標にどう対応すべきかを考えてほしいというのが本書を出版した編著者らの願いである.
 本書は,主として栄養士ならびに管理栄養士をめざす人たちを対象に編さんされており,その内容構成は厚生省が定めた栄養士・管理栄養士養成カリキュラム(昭和62年改正)に忠実に従っている.すなわち,全体を15の大項目(章に相当)に分け,1項目平均3時間の講義で合計45時間,4単位となるように配列した.中項目(節に相当)は当初の予定より増えて全体で63項目となったが,いずれにしても大項目間あるいは中項目間で記述の長さにアンバランスのある点は今後改訂する必要があるかと考えている.今回は,講義時間の配分などで調整していただければ幸いである.
 本書は,もともと医歯薬出版から同じ目的で昭和43年以来出版されていた「公衆衛生学」(曽田長宗・重松逸造・黒子武道著)を全面改訂する意図で準備が進められていたが,公衆衛生分野の急速な変化と進展を考えて,それにふさわしい新著者による新著ということに方針を切換えたものである.現在,公衆衛生の第一線で活発に活躍しておられる3著者の執筆になる本書は,読者各位のご期待に十分そいうるものと確信している.本書について,忌憚のないご意見をお寄せいただければ幸いである.
 1990年3月 重松逸造

第2版の序

 本書の第1版は1990年3月に出版されたので,現在まですでに10年以上を経過したことになるが,この時期は20世紀最後の10年間ということもあって,21世紀へ受け継ぐための変革がいろいろな分野で試みられてきた.その結果については,いずれ厳正な評価がくだされねばならないが,このような変革に対する迅速,適切な対応が今日の公衆衛生学にも求められていることは確かといえよう.
 この時期における変革で最も目立つことの一つは,人口高齢化の急速な進展に対する対応措置で,公衆衛生の分野においてもいくつかの対策や提案が行われている.保健,医療,福祉の連携強化もその一例で,このような立場から高齢者介護を一元的に実施することを目的とした介護保険制度が2000年4月より発足したことは周知の通りである.
 また,2000年3月には厚生省によって「健康日本21」がとりまとめられた.これは,21世紀を迎えるに当たり,すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会をつくるため,生活習慣を改善して健康な寿命を延ばそうという,「一次予防」に重点を置いた健康づくり運動である.10年後(2010年)の達成を目指した目標値が具体的に設定されており,公衆衛生の実践活動に大きな期待が寄せられている.
 以上のほかにも,この10年間で問題となったトピックスとしては,新興・再興感染症,内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン),健康危機管理体制などがあり,また2001年1月よりはわが国の中央省庁が1府12省庁体制に再編成されたことは,1885年における内閣制度誕生以来の大改革といってよい.公衆衛生分野に関係の深い厚生省と労働省が統合され,厚生労働省として再発足したが,縦割り行政の弊害が除かれて,たとえば地域保健と産業保健の密接な連携が期待されている.
 本書の第2版では,3人の著者がそれぞれの分担にしたがって,これらの変革にできるだけ対応するように努力していただいたが,変革途上の問題も少なくなく,これらは次の改訂の機会まで待たざるを得ないことになった.読者各位の御了承をお願いする次第である.
 なお,本書体裁の変更として,第2版では2色刷りを採用し,また文頭にキーワードを出すなど,読みやすくしたつもりである.これらフ点についても,読者各位の御意見をお寄せいただければ幸いである.
 2001年1月 重松逸造
 第2版の序…iii
 第1版の序…iv

CHAPTER1 公衆衛生の意義
 I.公衆衛生の定義と目的
 II.健康と公衆衛生
 III.疾病予防の段階
 IV.健康管理

CHAPTER2 公衆衛生の歴史
 I.外国の歴史
  1.古代
  2.中世
  3.17世紀,18世紀
  4.19世紀
  5.20世紀
 II.日本の歴史
 III.年表(要約にかえて)

CHAPTER3 人口と公衆衛生
 I.人口の動向
 II.人口増減の要因
 III.人口構造と人口指標
 IV.人口の高齢化と公衆衛生

CHAPTER4 衛生統計
 I.衛生統計の意義
 II.人口静態統計(国勢調査,センサス)
 III.人口動態調査
  1.概要
  2.出生
  3.死亡
  4.乳児死亡,死産,周産期死亡
  5.婚姻,離婚
 IV.生命表
 V.疾病統計
 VI.国際疾病分類

CHAPTER5 疫学
 I.疫学の意義
 II.疫学指標
 III.疫学調査方法
  1.記述疫学
  2.分析疫学
 IV.率の標準化
 V.因果関係の判定
 VI.感染症の疫学
  1.感染症の概念
  2.感染経路
  3.免疫

CHAPTER6 衛生行政
 I.衛生行政の組織
 II.衛生行政活動
  1.概要
  2.保健所の活動
  3.市町村の活動

CHAPTER7 公衆衛生活動
 I.母子保健
  1.母子保健の目的
  2.母子保健の現状
    1)乳児死亡
    2)幼児死亡
    3)周産期死亡
    4)妊産婦死亡
  3.母子保健対策
    1)母子保健行政のあゆみ
    2)母子保健対策の現状
  4.未熟児と心身障害児
    1)未熟児(低体重児)
    2)心身障害児
 II.成人保健
  1.成人保健の目的
  2.主な成人病(生活習慣病)とその対策
    1)悪性新生物(がん)
    2)循環器疾患
    (1)心疾患
    (2)脳血管疾患(脳卒中)
    3)糖尿病
 III.老人保健
  1.老人保健医療対策のあゆみ
    1)老人保健法
    2)老人保健事業
    3)寝たきり老人ゼロ作戦
    4)老人保健福祉計画
  2.老人保健施設
    1)老人保健施設の概要
    2)老人保健施設の整備状況
  3.老人訪問看護制度
  4.痴呆性老人対策
    1)調査研究の推進と予防体制の整備
    2)介護家族に対する支援方策の拡充
    3)施設対策
    4)その他の基盤整備
  5.高齢社会対策基本法
  6.老人福祉対策
    1)在宅福祉対策
    2)社会活動促進事業
    3)施設福祉対策
 IV.感染症
  1.感染症対策のあゆみ
  2.感染症の最近の動向
    1)主な感染症の最近の動向
    2)検疫感染症
    3)ウイルス性肝炎
  3.感染症対策の現況
    1)感染症新法の制定の背景
    2)感染症新法のポイント
    3)検疫
    4)予防接種
    5)感染症流行予測事業
  4.感染対策の展望
    1)新法の制定・施行
    2)健康危機管理実施要項の策定
    3)国立感染症研究所の改組設置
 V.結核
  1.結核対策のあゆみ
  2.結核のまん延状況
    1)結核死亡
    2)結核登録者
  3.結核対策の現状
    1)健康診断・予防接種
    2)患者管理
    3)結核医療
    4)結核発生動向調査の実施
  4.今後の結核対策
 VI.エイズ(AIDS)
  1.エイズ(AIDS)の現状と将来推計
  2.わが国のエイズ(AIDS)対策
  3.「エイズストップ7年作戦」の展開
 VII.難病
  1.難病対策の沿革
  2.個別の特定疾患対策
    1)調査研究の推進
    2)医療施設の整備
    3)医療費の自己負担の軽減
    4)地域における保健医療福祉の充実・連携
    5)QOLの向上をめざした福祉施策の推進
 VIII.精神保健
  1.精神障害者の現状
  2.精神障害者の医療
    1)入院医療
    2)通院医療
    3)精神科デイ・ケア
    4)精神科救急医療
  3.地域精神保健福祉対策
    1)保健所
    2)精神保健福祉センター
  4.精神障害者福祉および社会復帰対策
    1)社会復帰施策
    2)地域生活および自立に向けての援助ならびに精神障害者福祉
    3)障害者プラン

CHAPTER8 学校保健
 I.文部科学省の役割と組織
 II.学校保健の目的
 III.学校保健統計からみた児童・生徒の健康
  1.死亡
  2.傷病
  3.体格
  4.体力
 IV.学校保健対策(現状と問題点)
  1.学校保健の領域
  2.保健教育
    1)保健学習
    2)保健指導
    (1)特別活動
    (2)教育課程以外の活動
  3.保健管理
    1)健康診断
    (1)時期
    (2)検査項目
    (3)事後措置
    2)健康相談
    3)伝染病予防
    (1)出席停止
    (2)臨時休業
    (3)消毒その他の適切な処置
    4)予防接種制度と学校のかかわり
    5)学校環境衛生
  4.学校保健活動の推進
    1)腸管出血性大腸菌感染症の学校保健上の取り扱いについて
    2)エイズ教育の推進
    3)学校歯科保健活動の推進
    4)要保護,準要保護児童・生徒の医療費補助
    5)へき地学校保健管理費補助
    6)児童・生徒の健康増進特別事業
  5.学校体育
    1)特別活動
    2)教育課程以外の活動
    3)学校体育施設
  6.学校給食
    1)実施状況
    2)学校給食と新教育課程
    3)米飯給食の導入
    4)学校給食における栄養摂取状況
    5)衛生管理推進事業の概要
 V.学校安全
  1.安全教育
    1)安全学習
    2)安全指導
    (1)生活安全に関する内容
    (2)交通安全に関する内容
  2.安全管理

CHAPTER9 労働衛生(産業保健)
 I.労働と健康
  1.労働条件
    1)労働時間
    2)休憩および休日
    3)夜業および交替制
    4)作業適性
  2.労働環境
    1)換気の基準
    2)工業毒の許容濃度
    3)労働環境の清潔と整頓
 II.疲労
  1.産業疲労の原因
  2.疲労測定法
  3.疲労対策
 III.職業病
  1.職業病の分類
    1)労働環境に起因するもの
    2)労働条件に起因するもの
    3)労働者の身体条件に起因するもの
  2.主な職業病
    1)熱中症
    2)赤外線による白内障
    3)紫外線による電光性眼炎
    4)放射線障害
    5)潜函病
    6)騒音・振動による職業病
    7)じん(塵)肺
    8)工業中毒
    (1)一酸化炭素中毒
    (2)鉛中毒
    (3)水銀中毒
    (4)アニリンとニトロベンゼン中毒
    (5)ハロゲン化炭化水素中毒/
    (6)ベンゼン中毒とその同族体による中毒
    (7)クロム中毒
    (8)青酸中毒
    (9)情報処理機器の普及と健康対策
    (10)作業関連疾患
    (11)ダイオキシン類対策
 IV.労働災害
  1.労働災害の原因
  2.労働災害による死傷者数の推移
    1)産業別の状況
    2)規模別の状況
  3.労働災害の予防
  4.労働災害の補償
    1)労働保険制度
    2)労災保険の事務機関
    3)業務上の負傷と疾病
 V.労働安全衛生対策(現状と問題点)
  1.労働衛生法規の変遷
  2.労働衛生行政
  3.労働衛生管理
  4.作業環境改善の推進
  5.中小企業に対する助成制度
  6.産業医学の振興および健康管理の質の向上
  7.産業保健センター
  8.労働者の心身両面の健康保持増進対策

CHAPTER10 環境衛生
 I.環境衛生の意義
  1.環境衛生の概念
  2.人間と環境の相互作用
 II.空気
  1.空気の組成
  2.空気の物理的条件
  3.快適な空気
 III.水
  1.生体における水の意義
  2.上水道
  3.その他の問題
 IV.汚物処理
  1.汚物処理とは
  2.下水処理
  3.し尿処理
  4.ごみ処理
 V.動物と感染症
  1.そ(鼠)族とその対策
  2.衛生害虫とその対策
  3.人畜共通感染症
 VI.衣服の衛生
  1.衣服衛生の意義
  2.体温調節機能の補助
  3.皮膚の保護
  4.活動の自由
 VII.住居の衛生
  1.健康的な住居の基本的条件
  2.敷地および日照
  3.屋内気候
  4.採光と照明

CHAPTER11 公害
 I.公害の意義
  1.公害とは何か
  2.公害の歴史
 II.大気汚染
  1.大気汚染の原因
  2.大気汚染による健康影響
  3.硫黄酸化物
@ 4.窒素酸化物
  5.光化学オキシダント
  6.放射線
 III.水質汚濁と土壌汚染
  1.水質汚濁と汚濁の指標
  2.自浄作用と富栄養化
  3.食物連鎖と生物濃縮
  4.水俣病とイタイイタイ病
 IV.騒音・振動および悪臭
  1.騒音および振動
  2.悪臭
 V.地球レベルの環境破壊
 VI.公害対策
  1.公害対策の原則
  2.環境基準と排出基準
  3.環境影響評価
  4.公害による健康障害の補償

CHAPTER12 衛生法規
 I.衛生法規概論
  1.衛生法規のしくみ
  2.衛生法規の例(管理栄養士国家試験について)
  3.衛生法規の内容
 II.現行の公衆衛生および関連領域に関する法規
  1.現行衛生法規の分類
  2.一般衛生法規
  3.環境保全・公害防止関係法規
  4.学校保健関係法規
  5.労働衛生関係法規

CHAPTER13 国際衛生
 I.保健医療活動における国際協力
  1.国際協力のしくみ
  2.国際交流
  3.国際協力
  4.今後の国際協力のあり方
 II.世界保健機関(WHO)
  1.沿革
  2.組織
  3.WHOの事業活動とプライマリーヘルスケア

CHAPTER14 社会保障・社会福祉
 I.社会保障・社会福祉の概念と意義
  1.社会保障・社会福祉の概念
  2.社会保障の意義
 II.社会保険
  1.社会保険の歴史
  2.医療保険
  3.医療保険制度の問題点
  4.医療保険以外の医療保障
  5.年金保険
 III.社会福祉と保健医療
  1.概論
  2.児童福祉・母子福祉
  3.老人福祉
  4.心身障害者福祉
  5.行政組織
  6.21世紀の福祉ビジョン

CHAPTER15 医療制度
 I.医療サービスの制度
 II.医療施設
 III.医療従事者
 IV.国民医療費

 索引